第2話

「よし、全員集まっているな」


 グランドに集合した私達を見渡したザイード先生が満足気に頷いています。

 一限目は自己紹介と挨拶でしたから、言ってみれば、この時間が冒険者学校の初授業となりますが......グランドに集合と言われた時点で予測はしてましたが、まさか初授業が戦闘訓練とは思いませんでした。

 

 様々な種類の鉄製の武器が用意されてるのが眼に入りました。。


「よし、聞け。この時間は素振りだけだ。で、後の時間は模擬戦をする。――試験と違い使う武器は全て鉄製だ。勿論、刀剣類は刃を潰しているが打ちどころが悪ければ普通に死ぬからな。鈍器に関しては殺傷力が低い形状にしているが、こちらも当然死ぬからな。寧ろ鈍器の方が、この場合は殺傷力があるな」


 軽く言ってきましたが、これは完全に脅しですね。何人かの生徒は委縮しています。

 まあ、ザイード先生の言っている事は完全な事実です――軽く思われるよりは良い事でしょうが......まさか模擬戦とは、さすがに予想外でした。そのように思っているのは私だけではなかったようで、殆どの生徒は戸惑っています。

 

「聞け。言いたい事はわかるが、これらは、なまくらだが本物の武器だ。お前らの殆どは木製の武器しか振るっていなかった筈だ。まあ、型や動きを染み込ますには問題は無いが、やはり鉄と木じゃ感覚が違う。まあ一番わかりやすいのは重さだな。だからまずはその違いを知ってもらう」


 ザイード先生の説明は、とても分かりやですね。

 幸いな事に私の家にはミスリルやらオリハルコンやらの武器がゴロゴロと埃を被っていたので問題ありませんが、一般的に冒険者を目指すような方は裕福ではありません。下手をすれば木剣どころか、木の棒とかもありえます。殆どの冒険者の武器の素材は鉄製なのですから、最優先でそれを慣れさすのは、とても理にかなっていますね。――習うより慣れろ。という事ですね。

 

「それを含めての模擬戦だ。おそらく殆どの奴は普段通りの動きは出来ないはずだが、それが今のお前らの実戦での実力って事だ。得に手数やスピードを得意とする奴は注意しろよ――この先そのスタイルで通すかどうかは真剣に考えろ」

 

 ......なるほど、そういう事ですか。

 失礼な言い方ですが......ザイード先生は見た目や口調と違い、とても効率的な考えをする方のようですね。確かに自分の適性や実力が分からず、試行錯誤した処で無駄が多いですね。

 まあ、それでもいきなり模擬戦は乱暴だとは思いますが......これは性格なんでしょうね。


 そんな訳で、ザイード先生の説明に皆、納得できたようで、自分が使うべき武器を手にし、それぞれに素振りを始めます。

 

 恐る恐る杖を振るノーラさん、何故か飛び上がりながら雄たけびを上げながら大剣を振る....グレン、黙々と刀を振るクレアさん。その他の生徒も真面目に取り組んでいます。


 そんな中、私は未だに、どの武器を選ぶか迷っています。

 私にとって素材の違いは問題ではありませんが、私の戦闘スタイルだと素振りの意味が無いと言うか......出来ないのです。それに私のスタイルは、どう考えても......この場所で受け入れられると思えません。周囲の雑音等は気にしませんが、わざわざ自分から燃料を投下する必要もありませんから、無難にいくのが正解なのですが......


 どうして私は悩んでいるのでしょうか?


「何をしてるシレン? 早く選んで始めろ」


 皆が真面目に素振りをしている中、一人だけ棒立ちになっていれば、ザイード先生から注意の声が上がるのは当然でしょう......。


(さて、どうしましょうか? ここは無難にメイスを選ぶべきでしょうか? 『無能者』の効果を考えると武器としては一番、私に向いていますが.......)

 

「おい、シレン!」


 悩む私に苛立つ声を上げたザイード先生に対し、私は行動で返事をする事にしました。

 

 両手に、それを持つ私の姿にザイード先生は困惑します。


 当然でしょう......何故なら私の両手にあるのは――


 ――二枚の盾なのですから。

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