第5話
ガツン!
「クソッ! あいかわらずビクともしねえ!」
キン!
「ッ! くっ、なぜ対応できるのでござる!?」
両手持ちの大剣で打ちを込んできたグレンの攻撃を左手の盾で弾き返し、後方から刀で斬りこんできたクレアの攻撃を右腕の盾で受け止めた私は言います。
「アナタ方の攻撃は素直すぎます」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!」
刀を受け止めた右手の盾を強引に払いクレアを吹き飛ばす。その勢いのまま回転し左手の盾を胸の前に構え、上段から叩きつけるように振るわれた大剣に自分から体当たりを慣行します。
ガッキィーンッ! と、金属のぶつかり合う不快な音が鳴り響いた後「ゲヘッ!」と妙な言葉を口にゴロゴロと転がるグレンに言います。
「特にグレン。攻撃前に叫ぶ癖は直しなさい」
「......いててて......。そう言われてもなぁ、癖みたいなもんだしな......それに、なんての? 叫ばないと気合とか力とかが入んねえんだよな」
ムクリと上半身を起こしたグレンが困った顔で言いますが、私は断固として言います。
「直しなさい!」
「お、おう」
何故か青い顔でブンブンと頷くグレン。私としては余り他人に強制するような事は言いたくは無いのですが......今なら、まだ間に合うか思うと――少し声が大きくなったのかもしれませんね。
「と、と、取り合えず休憩にするでござるか?」
そんな、私とグレンのやりとりから気が萎んだのか、こちらも何故か、クレアが恐る恐る刀を鞘に納め問うて来たので「そうですね」と、その場で腰を下ろします。それを見るとクレアは邪魔にならないように少し離れた場所に置いてあった私達の革製の水筒を持ってきてくれました。
お互い、温い水を補給する私達。「ふぅ」と水筒から口を離したクレアが言います。
「確かにグレン殿は叫びすぎでござるが......しかしシレン殿......あのような恐ろしい顔で脅さずとも......」
「......恐ろしい顔ですか? 私がですか?」
ウンウンと頷く二人を見る限り本当のようですね......。
ふむ......。そんなつもりは、まったく無かったのですが......自分で思うより......ストレスを感じていたのかもしれません......彼らに。
――まあ良い機会です。グレンは元よりクレアも素質はありそうですし説明しときましょう。
「いいですか二人とも、声で気合を入れるのは悪いとは言いませんし、声で相手をけん制等する目的なら問題はありません。あるいわ、その攻撃が必ず当たると言うのなら問題はないでしょう。――しかしグレンのように意味なく叫ぶのは論外です。相手に攻撃のタイミングを教えているだけです」
二人は黙って話を聞いています。
私は立ち上がって胡坐をかいて座っているグレンの両肩に手を置きます。「な、なんだよ」と若干腰が引けてるグレンに真剣な顔で懇願します。
「いいですかグレン。今ならまだ間に合うのです。――今ならまだ間に合うのですよ」
「――えーと......シレン殿......何が間に合うのでござるか?」
顔をヒク付かせているグレンの代わりにクレアが問うてきました。
いけません、少し興奮してしまったようです。やはりアレは相当なストレスを私に与えていたようです。水を飲んで少し落ち着きましょう。
(拙者、シレン殿とは付き合いが短いでござるが......何事にも動じない殿方だと思っていたのでござるが......)
(あ、ああ、偶になる。言っとくが、この時のグレンには逆らうなよ――絶対にだ!)
(......わ、分かったでござる)
(......しかし、身内の事以外でこのモードは初めて見た。あんな目に合うなら......先に死んだ方がいいかもしれん)
(遠い眼で何を言ってるでござるか!? 何をされるのでござるか!?)
ふぅ、落ち着きました。
何やら二人でヒソヒソ話してますが......まあ良いでしょう、続きです。
「いいですかグレン。このまま行くとアナタはどうなると思いますか?」
「「どうなるんだ(でござる)?」」
「技名を告げないと攻撃できなくなります」
「「ハッ?」」
「これから、この技を出しますよと宣言しないと攻撃が出来なくなるのですよ」
「「..................」」
「い、いや、シレン殿、そこは様式美と申しますか? お約束と申しますか?」
「だよな? やっぱ技を使う時は口にしなきゃダメと言うか、言わないと当たる気がしねえよな」
「そんな様式美など捨てなさい、そんな約束はありません、口にする方がダメです、言わない方が当たります」
「「......」」
「そして、最終的に只の攻撃にさえ技名を付け出します。グレンなら上段斬りに
『
「おっ、いいなソレ」
「それは、流石に恥ずかしいでござるな。それに拙者も漢字の方が良いでござるな」
「......もう一度・私に・良く・聞こえるように・言ってみてくれませんか?」
「「!! シレン(殿)の言う通りだと思う(ござる)」」
ふぅ、どうやら分かってくれたようですね。手遅れになる前で良かったです。
彼らのように手遅れになると――叫ばないと技が発動しない。威力が落ちたり当たらなくなったりと、理解不能な事態になりますからね。
さて、随分と横道にそれましたが『侍』のクラスを持つクレアと知り合いになりました。
クレアと呼び捨てなのは彼女から、そうするように頼まれたからです。
まあ、同じ教室の生徒なので知り合うのは当然でしょうが、今のように自主行動を共にするようになったのは当然理由があります。
彼女以外の生徒は、やはり魔道具頼りの上に守る事しか出来ない私の戦闘スタイルに忌避間を持ったようです。幸いな事にグレンは「普通に、すげえ、と思うぞ。魔道具? 何か問題あるのか? いや、それより模擬戦しようぜ。お前の守りを、ぶち抜かせてくれ」と、寧ろ幼年学校時代より行動を共にする時間が増えました。
そんな私達が二人で模擬戦をしていた時にクレアが声を掛けてきたのです。
「グレン殿。そなたのスタイルは拙者は好まぬでござる。だが、拙者の訓練の相手としては理想的だと思うのでござるよ。見ての通り拙者の得物は刀でござる。シレン殿のように金属で守られた相手とは、すこぶる相性が悪いでござる。だからこそ――拙者と訓練をして欲しいのでござるよ」
このようにバカ正直に頭を下げられたのですよ。
この申し出に、私は一つの条件を出す事で受ける事にしました。
やはり私と行動する事でグレンも私程ではないですが、他の生徒から避けられていました。私との訓練だけだと、どうやっても防御技術を磨く事ができません。――なのでクレアさんにはグレンとの定期的な模擬戦をお願いしたのです。
そんな訳でクレアは条件を飲み、私達と行動する事になったのです。......まあ、そんな条件を出す必要もなかったのですが......。この二人、暇を見つければ模擬戦ばかりしてますからね。
まだ疲れが取れていないのか? 若干顔色が悪いというのに模擬戦を開始してます。なんとなく私から逃げるように感じましたが......気のせいでしょう。
する事が無くなりましたので、私はその場で二人の戦いを見学します。
(優勢なのはクレアですか。大剣であるグレンの攻撃はどうしても大振りになりますから......現時点でのグレンでは勝ち目はありませんね)
ただでさえ『クラス』を持たないグレンが『侍』でザイード先生から紹介された人物に指導を受けているクレアとは差があって当然です。寧ろ訓練の形なっている事を褒めるべきでしょう。恐らく同学年でクレアと同レベルとなると『槍聖』のマキシム=クラディールだけでしょう。
顔色の悪さも無くなりイキイキと刀を振るクレア。短い期間ですが彼女の性格は大体分かりました。......しかし、今だに彼女を見ていると違和感が半端ないです。
パッチリとしたコバルトブルーの瞳に金髪の縦ロール、細身な身体にドレスを着せれば貴族の活発なお嬢様にしか見えません。そんな彼女が――ござる語を使い自分を拙者と呼ぶのですから今だに慣れません。まあ、彼女自身の性格は好ましいものなので問題はないのですが......。
彼女と行動する事になって二つ程、問題が出てきました。
一つは、現在も離れた場所から私とグレンに”敵意””の眼を向けてくる生徒達だ。
『侍』であるクレアを独占する形になっている私とグレンは他の生徒からは疎ましい存在となっています。以前のように嘲笑や隔意なら只の雑音として放置できましたが......今の処、問題は起きていませんが、何かしらのチョッカイをかけてこられて対応させられるのは時間の消費です。
まあ、気持ちは分かるのですが......。
実地訓練に備えてのパーティ申請の期限の締め切りが近づいていますからね。彼等としてはクレアさんと組みたいが――私とグレンが邪魔と言う事ですね。
しかし彼等の眼は節穴ですね。
私はともかく、目の前でクレアと打ち合っているグレンの姿を見ていながら邪魔者扱いするなど――愚かですね。
パーティ申請は四人から六人。グレンを入れても十分、枠があるのですがね。
幸いな事にグレンとクレアは私とパーティを組む事を了承してくれました。正直、このパーティ申請が私にとって一番のネックになると思っていたのです。
そんな訳で、この件で何かしらの妨害を受けたなら――報復する事になるでしょう。
さて、二つ目の問題は......とてもシンプルです。
二人が暇があれば戦闘訓練に私を連行する事です。
私の目的からして、学校での戦闘訓練に割く時間は最低限で済ますつもりでした――のに、現状は完全に逆になっています。
ハッキリ言って他の生徒達より、こちらの方が問題でしょう。
一日三時間の選択授業の全てを模擬戦に費やしてどうするのでしょう?
アナタ方は冒険者じゃなく、闘技場の闘士にでもなるつもりですか?
特にクレア――『侍』なのですから魔法も勉強しませんか?
少し考え事をしている間に、グレンの喉元に刀の切っ先が添えられています。勝負あり――ですね。悔しそうにするグレンを横に、こちらに向かって刀を持った手を頭の上でブンブン振り出しました。
どうやら短い休憩は終わりのようです。
しかたありません、この時間は付き合うと約束してしまいましたからね。
二枚の盾を腕に通し重い腰を上げ、二人の元に向かいます。
思わず私の口から声が漏れました。
「ヤレヤレですね」
やらかさなかったと女神様に怒られた エンド @Nmend
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。やらかさなかったと女神様に怒られたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます