四、不条理は全て無となる
魔王の娘の襲撃後、一人で学院に向かう秋祐は周りから刺さる視線に晒されていた。
その中でも一つ憎悪に似た感情も混ざっていた。
そして会う先々で種族関係なく噂を口にしてた。
『あの人族が魔王の娘を誑かしたそうだぞ』
『私が聞いたのはノエルさんの弱みを握って脅し、無理矢理許嫁にしたらしいよ』
『へー最低だね』
『そういえばノエルさんが連れてるメイドの一人があの人族に対して怯えてたらしい』
『あの人族何やった?』
『寝込みを襲われたらしい』
『ウワー怖いわー』
と、根も葉もないことばかり飛び交っていた。
「(コイツら、俺をなんだと思っている。もしそうだったとしても──)」
そう苛立ちながら校舎に入る。
秋祐は苛立ちで前を向いていても前に誰かがいたことに気付かず、少女とぶつかってしまった。
ドン
「すまん大丈夫か」
「ひぃ」
少女は秋祐を視界に入れると怯え、尋常じゃないほど身体が震えていた。
「ちっ(こいつは本当に俺を恐怖してる)」
秋祐にとって一番避けたい存在。しかし、その少女の顔に見覚えがあった。
秋祐は少女に顔を近付ける。
入学式が終わった後に見かけた笑顔の少女だ。
一人の時はあんなに笑顔が輝いて見えたのに俺の前では笑顔を見せないどころか逆に恐怖してる。
「レイラ!!」
ドスの聞いた声が響き渡る。
それと同時に少女はビクッっと身体が跳ねる。
秋祐は目の色を変えて声の方向を見るとそこには長身で白髪の男がいた。雰囲気は優しさを纏っているが、それは雰囲気でしかなく、心の底から悪寒が込み上げてくるようだった。
「お、に、い、さ、ま…」
少女の唇は震え上手く言葉が繋がっていない。
「お前はそこで妹と何してる」
鋭い剣の刃のように秋祐に言葉が添えられる。
秋祐は自然と少女の前に庇うように出てしまい身構える。
「人族風情が竜族である私に楯突くのか」
竜族を名乗る男は一歩一歩と秋祐に迫る。
「人族は弱い。弱いくせに守れもしないのに立ち向かおうとする。目障りだ」
竜族の男と秋祐との距離があと二歩の所で校舎の壁が爆発したように破壊され瓦礫が飛んできて破壊された所から黒い焔が燃え広がり竜族の進行を遮った。
「アズガル・フォンベル貴方、私の許婚に何しようとしたのかしら?事によっては貴方の存在を消すことになるのだけれど」
壁を破壊して入ってきたのは魔王の娘のノエルだった。
妖艶に微笑んでいるが、瞳には危険な光を灯していた。
「いや、私の用は妹だから君の許婚に用はない。おい、早くこい」
ちっ!こいつ。
「おいアズガルとやら、待ちやがれ」
秋祐は竜族の男を追おうとしたが黒い焔に阻まれる。
「止めるな。あいつを見てるとイライラするから一発殴りてぇんだ」
「やめなさい。分かってるとは思うけど、貴方ではたった一撃でどうにかできる相手ではないの」
「俺の命に価値はないからどうなってもいい。だが、あいつのやってることが気に食わねえ」
秋祐にとって竜族の男の行動にが何故か嫌悪感を持ってしまう。
ノエルと睨み合ってる間に竜族の二人は角を曲がって消えた。
「なんで止めたんだ」
「あの二人には事情があるの。だから貴方には巻き込まれて欲しくないの」
二人の事情、竜族の間で何かあったのだろうか。
権力争い、産み親が違ったりと色々考えられるが、
「あの二人のことは忘れなさい」
秋祐はノエルの言葉に返事せずにその場をさる。
あの二人を忘れそうになかった。いつか、秋祐の
ノエルは秋祐が見えなくなった後、一人溜息を吐いた。
「はぁ、あの調子じゃどこかで会ったらやり合いそうね」
そう言った後笑みを浮かべる。
「でも、楽しみが一つできたからいいけど」
◇◆◇◆◇◆◇◆
時間は過ぎ去り朝のホームルームで秋祐は担任教師のベルセリアに予想の斜め上なことを告げられた。
「あー(ダルい)秋祐、来週に学院で開催される学院の順位を決めるイベントがあるんだが、もちろん怪我人数えきれないほど出る。そのイベントにお前は強制参加な」
「はあ?」
ベルセリアは今怪我人が出ると言った。つまり闘ってこの学院での序列を決める以外このファンタジーな世界ではあり得ない。
そんな行事に魔力ゼロの秋祐が参加でもしたら……、
「おいてめえ、俺を死なす気か」
秋祐は勢い良く立ちベルセリア教師を睨むが一方のベルセリアは軽くあしらうように言葉を続けた。
「これはもう決定事項だ。文句なら魔王の娘に言え」
魔王の娘、その言葉が出るだけで押し黙ってしまう。
あいつなら力を見せ、俺の参加が認められるまで脅し続けるだろう。その瞬間が目に浮かぶぐらい簡単に想像できた。
だからだろう。竜族と対立したてた時に現れた魔王の娘の機嫌が少し良さそうに感じたのは、
「ちっ」
あいつは何で俺に嫌がらせをするんだ。俺の実力を知る為か、それとも俺が許婚になったからそれを取り消すために死んでもらう為か、そうでなくても何かを企んでいるのは確実だ。
休み時間になり、皆それぞれが目的の為に動き始め、仲良く話したりするなか秋祐は自分の机で沈んでいた。
「よっアキ、て死んでる」
「アキさんはどうなされたんでしょう」
「ここは貧乳の娘ばかりだな。もっとこう、乳がデカい奴はいないのか」
春樹と桜が秋祐の心配してる中、雪斗は秋祐のクラスの女子を品定めしていた。
その所為で大半の女子を敵に回すことになり殺気が籠ったを受けることになった。何故か主に秋祐が、
「雪斗、てめえは俺を疲れさせることしかできないのか?」
「風斬、私達が来た時から何かに参ってたようだが、何かあったのか?」
「ああ、武芸学科じゃない俺が来週に開催されるイベントに強制参加だと」
秋祐は素っ気なく答える。
「なんで魔法が使えないアキに強制参加なんだ?学校は何考えているんだ」
「魔王の娘の圧力で、どうしようもなかったんだと」
「それでも「俺の言う事が聞けないのか!!」」
怒号の声に秋祐達は声の主に目を向ける。向けた先には最近知った双子の姉妹と魔族の男子生徒だった。
「俺様のこの剣をなおせと言っているんだ。貴様ら二人だったら簡単なことだろ」
ただ怯えてるだけの二人、秋祐は魔族の剣を見て目の色を変えた。
──あれなら斬れそうだ。
秋祐は二人の前に立ち魔族の生徒は忌々しく顔を歪める。
「脆弱な人族が、そこを退け。でなければ──」
閃光の一閃が残像を残す。
「でなければなんだ?」
殺気と一緒に言の刃を力強く放つ秋祐。そして右手にはいつの間にか握られた片刃の剣、刀が握られていた。
カラカラカラカラ
乾いた音だけ室内に響く。
「その折れるしかできない剣で俺を斬ろうとでも思っていたのか?」
何が起きたか
秋祐は魔族の生徒の剣を刀身の根元、鍔近くを斬っていた。
「刀身の中まで錆びていて何が家宝だ。名前負けもいい所だ」
「キサマーーー」
魔族の生徒は秋祐に向けて魔法を行使する。
「いいのか?今ここには勇者一行がいるんだが」
「そいつら共々殺せば問題ない」
「無理だな。潜在魔力の桁が違う。お前では遠く及ばない」
「ほざけ!この俺様を誰だと思ってる。ノエル様に次ぐ実力者だぞ」
魔族の生徒は圧力かけようとするが、秋祐は後ずさる所か一歩一歩と踏み出す。
魔族の生徒の魔法が発動し秋祐に迫る多数の小石。しかし秋祐に届くことなく見えない壁に阻まれる。春樹に視線を送るとニッコリ笑顔を秋祐に向けていた。その理由は知っている。秋祐は知っている。あれは我を忘れてしまいそうなほどの怒り爆発寸前であることを。
いつもは初めてあの顔を見た時のことを懐かしく思いだすが、今は目の前の対処しなければならない。
「寝言は寝て言え、お前があいつに次ぐ実力は無い。あいつの侍女にすら勝てない」
そして真っ赤にした顔で怒りを露にしている魔族の生徒は折れた剣で斬りかかろうとする。
「我を忘れた奴の思考は単純すぎる」
秋祐は剣を弾くと懐に潜り柄で顎を強打する。それにより脳が揺らされ魔族の生徒は膝から崩れ落ちる。
事が終わったと思い勇者一行がいる自分の席に戻ろうとしたが、そこで刀を握っている手が掴まれていることに気付く。
双子の姉妹が秋祐が打った刀に興味津々のようだ。
刀は粒子となってマジックボックスに吸収されていく。
「「あぁ~」」
刀をマジックボックスに収納した途端、双子の姉妹は名残惜しそうに肩を落とす。
席に戻ると勇者一行の桜以外が全員目の様子がおかしい。
「アキ、今の刀はどうやって手に入れたんだ?」
「あぁ?手に入れたも何も自分で打って作ったんだよ」
「じゃあさ僕のも作ってくれよ」
「私のもだ」
「俺のも頼む。やっぱり日本人は刀だよな~」
この三人は秋祐が打ってくれると思っているみたいだが、秋祐にその気はない。
「断る。そもそも俺にその時間はない」
「そんなこと言わずさ、僕達の仲だろ」
「時間がないつってるだろ。魔法が使えるお前らと違って使えない俺は武器でしか攻撃できない。なら予備を幾つあっても足りねえ。わりぃが自分のことに集中させてくれ」
「そうだな悪かった。でも無理だけはするなよ」
そう言って引き下がる久遠春樹と申し訳なさそうにする神楽坂千羽耶。しかしどこにでも空気を読まずズカズカと話しに入り込む奴は必ずいる。
「そんなら俺のだけでも作ってくれよ」
・・・・・・
「お前は人の話しを聞いていたのか?バカ斗」
「人の大事な大事な名前にバカを入れ替えんな。んまぁ聞いてはいたけど………お前ならできる」
秋祐の米神に血管が浮かぶ。そして目は鋭く雪斗に向く。
「はぁ………分かったお前ら三人分の刀を打ってやる」
アリサの様な剣は作れないが、あれは少し邪道な工程を入れなければならない。
「アキ、本当にいいのか?」
春樹が心配してくるが、いいも何も秋祐の拘りを断たれてしまったから良くない。
秋祐は意思のある生き物は嫌いだが、それよりも自分自身のことが大嫌いな所為で自分を後回しにする癖が出てしまい、春樹達の刀を打つことになった。
予鈴がなり勇者一行は教室を出て自分の教室に帰って行った。皆席に着き授業担当の教師を待つ。
数分してベルセリア教師が入ってくる。
そしてまだ気絶したままの魔族の生徒を見て近付き、蹴る。また蹴る。蹴り転がす。
「私はこいつを保健室に預けてくるから、それまで自習だ」
あのにやけた顔は保健室まで蹴って転がすつもりなのだろう。
それから数分後。
「さて授業を始めるぞ」
帰ってきたベルセリア教師が輝いているかの様に錯覚した。まるで十分に蹴り尽くし満足した様だった。
「いいなぁ先生だけ楽しいことして」
後ろの竜族の生徒、レイン・ハルトが呟く。
「なぁなぁアキヒロだったよな」
「あぁ」
後ろは向かず返事だけ返す。
「今度お前の犠牲者が出たら俺にくれよ。俺が蹴って保健室まで転がすからさ」
だたお前も蹴りたいだけじゃねえか。
迷惑な奴が来るのはこれで最後にして欲しい。
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