無刃の000《オールゼロ》
桜月春之
一章
一、中身の爪痕、そして始まりの無
こんな世界は嫌いだドイツもコイツもクズだらけでロクに人を見ようとしない。
親父は家を出ていって戻って来ず、いつも笑顔だったお袋は原因不明の病にかかり病死。
その後になって親父が浮気していてその相手と結婚していたことが判明した。
そして自分の子どもを見て「君、誰」冷たい声と視線。
もう、何も信用できねえ。信頼なんかいらねえ。
クズは全て消え去ればいい。
血を流しても動かなくなるまで殴ればこの世界はキレイになっていく。
人間全て汚いモノ、それさえ消えてくれさすれば、
「キャアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
悲鳴が聞こえる。
振り向くと路地裏の方に人影が動いているのが分かる。
そこへ行ってみると少女が男五人に押さえ付けられていた。
ゴミクズが五つ転がっている。
まず一人目に殴りかかり、全員が標的を変え一人に敵意を向ける。
その一人に五人とも気絶させられ、その場所は血の池になっていた。
五人からは未だに血を流してる。
少女は恐怖で足がくすんで動けない。
血の中心に立っているその人は少女の手を引き店の中に放り込んだ。
数日が過ぎて平日、少女は教室の扉の前にいた。
少女は深呼吸した後、扉を開けて中に入る。
「お、おい校内アイドルの
少女、日之影桜は気にした様子もなく、たった一人。顔を伏せて寝ている不良の少年の下まで歩いて行く。
「おいおいマジかよ」「あいつに話し掛けるのはやめといた方いいのに」「止める?」「やめとこうぜ」「命がいくつあってもたりないぜ」
日之影桜が少年の側まで来ると少年は目だげ動かし少女を一瞥した後、クラス中を見渡し第一声が、
「クズばっか」
それに反応するように皆。
「人殺しに言われたくねえ」「逮捕ばっかり繰り返してるやつの方がクズだろ」「この前だってそう一人死亡者が出たんだろ?何でここにいるんだ?」
殺してないのに虚像に騙されやがって、
「あの!!」
喧騒の中、日之影桜の声で静まる。
「
少年、古城秋祐は日之影桜を横目で見据える。
「私の家族になってください」
・
・
・
・
・
「「「「「えええぇぇーーーーーーーーー!!」」」」」
「はぁーーーー!!」
クラス中が愛の告白だと思い込んでいた為か告白ですらない言葉に皆驚きを隠せずに、隠さず転ける人もいる。風斬秋祐は勢いよく起き上がる。
「てめえ教室のド真中で何てこと言いやがる!」
「いえ、あの、あの、あの……」
「そもそも家族なんて下らねえ関係になるぐらいなら殺して一人でいた方がマシだ」
「やめ、て」
「人間はみんな自分大事で大好き。自分の思い通りにならなきゃ誰かを犠牲にする。苦しめる」
「いや、や、めて」
「絶望を知らない幸せ者はみんなクズ。下に生きる奴らを踏み台にしてればいいからな」
「──やめて!!!!」
その声は教室中に響き渡り日之影桜はその場に泣き崩れる。
次の授業には──
「授業始めるぞ。ん?風斬、お前がなんで日之影さんを子守りするみたいに抱いているんだ?」
「ん?肩に顎を置けて楽だから拉致ってきた」
「お、おおおおおお前の教育をきょきょ矯正しないといいいけないみみたいだななななな」
「やれるのか?」
と指をポキポキ鳴らすのは日之影桜を起こしてしまうかもしれないから一睨みする。それだけで教師を黙らせた。
日之影桜は泣き疲れで寝てしまっていた。
放課後。
「さすがアキだな教師を睨むだけで怯えさせるなんて、人を殺しうる最悪最凶の不良と恐れられているだけあるよ」
「ウザいぞ
「それにしても昼のあの後から放課後までアキの膝の上で寝続ける姿は可愛いかったな」
秋祐を少しバカにしている
「ほ、本当にすみません。重たかったですよね?」
「ふん」
「おい風斬!私の親友が謝っているだろ。重たかったかと聞かれたら重たくないと言ってあげるのが常識だろ」
「俺には関係ねぇ 」
謝ってばかりいる日之影桜と秋祐を咎める
「寝てる日之影さんは可愛いかったなぁ。アキがいなかったらもっといい絵になってたのに残念」
「雪斗、てめぇは──」
秋祐が雪斗に胸ぐらを掴みに動いた瞬間、魔方陣らしき模様が秋祐たちの足下と頭上に現れ押し潰すように狭まっていた。
そして二つの陣が重なって消えた後、そこには最初から何も無かったかのように跡形も無く消えていた。
ここは何処だ。
風斬秋祐は困惑していた。さっきまで学校の帰りで目の前の男女四人と話していたからだ。それが二つの陣に飲み込まれた後、視界に写る景色が一瞬で変わり、浮遊感に襲われたあと尻餅をついてしまったのだから理解できずに困惑するのは当たり前だろう。
彷徨う秋祐の視線は偶然に玉座らしき椅子の後ろに控える女の子二人のうち一人と目が合う。
「ひっ」
その女の子は怯えるその様子に気付いたもう一人の女の子が秋祐を睨む。秋祐は自分の目付きが鋭くて非常に悪いことは自覚している。
──ちっここにも俺の居場所はないみたいだな。思えば俺は、人に好かれることはなかった。あいつらも本当は。
感傷に浸りかけたところ、王らしき人物、王様が口を開く。
「勇者様方、我々の勇者召喚に応じてくれて感謝する。まず自分の右手の甲に紋様があるか確認してくれ」
秋祐達ははそれぞれ確認するが秋祐の手の甲には何もなかった。四人の様子を伺ってみると全員紋様があったみたいだ。学校にいたときもそうだが輪に入れない時がある。
その時グループの中心格の久遠春樹が手の甲の紋様を見せつけてくるが、秋祐は困り果てたように苦笑いし何もない手の甲を見せる。それを見た春樹はバツが悪そうする。さっきから上品に話していた日之影桜は今にも泣きそうな顔で俯く。他の男女二人も苦虫を噛み潰した顔になっていた。
「皆確認したところで魔力量と適性属性の確認に移ろうか」
王様がそういうとローブを纏った女性が一礼し、水晶がのった台を秋祐達の前に持って来て説明する。
「今から魔力量と適性属性の確認に移りますが、この水晶に触れてもらいます。それで光の強さと色で魔力量と適性属性が分かりますので、順に触れてください」
四人とも強い光を発しそれぞれの属性の色を放っていた。
春樹の適性属性は炎、水、雷、風。桜は水、風、光。体格のいい冬馬雪斗は炎と雷。ポニーテールがチャームポイントの神楽坂千羽耶は水と風。そして秋祐の番になり水晶に触れる。
しかし何も起こらなかった。
「不良品」と聞こえた気がした。いや気の所為ではない。さっきから睨み付けてくる女が言ったのだ。
「不良品っか、はは。知ってることなのになんで忘れてたんだろな」
秋祐は小声で呟く。あの世界で秋祐は絶望しか感じられず、喧嘩ばかりしていた。時には人一人殺しかけたことだってあった。
いつも後悔と絶望の中で生きてきた秋祐は不良品の中のもっとも使えない不良品だ。
「そんなことありません」
そんな時だった。
普段は弱々しい声なのに力強くこの大広間に響いた。
桜の声、秋祐は振り向くと桜が玉座の後ろに控える二人を見据えている。
「貴女たちはアキさんの何を知っていると言うのですか。何も知らないで不良品なんて言わないでください。貴女も人の顔だけ見て怯えるのをやめないと後悔します」
桜はまだ言い足りないのか玉座に向かって歩んでいく。
「見えてる所しか見ないで言う言葉ほど価値はないのは他にありません。隠されている姿こそが本物なんです」
秋祐は急いで桜の後ろに回り抱き寄せて口を塞ぐ。
「てめぇ桜、何言いやがる相手は王族だぞ」
桜は秋祐に目で何かを訴えてくる。秋祐が桜を押さえていると春樹が話かけてくる。
「アキ、そろそろ放してあげなよ日之影さんが悶絶死しそうだよ」
「は?」
その瞬間キュゥゥと桜の力が抜けていく。顔を見ると満足した様子で放心している。
「穢らわしい」
秋祐の耳にハッキリと聞こえていたが、気にしないようにし、桜を解放しようとしたが、力が入ってないのか足から崩れ落ちそうだった為、再び抱き抱える。
「アキ、俺と代われえぇぇい」
「はぁほらよ」
面倒だった為、雪斗に桜を渡そうとした瞬間、急に桜は普通に立って雪斗に顔を向けると、
「あ、もう結構なので」
「そんにゃ~~」
膝を地面に着き頭を抱えて悔しむ。
春樹はやれやれと思いながら王の方へ向き直る。
「確かにアキは目付き悪いし嫌われてもしょうがないけど、あいつは不良品ではないよ」
「すまない。私の娘達が失礼なことしたことを詫びよう」
王は頭を下げる。その様子を家臣達が驚く。その一人が王を咎める。
「王よ。王が簡単に頭を下げたら民の示しになりません」
しかし王はその言葉を聞き流し頭を上げると。
「詫びにお主にはマジックボックスと魔力増幅、保管できるマジックアイテムを贈ろう」
秋祐その言葉に勘づいて自分を捨てる為の口実だと理解した。
その日は色々あったが、この世界の学院に入ることになり説明を聞いて終わった。
家臣は王と二人の時を見計らって少年に対する王の態度を尋ねた。
「何故あのような不良品の少年にあそこまでしたのですか?」
家臣は秋祐を侮蔑し貶すが、王は笑った。
「近衛騎士のお主でも分からぬか」
「何を仰りたいのですか?」
「彼には精霊が集まっていた。この意味分かるな」
精霊、本来目では捉えることができず、特殊な瞳を持つ者にしか見えない。王はその瞳の所持者。
精霊が集まる意味、それは人の心にある。
「彼はいつか大物になるぞ」
そう言って王は去って行った。
「ありえ、ない」
後日、王が言っていた通りマジックボックスとマジックアイテムを受け取った。どちらも黒のダブルベルトのリストバンドで右手首にマジックアイテム、左手首にマジックボックスを着ける。秋祐だけ学院の寮に住むことになったため学院に入学するまで国王の側近の人に剣や槍等の武器の扱い方を習い稽古を付けてもらい。
そして王宮に滞在してる間に見つけた洞窟で鉱石を拾ってはそこで武器を作ったりし、何回か往復してるうちに念じれば行けるようになってたりと、別れの日。世話になった団長に剣を贈り、王宮を出た。
王宮から寮まで馬車で十分もかからず着き降りると学生寮の外装はきれいで建物そのものが大きい。
入ると背中から翼の生えた人間、天族と言う一族だろう。寮母さんらしき人に軽い注意事項を聞いたあと部屋に案内される。
この寮は男女で部屋、使用できる場所が決まっていた。そして大浴場は男子出入り禁止で部屋のシャワーで済ませることとなっている。
部屋に入ると秋祐の知らない荷物が大量に積まれていた。
「何?これ」
全ての荷物が秋祐の知らないもので呆気にとられてしまう。私服やアクセサリー、武器、武器を作る道具、料理に必要な道具とレシピが大量に詰まっていた。
「あの王様なんつう量を送ってんだよ」
全てマジックボックスに収納する。
空になった箱は寮母に渡して処分してもらう。
マジックボックスが便利であることをこの時初めて知った。
マジックボックスは幾らでも収納できるが出すときは魔力で生成される。秋祐の場合魔力ゼロの為代わりにマジックアイテムによって補っているから無限に出し入れできる。
寮母はあの量をどうやって?と驚きつつも呆れた顔をしていた。
翌日、フォーガルト学院の入学式で式の間、秋祐は寝てやり過ごし、式が終わるとそれぞれの学科に別れていった。
もちろん勇者四人は武芸学科で秋祐は生産商業学科である。
秋祐は自分の教室に向かう為、廊下を歩いていると、中庭で一人の少女が立っていた。
秋祐は忘れないだろう。中庭にいた少女の笑顔を──。
その後、教室では自己紹介が始まる。
クラスメイトとなる者全員が人族ではなく魔族や神族、妖精と言った多種多様なクラス。
そして秋祐に自己紹介が回ってくる。
「魔力ゼロのアキヒロ・カザキリだ」
「他には?」
立ったまま黙ってる秋祐に人族の担任教師が興味ないという風に聞いてくる。
秋祐は春樹に自己紹介の時に使えと言われていたメモ用紙を覗いた。
──やらないといけないのか。
いや、あんな恥ずかしいことはしなくていい。
「他はねえよ」
ズガァン
担任教師は秋祐がタメ口を吐いた瞬間透かさず名簿を投げ、それが秋祐の顔にクリーンヒットする。
「いっつあ」
「小僧、年配には敬意を払えと教わらなかったのか?」
「いや無いね。向こうの俺のいた世界は穢い世界だから」
「そうか、ならここで覚えていけ。次、後ろのやつ」
秋祐の嫌悪の意思が伝わったのか担任教師は追求等せず次の者に自己紹介を促した。
そして秋祐は過去の穢い世界の記憶がフラッシュバックし苛立ち始めた。差別される過去、侮蔑される過去、濡れ衣を着せられる過去、後ろ指をさされ続けられてきた過去、皆が皆秋祐を、秋祐を見ず一人が秋祐を指さす。その指が秋祐の胸をさしてるように見え、お前の心は汚いと言われているようだ。そして周りの人間もどんどん指をさしていく。その指一本一本が秋祐ではなく、秋祐の後ろをさしている。後ろ指をさされるんじゃなく、お前はこっちに来るなと言っているかのように。
秋祐の怒りが限界を迎えることはなかった。
「俺は竜族のレイン・ハルト。みんなのアイドルになりに来た「はいつぎー」」
秋祐は自分の頭を机に叩きつけた。後ろを振り向くとそこには秋祐が春樹から貰ったメモ用紙に書いてあった指示通りに左足を少し上げて右手をピースサインし目元に当てて、左手は親指を立ててサムズアップしていた。
凍る音より先に担任教師が促した為一名以外教室の空気は守られた。しかし秋祐はというと──。
──なんだあの自己紹介は、相当恥ずかしい。やらなくてよかった。
そう安堵した瞬間。
「先生、歳は幾つですか?」
どう見ても三十路過ぎてるだろ。
その瞬間、秋祐の頬を何かが掠めて後、浮き上がり発言した竜族の生徒の両目を抉る。
「私は永遠の十八歳だ。女性に歳を聞くときは死を覚悟しておくといいぞ」
時間が流れていき放課後。
「アキちょっといいか?」
春樹達勇者と王女が来た所で……王女?なんで学院にいるんだ?秋祐を見て怯えた王女がいた。秋祐は疑問に思ったがそれは後回しにし春樹の胸ぐらを掴み睨む。
「てめえ、あの自己紹介はなんだ」
「あはは、どうだった?」
「あぁ俺の後ろの席のやつがやりやがって自爆してたぞ」
自分がやったわけではないが、何故か恥ずかしかった。発散はここまでにし溜息吐きながら掴んだ胸ぐらを放す。
「んで、話しはなんだ?」
「あそうそう、この後俺ら全員で封印の洞窟に行くことになってるから」
「ん、そう行ってら」
今度こそ春樹の悪巧みに乗らまいと軽く遇うが、
「何言ってんだ?お前は王様からの命令で強制だぞ」
はぁ?
秋祐は王女を見るが、俯いて小声で呟く。
「封印の洞窟には精霊が封印されているそうで、まずあ、アキ様に挑戦してもらい。だめだった場合勇者様方にも挑戦してもらいます。あ、アキ様が最初の理由はあ、アキ様は魔法の対抗手段をお持ちになられていないからだそうです」
「ちっ俺も行けばいいのか?」
そう言い勇者達と同じ方向に歩みを変える。
その方向には秋祐の担任教師がいた。
「古城いいところにいたな。丁度お前に渡す物があってな」
そう言い渡された物はレコーダー紛い物だった。
「なんだこれ?」
秋祐はボタンらしきモノをポチッと押す。
すると宙にモニターが映されその中に秋祐がいた。
『魔力ゼロの風斬秋祐だ』
『他には?』
普通の自己紹介だが嫌な予感がするのは何故だろう。そう思い停止させようとするが、レコーダーは手元には無く、急いで探す。
しかしそれはもう遅し、桜が既に秋祐からレコーダーを奪っていた。
『みんなのアイドルになりに来た『はいつぎー』』
桜以外皆の時間が止まる。
桜はというと……。
「このアキさんはレアです。もう最高です。萌えます」
と床を転がりこの上ない喜びを表現する。
「あ……あ……ああ……おい先公、俺はあんな紹介してないんだが、なんだあれは」
「動画を撮ってたから、お仕置きを含めてちょっと弄って作った私の傑作だ」
秋祐の手は桜を捉えようとするが、桜の空いてる手で
「諦めろ。アキには奪い返すことは無理だろ」
そう言って春樹が秋祐の肩に手を置いてくる。
「ちっ」
「アキは知らないだろうけど日之影さんはある時を堺にアキのことに夢中になったんだが」
知らない。
秋祐と校内アイドルの桜との接点は殆ど無く、話したのは「家族になってください」が最初だった。
しかし桜は助けられる前から秋祐自身を見ていた。
「ベルセリア先生、ありがとうございます」
桜は満面の笑みを秋祐の担任教師に向け謝礼の言葉を口にする。
◇◆◇◆◇◆◇◆
馬車で約十分。封印の洞窟は秋祐にとっては馴染みのある洞窟だった。
秋祐は驚きながらも春樹達の後を追う。
辿り着いた場所は何も無く。
「行き止まり……」
「いえ、行き止まりではありません。幻惑がかかっているので実はまっすぐの道が続いてます」
そう言って歩き続ける。
そして行き止まりと思われた壁を吸い込まれるように通り抜ける。
通り抜けた瞬間、さっきとは違う光景になっており、たくさんの鉱石等がそこにはあった。
そしてその奥に刀身が全て埋っている剣が一本存在していた。
「あれが封印された精霊」
「──!!」
春樹がそう言った瞬間、秋祐が殺気を感じ周囲を見渡すが何の気配もない。
気のせいかと剣の所まで行くと柄を握り、引き抜こうと腕に力を入れるが微動だにしない。
「ビクともしねえ」
そう言って秋祐は手を放す。
「ま、何も恵まれなかった俺が抜けるわけないか」
隅で王女が安堵していところを窺えた。
それほど秋祐には抜いて欲しくなかったのだろう。
「じゃあ俺は帰る」
「おいおい俺達がまだ終わってないのにお前だけ──」
「分かりきった結果を最後まで見届けるのが面倒だ」
秋祐は春樹の言葉を切り捨てて来た道に足を向け去って行く。
「アキ……」
春樹の寂しそうな肩に手が置かれる。振り向くと雪斗が首を振る。
「アキは誰かに抜かれる所を見たくないんだよ」
春樹はそうか?と雪斗の目を疑う。今までどういう風に秋祐を見ていたのか雪斗を疑いたくなる。
秋祐は自分の弱い部分を認めてきてる。
だから秋祐に限って逃げることはない。
もしかしたら剣から何かを感じたのかもしれない。
その後、誰も剣を抜くことはできなかった。
「結局誰も抜くことができなかったな。アキが一番抜きそうだが(日之影さんの剣を抜く姿が可愛いかったなぁ~)」
「俺はアキが抜いてくれると思ってたけどな」
「私もアキさんが抜くと思っていました」
「私はだた抜けないマネをしてたのかと思っていたのだが」
春樹達勇者は皆、秋祐に信頼を寄せているようで皆が皆秋祐が精霊の封印を解くと思っていた。
「あっあの、勇者様方は何故あ、アキ様をそんなに信頼してらっしゃるのですか?それに学院であ、アキ様が優しいと仰っていました。それが本当なのか私には分かりません」
静寂の時間が訪れる。
王女の瞳には秋祐が恐ろしい姿しか映っていない。
人を殺したことのあるような冷たい目。
いつか自分も殺されるかもしれないという不安。
やがて春樹達皆苦い笑みを浮かべる。
「アキは優しいよ。今は分からなくてもいい、ティナ様の中で秋祐の人物像が偽りのピースしかはめられていなくても、いつかはあいつを知る日が来る。その時ティナ様はどの意味で泣くだろうな」
ティナは、ティナ・シンフィールドは春樹達勇者の後ろ姿を見て何故か羨ましく思った。もしかしたらこの感情は別の所にあるかもしれない。
◇◆◇◆◇◆◇◆
秋祐はあの後、馬車に乗らず走って帰路に着いていた。
学生寮に着いた時、異様な威圧感に襲われた。
「なんだ?」
学生寮の窓から中の様子を窺う。
そこに赤髪に曲がった角を持つ少女が一人と侍女らしき人が数人。寮の奥に入って行くのが見えた。
「あいつ何者だ?」
「魔王の娘さんですよ」
秋祐は声を殺して驚いた。
「寮の外で隠れて様子を窺うなんて秋祐さんは悪い子ですね」
「寮母!何でここにいるんだ」
「あの娘が不機嫌だったので逃げてきました」
「寮母の仕事はどうしたんだよ」
「あの状態の娘に声をかけたりしたら私殺されますよ。あの娘が機嫌が悪い時は周囲に当たって死人を出したりするんですよ」
そこで秋祐は魔力が膨れ上がっていたということに理解する。
「確かにあの魔力だったら十人、いや千は殺せそうだな」
そう呟いた瞬間、寮母は秋祐に顔を向け、驚いているのか目を大きく開いている。
「確かにあの溢れてる魔力量は尋常じゃ──、私は見えてますが秋祐くんは魔力が見えているのですか?」
「いや、見えてないが常に他のやつらから威圧感っぽいの感じてるだけだ」
そう、秋祐は常に他人の魔力を感じていた。しかしそれを魔力だと納得するには今の状態で誰かに言ってみるしかなかった。
「魔力持ち同士の魔力が共鳴して互いの魔力を知ったり、特殊な目ので魔力を知ることは可能ですが貴方みたいに魔力が無い人が特殊な目を持たず魔力を感じることなんてないんですよ」
秋祐は異世界人、魔法とは無縁の世界から連れてこられた人間、そんな人間が特殊な目を持ってるはずもなく、ましてや身体で魔力量を感じ取れるなどあるはずがない。
「秋祐くんって本当は特別な魔力を持ってたりします?」
「持ってないな、魔力があったら少なからず魔法は放てるはずだろうから」
そして秋祐は一つ、魔王の娘に対して気になることがあった。
「寮母が仕事サボった所為であいつ男子部屋の方行ったんだが」
「あらあら誰の部屋が取られるのでしょう」
嫌な予感がする。秋祐の部屋は誰が見ても綺麗な部屋と言うだろう。アダルト関係の物が置いてある訳でもない。何もない。そう、物すら置いてないただあるだけの空間。他人に聞いたら皆口を揃えて言うだろう。「ここ誰か入居してるの?」と。
秋祐は焦り、寮に入るとすぐさま自分の部屋の前まで辿り着く。
ガガガガガガガガガガガガゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ドカンドカンドカンドカンババババババババババババ
キュインキュインキュインチャラリンリンリンリン
「ノエル様ここにこのテーブルを設置するのはどうですか?」
「いいんじゃないかしら。でも真ん中にする必要あるのかしら」
「かしこまりました。もう少し設置する場所を考えてみます」
えっ?何?今の音。テーブル設置の音なのか?破壊した時の音と機関銃でも射ってる音に聞こえたが……。
「ノエル~お腹減ったー」
「そう、もう少し我慢したらどうかしら。きっと豪華な料理が食べられるかもしれないわよ」
「我慢するー頑張ってみるー」
「ノエル様紅茶が入りました」
「ありがとう」
ああ、これはもうダメだ寮母に言って部屋を替えてもらうしかないか。
「女子の部屋に移動です」
・・・・・
「は?」
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