冒険者学校

第1話

 今日は冒険者学校の入学式の日です。

 体育館でスキンヘッドの学長の短くともありがたい話が終わり、私達はクラス分けの後、教室に案内されました。


「あー、今日から一応お前らの担任になるザイードだ。専任は近接戦だ。まあ、今日から一年間よろしく頼む」


 教壇に立ち、ぶっきらぼうな自己紹介をしたのは試験の時の教師でした。


「先生殿。『クラス』はなんでござる? 拙者は刀を使っているのでござるが......周りに使用者がいないのでござる。出来れば教授をお願いしたいのござるが?」


「ああ、確か名前はクレアだったな? 俺のクラスは『戦士』だから大抵の武器はそれなりに扱ってきたが、刀はちょっと特殊だからな、対処方は教えられるが扱いに関しては無理だな」


「......そうでござるか」

 

 ござる語を使う、活発なお嬢様風の少女が待ちきれないとばかりに立ち上がって質問しましたが、残念な結果に肩を落として席につきました。


 刀ですか? そう言えば今世では見たことはありませんね。胡乱な記憶ですが、確か......剣が叩き斬るで、刀が斬りさくで、扱い方がまったく別物とか言っていたのを覚えていますが......どう違うんでしょうね?

 彼ら、普通に刀で岩を粉砕してましたし、剣で鋼鉄を斬り裂いてましたが......違いが分かりませんね。


「あー、待て待て。確かに俺には無理だが知り合いに刀使いの爺さんが居る。授業時間外になるが、お前にやる気があるなら教えても良いそうだ。お前と同じ『侍』だから悪い話じゃねえだろ?」


 よっぽど嬉しかったのか、ザイード先生の言葉にクレアさんは「是非!」と身体を前乗りに元気な声を上げました――が、恥ずかしかったか、すぐに席に座ると俯いてしまいました。私は最後尾の席なので分かりませんが多分、顔を真っ赤にしている事でしょう。


 しかし、このザイードという教師、口は悪いですが父様と私が思っていた以上に人が良いようですね。クレアさんの為に、無駄になるかもしれないのに入学前から準備していたようです。なんとも気持ちの良い方ですね。


 そんな事を考えていると、教室内がザワザワと騒がしくなっていました。


「おい『侍』だってよ」「いいなぁ『侍』か」「レア職か」そんな声が聞こえてきます。


 なるほど。騒めきの原因は『侍』ですか。

 確かアリスの表向きに発表されている『魔法戦士』に似た『クラス』でしたね。魔法も近接戦闘も平均以上に伸びますが『侍』は刀の方に比重が向いている――でしたね。


「お前らっ! 静かにしろっ!」


 ドカンっ! と机を叩く音とザイード先生の怒声が教室中に響き渡り、騒めきは一瞬で収まりました。

 さすがの貫禄と申しますか、大柄で強面なザイード先生の迫力は冒険者のヒヨコである生徒達には、まだ耐えれるものでは無いようです。一瞬で皆さん、シャンっ、と背筋を伸ばして正面を向きましたね。


「言っとくぞ、俺が話している時は質問はいいが私語はするな。わかったな。.......良し、わかったなら自己紹介は始めろ。ああ、軽い質問ならしていいぞ。ほら順番は左の列からだ」

 

 言われた私達生徒は一斉に「「「はい!」」」っと綺麗に揃った返事を返しました。そんな私達を一望してから述べられた言葉で、私達は自己紹介を始めました。


 ......


「シレンです。クラスは『無能者』です。これから二年間よろしくお願いします」

 

 席の順番の加減で私の挨拶は最後でした。

 因みに、私の挨拶に対しての反応はこれとありませんでした。若干騒めきましたが、すでに試験日と合格発表の時に私の存在は周知されていたようですしね。まあ、ザイード先生と母様の威光のお陰でもあるのでしょうが......。


「良し、挨拶は終わったな。それじゃあ、この時間は好きにしろ。次はグランドに集合だから遅れないようにしろよ」


 挨拶が終わるとザイード先生は、そう言い残して教室から出ていきました。

 そうなると教室は一斉に騒めきだし、生徒の誰もが二人の少女に群がり――二つの人の山が出来ました。


 まあ、当然でしょう。皆の挨拶を聞いてみた限り、やはり『クラス』持ちは少ないようで、二十四人居る私達のクラスに『クラス』持ちは私を含め三人だけでした。


 私の持つ刀使いのイメージと、まったく合わない『侍』のクレアさん。

 ピンクの前髪で眼が隠れている『魔法使い』のノーラさん。

 そして『無能者』である私。


 当然、人の山が出来ているのは、私を除いた二人です。


『侍』のクレアさんのクラスも優秀ですが、ノーラさんの『魔法使い』もレアではないですが充分優秀です。そもそも魔法を使える人間自体が少ないのですから当然でしょう。

 冒険者を目指す、生徒達が二人と知り合いになろうとするのは当然でしょう。

 

 そんな中、一人だけ私に声を掛けてくる相手がいました。


「よっ、シレン。相変わらず無愛想な顔だな」


「そうですね、残念ながら治りそうになさそうですグレン」


「はっ、言葉使いも相変わらずか」


 声を掛けてきたのは、この間まで私と同じ幼年学校に通っていた友人のグレンです。

 短髪の燃えるような赤毛で、成人男性と言われても遜色のない体格を持つ少年です。なにげに特徴がザイード先生と似ていますね? まだ少年らしい顔ですが成長すればザイード先生のような強面になるのかもしれません。


「......お前、今、何か怖い事、考えなかったか?」


「気のせいでしょう。それよりグレン、あちらの方は良いのですか?」

 

 野性の勘で問うてくるグレンに私は誤魔化すのに二つの人の山に目線を移します。


「ん? ああ、今いっても迷惑だけだろうからな。そのうち仲良くなれるだろ」


「クク、貴方も相変わらずですね」


「ん? そうか? まあ、お互い変わらず元気って事だな」

 

 的外れの答えを口にして、朗らかに笑うグレンの声が大きいのも理由でしょうが、生徒達が私達の方を訝し気に見ています。私は無駄だと分かっていますが友人として忠告をしときます。


「一応忠告しときますが、余り私と仲良くしてるとこは見られない方がいいですよ」


「? ......? ......? ......?」


「私は『無能者』ですよ」


 ここは冒険者学校、幼年学校とは違うのです。冒険者としての技術だけでなく自分の命を預ける事になる”仲間”となる存在を見極める場でもあるのですから『無能者』である私と余り親しくしない方が良いだろうとの忠告でしたが......まさか、私の言いたい事がまったく分からないとは思わず......しきりに首を傾げるグレンに私は自分から、それを口にしました。


 まあ、結果は予想通りでした。


「ん? ああ、それか! そんなのすぐに払拭できるだろ? それでもお前を認めない奴なら――こっちからお断りだな」

「......そうですか」

「そうなんだ」


 私は良い友人を持ちました。

 気持ちの良い笑顔を向けてくる友人に、自然と私の口から感謝の言葉がもれました。


「ありがとうございます」


 と


 私の友人は、礼を言われた意味が分からなかったようで、しきりに首を傾げていました。

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