第3話
自身の、身長の半分程のカイトシールド二枚を両手に持つ、私の姿にザイード先生は、あんぐりと口を開きました。
空を見上げ、顎をさすり、目尻を揉み出し、こめかみを指でグリグリしたりと、見るからに困惑しています。
しかし、ザイード先生は本当に優秀ですね。
頭ごなしに怒鳴られる覚悟でしたが......ザイード先生は、このスタイルの意図にきずいているようです。困惑しているのは――何故この欠点だらけのスタイルなのかでしょうか?
ザイード先生は、どう言葉にするか迷っていたのでしょうが、結論だけを口にしました。
「無理。諦めろ」
当然の言葉ですね。
「体格が足りねえ、攻撃できねえ、二枚持つ意味が殆どねえ、何がしたいかは分かるが、無理だ。そもそも、そんな奴はパーティに必要ねえ」
ダメ出しの嵐ですね。
「まあ、体格の方は、まだまだ成長期だから分からんが......それでも二枚じゃ、いざって時に踏ん張れねえからやめとけ――浅知恵すぎんぞ、お前!? ――そもそも攻撃して来ない相手なんて怖くねえんだよっ! 全力で攻撃し放題じゃねえか! 片手で受け止めれるわけねえだろうがっ!!」
ザイード先生は言っていて苛立ってきたようで、段々と声が大きくなっていきます。当然そんな私達の様子に生徒達も気づきます。
二枚の盾を持つ私の姿は、多くの生徒に面白可笑しく見えているのでしょう、こちらを指さし笑う生徒もいますが......私の意図に気付いた生徒は嫌悪感を表してます。
このスタイルでは当然、守る事しか出来ません。只々守る事しか出来ないこのスタイルは、他者からすれば命を惜しんでいるだけにしか見えず、冒険者を目指す彼らからすれば唾棄すべきスタイルでしょう。
見習いとはいえ冒険者という目線で言えば、それが当然でしょうが――
――普通の冒険者を目指す彼らと違い、私の目的はアリスの旅についていく事です。『無能者』である私がまず考えなくてはいけない事は――自衛手段です。死ぬのは勿論の事、私を守るためにアリスが傷ついては本末転倒ですからね。そして、このスタイルなら私でも微弱ながらでも戦いに参加する事が出来るのです。
――盾で受け止める。その点については『無能者』の私でも出来るのです。
しかし、これは私の方の都合で、冒険者からすれば寄生されているようなものです。冒険者の仕事と戦闘は切って考えられません。戦闘が想定されていないクエストでも戦闘が起きるのが冒険者の仕事なのです。守る事しか出来ない私をパーティーに入れるなら......普通に敵を倒せる人物を入れる方が効率がいいでしょう。
なので......本来なら、このスタイルを見せる必要はなかったのです。わざわざ自分から燃料を投下する行為なのですから......それなのに、この場で見せたのは.........何故なんでしょう? ......本当に何故なんでしょう? 何一つメリットはありませんのに。
悩む私の視界にグレンが映ります。
他の生徒のように笑わずに、訝し気に私を見ています。
しかし、その表情はマイナスの感情ではなく......私が何をするのか楽しみだと告げています。
......なるほど......転生を幾度か繰り返している私も、まだまだ子供なのですね。
まあ、今世では、まだ十四歳ですし問題は無いでしょう。
――友人に、本当の自分を見てもらいたい――
なんて子供染みていますね。
(まあ、無理に隠す必要な事でもありませんし問題はないでしょう)
私はザイード先生に自分の意志をハッキリと伝える事にしました。
「普通なら先生の言う通りでしょう。しかし、私は冒険者になりたいのでは無いのです。私は私の目的の為に冒険者としての経験と知識を求めているのです。その目的の為に私はこのスタイルなのです」
「......」
本心を隠すことなく告げると、ザイード先生は顰め顔で私を睨んできます。
私は自分の考えを間違っているとは思っていません。目標でなく目的の為に冒険者学校に居るからと非難を受けるいわれはないでしょう.......が、冒険者として生きてきたザイード先生や、冒険者を目指す生徒からすれば面白くない事も理解できます。
だから私は、ザイード先生の眼を見返します。
睨み合う形になった私達でしたが、ザイード先生は小声で(......ったく、十四のガキが何がありゃ、こうなるんだ?)何かを呟いた後、頭をガシガシと掻くと「まあ、間違っちゃいねえな。冒険者に、なるならねえは自由だわな」と言いましたが......
「だがな。お前のそのスタイルはダメだ。盾を二枚持った処で通用する場面なんて複数の弓矢に居られたとき位だ、お前の考えは、多方面の攻撃に対しやすいとかだろうが、絶対に踏ん張りきれねえよ」
と、私のスタイルについては絶対に認めるつもりも無いようです。
まあ、ザイード先生からすれば色々とダメ出しをするのも当然でしょう。私も盾を二枚持とうなんて普通なら考えません。
なら何故、私が現在このスタイルかと言うと、言うまでも無く、このスタイルを可能とする方法が見つかったからです。
色々とザイード先生がダメ出しをされてましたが根本的な理由を挙げれば、相手の全力の攻撃を受け続けれない。ということでしょう。
ならば、それが出来る事を証明すれば良いだけの事です。
私は並べられた武器の中から一本の武器を選び。それをザイード先生に差し出します。「はっ?」と私の意図が分からず声を出す先生に言います。
「これで私に攻撃をしてみて下さい。――その結果で判断を下してください」
私の言葉に「はぁ?」と呆れた声を出したザイード先生でしたが、真っすぐ見据える私の眼を見ると「......いいのか? ケガですまないかもしれないぞ?」と真剣な顔で問うて、差し出された武器を手にしました。
「ええ、見極めて下さい」
私は左手のカイトシールドを胸の前で構え腰を据えます。
ザイード先生は真剣な表情で――巨大な両手持ちのバトルハンマーを構えます。
張り詰めだした空気に中、向かい合う私達――周囲からの雑音が止みました。
不穏なな空気を感じ、黙り込んでいた生徒の誰かが「おい、なんか不味くないか?」と声を出した時――「いくぞ」と、ザイード先生の声が耳に届いたと同時に
ガッツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーン!!
大音響がグランドに鳴り響きました。
音が止んだ後に残ったのは静寂。
誰もが呆然と口を開け眼を見開いて只一人を眼に写す。
微動だにせず盾を構えたままの『無能者』を
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