二、闘いで生まれる無から乏しい光り

 女子部屋に移動と笑顔で言われた。

 その翌日。


「「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」


 剣を構えた女子と、その後ろで怯えて抱き合ってる同じ顔の女子二人と秋祐が向かい合っていた。


「なんで男子がいるのよ」


 他の部屋から何事かと寮生が出てくる。全員女どこを見ても女だらけ、そして訝しむ目で見てきて「何で男がここに?」「キッモ」と口々にしていた。

 予想してたとはいえ、実際に起こってしまうと居たたまれなく、時間を戻してやり直したいぐらいだった。


「あら秋祐君もう手を出したんですか?」


 寮母がニコニコしながら近付いてくる。


「俺は無実だ。事情を女子全員に話てなかったろ寮母」


「その方が面白いと思ったので黙ってました」


 寮母はえへへと言いながら後頭部を摩る。褒めてない褒めてない。


「寮母さん何で男がここにいるんですか?」


「それはですね、元々秋祐くんの部屋だった所がいつの間にか占拠されてたからですよ」


「それなら占拠した相手を叩き出せば済む話しでしょ」


 そう言い、秋祐を睨み付ける。


「無理な話しだ。魔法でも放たれでもしたら魔力ねえから死ぬ」


「寮で魔力を使う人はいないでしょうが」


「機嫌が悪い魔王の娘だから有り得るだろ。実際寮母は仕事を素っ放かして逃げてたし」


 全員寮母を見る。寮母は首を全力で左右に振る。


「無理です無理です。あんな化け物の前に立てませんよう」


 これでも秋祐がいる状況に納得せずにいる。


「なら空き男子部屋に移ればよかったでしょ」


「無いから女子部屋に移されたのが分からないのかアリサ・ベルガイア」


「な、何で私の名前を。まさかこの寮の女子全員の下見をしてたわけ?」


 秋祐は自分の失態に気付くが言ってしまった後じゃ意味無い。初対面のはずの二人が互いのことを知っているはずがないから。


「知っているのはお前の名前だけだ、他のやつらは知らん」


「じゃあ何で」


「何でお前の名前を知っているのか、それは俺の武術の師、お前の父親にお前のこと聞かされていたからだ。それに父親と同じ赤髪だからお前がそうなんじゃないかと思っただけだ」


 本当はアリサ、俺が鍛えたその剣をお前が持ってるからだが、


「は~いみんな散った散った~分かったでしょ。彼は不幸が重なってここにいるって、もう学院に行く時間ですよ~」


 女子全員それぞれの行動に出る。

 自分の部屋に戻ろうする人がいれば鞄を持って学院に向かう為、秋祐を避けながら通り抜ける者もいる。

 アリサが剣を鞘に納めるのを確認したら部屋に戻ろうと考えていたが、剣を構えたまま動かない。


「まだ何かあるのか?」


 一時(いっとき)の間、沈黙が支配する。

 秋祐も警戒し次第に素手での構えに入る。

 どちらも動かず互いが互いを探っている。

 先に行動に移ったのはアリサで、剣を下ろした。

 下ろし切った時にはアリサは秋祐の眼前にいて斬りにかかっていた。秋祐はアリサの行動を意識した時にはもう遅いと思い斬られることを覚悟するが、意識より反射で身体が後ろの跳んでいた。

 剣の切っ先が秋祐の視界を横断する。

 少しでも遅かったら目は確実に斬られていただろう。


「チッ危ねえ生身の人間に縮地で迫って斬りにかかるんじゃねえ」


「今のを躱された。何で」


 アリサは秋祐が躱すと思っていなかったようで驚きを隠せず固まる。


「今のはまぐれで躱せただけだ」


「あんた、私の父上を師匠て言ったわよね」


「ああ、言ったな」


「じゃあこの剣、神様の力が付与されたこの神剣のあった場所を教えなさい。父上の弟子なら知ってるでしょ」


「はあ?」


 し、神剣?そんな大層な名前が付けられていたのかよ。


「知らないな。そんな大それた物なんてどこにでもあるだろ」


「いいえ無いわ、この剣は私が触れた瞬間私しか触れなくなった。こんなこと世界で初めての出来事よ」


 初めてっか。だったら神剣と奉るのも頷ける。

 しかし、実験が成功していて良かった。実際どうなるか分からなかった。効果を発揮するか何も発現せず終わってたかもしれない。

 それを他人にに押し付けて自分は成功を祈って風の噂になってやってくるの待っていた外道に自ら成功の知らせが正面から直接耳に入るとは思っていなかった。


「その所為でこの神剣は貴族に狙われ、私は養子になれや縁談がもちこまれたりで一日一日の休める日がなかったのよ」


「そうか、その話しはもう終わりってことでいいな」


「いいわけ……」


 アリサは秋祐の顔色を窺い秋祐が今は話さないことを悟った。


「分かった。でもいつかはちゃんと教えなさいよ」


 そういうとアリサは寮の玄関から出て行った。

 秋祐はというと自分の部屋に戻り、危険が去るのを待った。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「ねえ、なんで私の部屋の周りは男がいたわけ?」


「ガフ、知ら、ねえよ」


 男はそう言う。そして腹には弧を描くように曲がった巨大な刃が刺さっていた。


「そう、じゃああの部屋は元々誰の部屋?」


「…………」


 男は気絶したのかそれとも死んだのか動く気配がない。


「詰まらない。どこかに捨てて置きなさい」


 そう言って女性は大鎌に刺さった男を引き抜く。


「畏まりました。ノエル様」


 侍女達は働く中、一人だけ女性に近付く侍女がいた。


「ノエル~あのへや、だれのへやだったのかわかるかもー」


 女性は、ノエルは一瞬見開く。


「そう」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「そろそろ出るか」


 今から登校すれば遅刻せずギリギリなはず、そう思い寮を出る。


「おい、お前らが何でここにいるんだ」


 王女を含めた勇者一行がそこにいた。


「今日、学院に向かってる途中に戦闘が起こってアキが死ぬんだって王宮の占い師が言ってた」


「だから私達がお前の護衛に来たというわけだ」


 春樹は笑いながら説明し神楽坂がその目的を言う。


「却下」


 秋祐は断固拒否する。


 冗談じゃねえ!誰がこんな目立つ奴らと歩けるか!ふざけんじゃねえぞ。そもそも、


「そもそも王女の護衛はどうするんだよ四人いろうが俺を守りながら王女を守るなんて、てめえらにはできやしねえ」


 実力だってそう、強力な魔法が使えるからって平和な国から魔法やただの人間ではない魔族や獣人、天族だっているこの世界に来て最初から強い訳ではない。それに人を殺すとなると必ずこいつらは躊躇する。血を見ただけでも発狂し混乱するだろう。


「だったらティナ様はアキが守ればいいじゃないか」


「ひっ!!」


「ちっ春樹、何で最弱で護衛対象の俺が最も守らなければならん王女を守ることになるんだ。俺は自分の身は自分で守る。てめえらは勇者だから王女だけを守ってろ」


 そして秋祐は歩き出す。

 しかし秋祐は違和感だけは気が気でなく警戒していた。そしてその違和感に気付くのは異様な光景を目にしてからだった。


「なんだこれは……」


 雪斗がそう呟く。

 学院の校舎前には血を流し横たわっている人と校舎の入口付近で激しい鍔迫り合いする二人。

 一人は今朝会ったばかりの少女、アリサでもう一人は昨日寮で異様な魔力を放っていた少女、魔王の娘が漆黒の大鎌を振るいアリサに応戦する。


「占い師言ったことが的中しやがったか。俺は回り込んで校舎に入るからてめえらは王女を守りながら入れ」


 そう言うと正面の校舎の入口に向けてた身体を九十度反転させ歩き始める。それに合わせたかのように侍女らしき少女が動き出す。どんどん加速していく。進路を変えず一定方向に、秋祐に向けて。

 それに気付いた秋祐も走り出す。

 しかし侍女は化け物染みた速さで迫る為すぐに追い付かれてしまう。侍女の両手の指一本一本が鋭い剣のような刃になる。

 秋祐は即座にアイテムボックスから打って置いた刀を右手に生成するように取り出し応戦する。片手を受け止めるもののもう片手の刃の五本が右肩に深く食い込む。そして蹴り飛ばされ秋祐は学院の塀に激突する。

 ありえないバカ力、蹴られた勢いで左足を骨折した。


「がは、何故俺を」


「あのへやをゆずったヒトー」


 譲ってねえよ。てめえらが勝手に占拠したんだろうが。

 侍女は秋祐の下まで来ると刃を振り下ろす。


「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 桜の悲鳴が響き渡る。

 秋祐は死を覚悟する。




 ──この時この瞬間、秋祐の中の磔され封印された幾万幾億の者達の一人が初めて目を開ける。




 侍女は最後まで刃を振り下ろさずに飛び下がる。

 秋祐は右肩と左足に痛みを感じてないかのように起き上がって侍女を追尾する。

 そして止めをささんばかりに柄の方を腹に撃ち込む。

 しかしそれで落とせる訳ではないはず、なのに侍女は地面に崩れ落ち、まともに息が出来てないようにみえる。


「失神せず耐えたか。この身体では肝を壊すことはできんが、痛かろう。次、我を起こしたらこの程度で済むと思うな」


 そう言うと秋祐は力が抜けたように崩れ落ちる。


「はあ、はあ、頭が、はあ、はあ、視界が、身体が」


 汗が止まらない中、頭痛と視界の歪みと身体の痛みを耐えながら立ち上がり、骨折した左足を引き摺りながら校舎へ向かう。侍女はまだ痛みが治まらないのか倒れたまま起き上がる気配がない。

 今の一連を見ていた春樹達は、皆それぞれが称賛してるなか王女は絶望を抱き怯えていた。

 そしてもう一人秋祐を見ていた人物がいた。


「あれがあの部屋の元々の入居者」


 一見力を持たない弱者にしか見えないがさっきの一時いっとき感じた絶対なる強者の気配。

 面白い。


「エリス、ヨナ、あの男を捕まえなさい。ソフィアもよ」


「「畏まりました。ノエル様」」


「が、がんばるのー」


「させないわ。あんた達にこれ以上の被害は出させないわ」


 ノエルと呼ばれた魔王の娘は侍女達に命令を下し、それに答えようと動き出す侍女達、秋祐によって倒れていた侍女も命令を優先し何もなかったかのように起き上がり秋祐を追う、少し肩が震えているのが見て分かる。

 秋祐は身体の疲労、痛みにより抵抗できずに校舎入口前で取り押さえられる。


「よくやったわ。こっちもこの女を片付けたらそっちに向かうわ」


 そう言うと魔王の娘から禍々しい気配が漂い始めた。魔法を放つ気配だ。


「アリサ逃げろ」


 秋祐がが言ったその時にはアリサはもう、煉獄の焔に包まれていた。

 アリサの剣が秋祐の目の前に落ちる。


「今度は貴方の番よ」


 そう言い秋祐に歩きながら迫って来る。

 人が死ぬ、ここはそういう世界なんだ。殺され、ころせる世界なんだ。改めて確認する秋祐。

 春樹達は驚愕した表情をしているところを見るとまだこの世界を認めてないようだ。

 

 ──不良品


 詰まらない、下らない物を見てるような魔王の娘の表情に秋祐は今までに言われてきた言葉を思い出す。

 異世界に飛ばされる前の世界で散々言われてきた言葉、街中では


「あの子よ喧嘩で同じ歳の子に重症を負わせて病院送りにしたのは」「へえ喧嘩で人を殺しかけるなんて、とんだ不良品だな」


 学校では


 「まーた喧嘩して相手を怪我させたそうだな」「これだから問題児は、いや直そうとしないから人として欠落してる欠陥品、不良品だな」


 そして父親に見捨てられ母親を失った後、俺を引き取った家では


 「兄さん頼んでたやつ買ってきた?はあ?なんで買ってないわけ?不良品はそんなこともできないわけ?あんたよりもそこら辺の草にいる虫の方が存在価値があるわ」「………秋祐さん………」


 義妹からは奴隷のように扱われ、義理の母親からは視界に入れたくないのか目を合わせず、俺を引き取った後悔と早く消えてほしいという表情がいつも露になっていた。

 そしてここに来ても王女の一人に会ったばかりの俺を見て怯え、もう一人の王女に睨まれそして、俺に魔力が無いことを知るなり、すぐ不良品呼ばわりし馬鹿にする。

 何処にも俺の居場所は無い。

 有ったとしても、ガラス細工でできた偽物。

 そんな物は要らない。

 欲しい物は本物の俺だけの世界だけだ。

 秋祐は手を伸ばす。

 アリサの剣を掴めば、何かできるかもしれない。

 しかし、触れそうになった瞬間、秋祐の手は稲妻に打たれたかのように弾かれた。激痛と言える痛み、しかしこれぐらいならっと秋祐は再度、力強く握り締める。

 その瞬間、秋祐を中心とした稲妻が奔り、秋祐を取り押さえていた侍女達は呆気なく秋祐から引き剥がされ吹き飛ぶ。

 秋祐は立ち上がり左足を引き摺りながら魔王の娘へと向かって行く。


「ぁぁあああああああああああああああああああ」


「あら、立ち向かおうとしてるの?そんなボロボロの身体で何ができると言うの?力量が図れず無謀を晒しているだけなのかしら?それとも」


 そこで魔王の娘は言葉を切る。そして背後には黒い巨大な焔が出現し秋祐を襲わんと迫る。


「無力で挑むゴミかしら?」


 秋祐は左足の負傷で避けることも叶わず黒い焔にあっと言う間に飲み込み消し去ろうとする。


「そこの人族達、覚えてなさい。私に逆らったりしたらこの無力な人族みたいに命を落とすことを」


 王女は両手で口を押さえてへたりこむ。勇者の春樹達は助けに行かなかったことに悔やみ悲しんでいる。桜だけは千羽耶に抱き付いて泣いている。

 そんななか、ガガガガ、ガガガガっと奇妙な音が聞こえる。


「誰が死んだって?」


 秋祐が右肩を支えるように左手で押さえ左足と右手に握られた剣を引き摺りながら焔の地獄から這い出てきた。

 所々皮膚が焼き焦げて、普通だったら死んでいる。それでも秋祐は何故生きているのだろう。


「何故かしら?私の魔法に飲まれて生きてるなんて不思議だわ」

 

「無謀、無能、無力、散々言われてきたが」


 魔王の娘の下まで来ると彼女の腕を掴み剣を大きく凪払う構えをとる。


「自分自身が無様だろうが、惨めだろうが、どうだっていい。自分が間違っていたとしてもただ、弱者として這いつくばってでも挑み続ける」


 秋祐は剣を大きく振りかぶる。

 魔王の娘に刃が触れた瞬間激しく白い稲妻は迸り魔王の娘を、ノエルを弾き飛ばす。

 これで気絶してくれたら好都合だが、そう思いながら剣を持つ手が緩み、白い稲妻が秋祐を襲う。

 飛ばされた秋祐は運良く校舎の中へ飛ばされる。

 その際今朝の同じ生産商業科の双子が視界に入った。


「おい双子いるなら聞け、今日は保健室に行くから授業に出れないかもしれないと、先公に伝えとけ」


 双子の気配が失くなると再び秋祐は立ち上がり、保健室へ向かうのだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 朝起きたら王である父が勇者の方に頼み事をしていた。何を話しているのかと近くに行くと、


占術せんじゅつ師に君の友人を占ってもらったところ死の渦に巻き込まれると言われてな、今日は彼と一緒に登校してくれないか?」


 その言葉にティナ・シンフィールドは絶望を抱く。秋祐が住まう寮へ向かいそして到着と同時に彼が寮から出てくる。登校の際、春樹様はどういう経緯で一緒に登校する事びなったのか説明し、その後。


「だったらティナ様はアキが守ればいいじゃないか」


 アキ、様に守られる。そんなのは嫌。


「チッ」


 舌打ちが私の心に響く。彼が怖いからだ。


「てめえらは勇者だから王女だけを守ってろ」


 心が痛む、舌打ちされたからだろうかそれとも、私に罪悪感があったのだろうか。

 そして学院の校門を潜った瞬間、本物の絶望と対面した。

 生徒が何人も血を流して倒れている。

 校舎入口付近では二人の女の子が闘っている。

 アキ、様はその現状を見て勇者様方に自分は回り込んで入るから勇者様方は私を守って入れと言い校舎に向かわず、私達とは別の方向から校舎に入るみたいだった。が、しかし校舎入口前で控えてた侍女らしき少女達の中から一人。アキ、様に向かって走っていく人がいた。

 アキ、様に接触する寸前アキ、様は消えた。いえ、飛ばされていた。

 そして少女はアキ、追撃する。


 「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 日之影様は何故あのような、人一人殺しているはずの人間の為に表情を変えたり感情を抱くのだろう。

 少女の追撃が後、数ミリでアキ、様に届きそうになった瞬間、少女の動きは止まる。

 その時は私にも感じた。やはりあの方は危険人物だと改めて認識させられるほどの恐怖の圧力をアキ、様の方から。

 そしてアキ、様から離れた少女を追う。その追う速度は負傷した人間とは思えない。目に止まらない速さだった。

 そしてアキ、様の一撃を受けた少女は倒れた。

 少女を突破したアキ、様は校舎に入る前に他の侍女に取り押さえられる。

 そして闘っていた二人の女の子うち一人が黒く禍々しい焔を生み出し、もう一人の剣を持つ少女を包み込んだ。

 アキ、様も死んでしまえばいいのに。そんな穢い私がいた。

 目の前に落ちた剣に手を伸ばすが次の瞬間、アキ、様の手は弾かれる。それに私は胸を撫で下ろす。

 しかしアキ、様は意を決した瞳になり剣を掴みにかかった。

 その瞬間アキ、様から白い稲妻が暴れ出て侍女達を弾き飛ばした。

 そしてアキ、様は黒髪の魔族の少女に立ち向かうが黒い焔に一瞬にし包み込まれる。

 死んだ。アキ、様が死んだ。

 嬉しいはずなのに喜ばしいはずなのに、なんでこんなに悲しいの?

 アキ、様は死んだ。そう思った瞬間だった。

 ガガガガ、ガガガガと小さい音が耳に入る。


「誰が死んだって?」


 アキ、様はボロボロの姿で立っているのもやっとの状態で焔の中から出てくる。


「アキ、様」


 気付けば私は彼の名を口にしていた。


「無謀、無能、無力、散々言われてきたが」


 確かにアキ、様は魔力が無い。だから何もできない。何も起きない。

 でも──


「自分自身が無様だろうが、惨めだろうが、どうだっていい。自分が間違っていたとしてもただ、弱者として這いつくばってでも挑み続ける」


 そう言って剣を振りかぶり、少女を吹き飛ばす。

 なんでそうまでして闘うのだろう。弱者の私でも分からない。

 アキ、様は一体、何者なのだろう。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「これは派手にやられたな少年」


 保健室にやって来た秋祐を見て驚くドライアドの男性教師。


「魔王の娘に殺されかけてきた」


「タメ口!!まあいいか。それで少年も魔王の娘に媚びたのか?」


 そう言って治癒魔法をかける。


 あんな危険なやつに媚びて何の特がある。ご機嫌とりして何になる、ふざけんじゃねえぞ。


「避けて校舎に入ろうとしたら襲われただけだ。だから一発入れて逃げてきた」


 そう言うとドライアドの教師はさらに驚いた顔をした。


「それは本当かい?」


 ドライアドの教師は不信や疑いの感情は無く、心配の感情が見て取れた。


「少年、やってしまったね」


 秋祐は何も理解できなかった。


「?どういうことだ。一発入れて逃げるのがやっとだったんだが?」


 ただ一回受けたただの痛みを忘れずに、やり返すまで執念深く追い回すってことだろうか?


「彼女は以前こんなことを言ってたんだ。“万に一つ助からないと思う不利な状況で私に触れられたら許婚として認めてあげる”てなことを」


 つまり、殺されかけた相手に恋人対象として追い回されてしまう、そういうことだろう。

 大鎌を振り回し、ダ~ァリ~ンと呼ばれながら追いかけ回される想像をしてしまい秋祐は悪寒に耐えながら、


「断固拒否する」

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