二章
一、無が呼び寄せる裏の影
朝のホームルーム。
「えー、このクラスからアキヒロ・カザキリがイベントに出たんだが、不戦敗で最下位だったが見事、武芸学科の一人を倒した。まあ退学になってなかったことになっているが事実は変わらない。みんなも頑張れよ」
その言葉に反抗期を迎えた子供のように答えた生徒がいた。
「先生、俺らは生産商業学科なので強くなる必要ありませーん」
「バカ共が身を守る為に大事なことだが、武器職人には一番重要だ。カザキリ言ってみろ」
詰まらなそうに頬杖付いて眺めていた所、ベルセリアに当てられ、顔を机に打ちかけた。
「はっ?武器職人が強くならないといけない理由?作った武器の良さを知る為だろ」
面倒臭そうに答える秋祐。好奇の視線が二つ刺さるのが気になり目を向けると双子の姉妹が興味ありげに見ていた。
「は~、武器を上手く扱えなかったら武器の欠陥に気付いて直すことができない。簡単に言うと売れない。先公これでいいか」
言い終えると名簿帳が飛んできた。
「年配には敬語使え」
「っつあぁ!」
轟音を放った名簿帳を拾うと秋祐はベルセリアに全力で投げ返す。
「先公、手加減ってものを知らねえのか」
ベルセリアは片手で名簿帳を受け取ると再び秋祐に投げ返し轟音が響く。
「敬語使えと何度言ったら分かる。手加減はしてやってんだぞ」
「うるせえ、角に当たらないようにすることが手加減の内に入るか。全身で投げてる癖に」
「はは、避けられたら意味がないだろ」
「こっちは名簿帳の回転の摩擦で顔がヒリヒリするっつうのに」
それだけではない。秋祐の顔は他人に見せられないくらい真っ赤になっている。
「っとここまでにするか。カザキリ、お前今日から製作部屋が使えることになったから活用しろよ」
「は?」
武器を作る為にある部屋。優秀な生徒にだけ与えられる部屋だが秋祐は成績を残しておらず、イベントで使用した刀も自分が打ったと言った覚えもない。なのに秋祐に部屋が渡ることは何かがおかしい。確かにあの刀の製作者は秋祐なのだが、
「こうなったには理由がある。あの剣が原因だが、武芸学科の教師達が難癖つけてきてな、生産商業学科だけで独占するな、なんて言われてな。こっちはあの時初めて存在を知った、て言ってるんだが」
独占してるのは秋祐ただ一人なのだが、アリサにやったのは一本だけで春樹達の為に打った刀も今は秋祐が預かっている。
武芸学科のヤツらは秋祐の武器を奪い取ろうとしているのだろうか。
「あれはもう二度と作らない」
秋祐はあの闘いでまた傷が増えた右腕を押さえる。今は傷が増えるだけで済んでいるが、もしかしたらあれを握ったことで何かを失うかもしれない。それが秋祐にとっての恐れていることだった。
「作る作らないはお前の自由だから何も言わないが、連中は黙ってないと思うぞ」
「はっあれは誰も使いこなせねぇ代物だ。分からないなら死ぬ思いをさせるだけだ」
「そうか、それと最後に一つ、このクラスに転入生を紹介する。入ってこい」
「はい」
少女の声。
ベルセリアに呼ばれて入ってくる。容姿は肩に垂れた金髪の少女。人族にしか見えなかったが、
「神界から来ました。
少女は自己紹介が終わって笑みを見せた瞬間、秋祐は疑問を口にする。
「クラス間違ってねぇのか?」
神族の少女の笑みが少し歪む。
「カザキリ、お前ってやつは」
ベルセリアは頭を抱える。
「確かにこいつの実力は相当なものだが、転入にあたっての要望はお前の横にいれること、だからこのクラスになった訳だ。これも武芸学科に難癖つけられた理由の一つだ。ってことで強制的にこいつはお前の隣りな」
秋祐が言い返そうと口を開いた瞬間、背中に寒気が走る。そう既に神族の少女は秋祐の背後を取っていた。
その少女は秋祐の耳に近付けてこう言った。
「アキヒロ・カザキリ、貴方は私から離れられないよ」
秋祐は何も言えなくなり固まる。
威圧されてはなかったが、それでも恐れた秋祐は彼女の異常を察知していた。
(こいつの魔力……)
それ以上は言えない。魔力の宿主しか理解できない現象で秋祐は何が起こったのか理解ができなかった。
そして昼休み。
「やっぱりあんたこの剣を知ってたんじゃない」
今日今までの休み時間は剣を作ってくれという注文を片っ端から断っていくことの繰り返しだったが、ここにきて初めての文句が飛んできた。
そしてダンっと机を叩き付けられる。そこには剣が押さえつけられていた。
「なんだ」
顔を上げるとそこには剣の持ち主であるアリサ・ベルガイアの怒った顔があった。
「なんだじゃないわよ。なんであんた作った剣ってことを教えてくれなかったのよ」
「欲に溺れるヤツに付き纏われたくなかったから」
強力な力を持つモノに皆手を伸ばし欲を出す。そしてあり得ない手段に手を染め、無理矢理手に入れようとする者もいる。一つ前の休み時間。アズガル・フォンベルとは全く違うベクトルで嫌いな竜族と会っていた。
「おい人族。俺の武器を作れ」
入ってくるなり命令口調で秋祐に剣の製作を要望する竜族の男子生徒。
だが秋祐はその言葉を無視した。
それが気に食わなかった竜族の生徒は秋祐の胸倉を掴んで怒鳴る。
「人族、調子に乗るなよ。俺がその気になればお前など」
そして竜族の生徒は身体が大きくなっていく。竜化が始まったのだろう。普段は人の形をとる竜族だが戦闘時は竜になって闘うのだが、今のこの状況はただの脅しだろう。
秋祐は一度溜息を吐いて言う。
「それ以上はやめとけ、横の化け物がキレるぞ」
「酷いよ私を化け物呼ばわりだなんて」
「化け物は化け物だなら答えてみろお前の魔力は幾つに分かれているんだ」
ウルティナは黙る。
「それが嫌ならこいつを叩き出せ」
ウルティナは秋祐に従い、魔法で校舎の外に出した。
その後、窓の外に黒い焔が立ち上った。
「私が口を割ると思うの」
納得しないアリサに秋祐は呆れてしまう。
「あの時は寮母がいたし名前覚えてないけど双子の姉妹は隠れて見てた。そんな状況で誰が言うか」
「なら後で言えば」
「俺は正体を必要な時以外で晒そうとする命知らずじゃねえ」
秋祐は呆れから怒りに変わって、そして感情は消える。
「すまん。俺がそれを作ってお前にやったから俺が悪いのか。今まで苦労したんだよな婚約や色々、それもう壊して消すから俺に渡せ」
秋祐は理解した。自分が存在してなかったら。武器を産み出してしまったからアリサに迷惑かけてしまったのだと、だから責任としてその原因である剣を没収すればアリサに迷惑がかかることが無くなる。
だから、
「嫌よ」
アリサは秋祐の要求を拒否し、剣を鞘に収めようとした。その瞬間、アリサの視界に光りが走り一瞬の間、風が吹いた。
「その剣はいつまで剣でいられるんだろうな」
秋祐の右手には刀が握られていて、アリサの手には剣がなくなっていた。
アリサの剣は弾かれて黒板に刺さっていたのだ。そしてその剣に近付く二つの影。双子の姉妹がマジマジと剣を眺めていた。
「い、今のあんたがやったの?」
「それがどうした」
アリサは秋祐に詰め寄り肩を掴む。
「どうして実力のあるあんたがこの学科なわけ?武芸学科にきなさいよ」
「魔力の無い俺には武芸学科は無理だ」
「魔力とか関係無いでしょ。ここは実力が全てなんだから」
「チッふざけるな」
頭に血がのぼりキレる秋祐。あまりにも大きな声だった為皆驚いて静寂が訪れる。
「武器に扱いだけが上手くても魔力がない俺は無様を晒し続けるだけだ」
「でも実践で闘ったりするから直ぐに強くなれるわよ」
「どうやっても強くはなれねえよ」
怒鳴ったことを反省してるのか、秋祐は感情を抑えて言う。
「身体で覚えなきゃ、見てるだけじゃ何も身に付かない。それに闘って何もしないで負けても強くなれない」
あの時は魔法を消す刀があったからに過ぎない。今の秋祐では命が亡くなる危うさと隣り合わせだ。
「もうこの話しは終わりだ消えてくれ」
「話しは終わったかしら。どれなら次は私の話しを聞いてくれるかしら」
そう言ってアリサを退かして秋祐の前に来たのは魔王の娘だった。
「なんの用だ」
秋祐は厄介が来たと思い目を合わせずに言う。
「秋祐に頼みたいことがあるの。その前にねえウルティナ、何で貴女ここにいるのかしら?」
魔王の娘はウルティナを睨む。
「ノエルちゃん久し振り」
「貴女、私の言葉が聞こえなかったのかしら?」
「うん聞こえてたよ私がここにいる理由だよね。ノエルちゃんが決めた男を見定める為だよ」
そう言って秋祐を舐め回す様に見る。
「本当は私の秋祐を奪ってこいって言われたのでしょう?」
「それも言われたけど、でもこの男は神界には相応しくないから却下。それに戦争の種になりそうなら始末しろとも言われたね」
秋祐はウルティナから距離を取ろうとしたが、何故か動かない。
そして魔王の娘は大鎌をウルティナに向けて牽制してた。
しかしその大鎌は折れたのか、刃が半分しかなかった。
「でも、ほんの少しの魔力の重圧で動かなくなるなら大したことなかったよ。これなら始末しなくて済むね」
「私は貴女を信用してないのだけど」
「大丈夫だってそれに私もこの人族に興味持ってるんだから」
「そう」
魔王の娘はウルティナとの話しが終わったのか今度は秋祐に大鎌を向ける。
「ねえ秋祐、これと似たモノを作ってもらえるかしら。勿論、その為の鉱石は後で渡すわ。余ったら貴方の物にしていいわ」
大鎌を作ったら対価は支払われる。
それなら作ってもいいだろう。
「分かったそれなら作ってやる」
その言葉を聞くと満足してこの教室から出ようとして立ち止まり振り返る。
「楽しみにしてるわ」
そう言うと変なスキップで去って行った。
「へったくそなスキップだな」
そして放課後。
秋祐はエリスという魔王の娘の侍女から鉱石を受け取るとベルセリアが言っていた秋祐に与えられた部屋へむかった。
入ってみると、そこは一人で使うには弄んでしまうほどの広い空間だった。
「製作部屋ってこんなに広いもんなのか?」
「「私達の部屋より何倍も広い」」
「うぉお!!」
一人と思いごちた瞬間に後ろから返答があったことで驚く。
「いたのか双子姉妹」
秋祐がそう言うと二人とも顔を横に向けて拗ねる。
「クレアって呼ばないと返事しない」
「ソルフィーって呼ばないと返事しない」
「別にいいだろお前らセット呼びで」
「「よくない」」
正直、名前は難しいだろう。顔のパーツは何が違うか分からない。そして何より秋祐が感じてる魔力も同じ、どこに目を付ければ判別できるのだろうか。
「どっちがどっちなのか分からん」
すると双子姉妹は首を傾げる。
「みんな私のことソルフィーって呼ぶよ」
「みんな間違わずに名前呼んでくれるよ」
秋祐は頭に疑問を浮かべながら驚く。他の奴等はどうやって見分けられるんだろうと、きっと秋祐にはみんなにあるものが欠けているのかもしれない。
「それで?」
秋祐は二人の返事を待つが二人は意味が分からず、また首を傾げる。
「お前らがここにいる理由だ」
理解したようで片手を拳をつくりもう片手にポンと置く。
「貴方の作る剣が見たいから」
「いいよね」
「ここでは作らないからいる意味はない。今日は中を見に来ただけだ」
そう言うと二人とも落ち込み、俯きながら自分のか分からないが作業部屋に戻って行った。
「んで、遠くから魔法で覗いてるのが誰か知らんが、盗み見るなら魔法の気配ぐらい消せ。他人の目がある限り俺は作らない」
秋祐がそう言って睨んだ瞬間、部屋に設置されたであろう秋祐を監視してた魔法は薄く光って消えた。
「チッ」
気分を害された秋祐は部屋から出て帰路につく、そして作業部屋の校舎の近くにある倉庫を通りかかった時、足を止める。
色の籠った声が聞こえた。
再び歩き出した秋祐。
「世界はやっぱ色んなことがあるんだな」
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