第11話 女神の回想 中編
「はぁ......でも、何時までも隠せられないわよね」
前回の神会での様子を思い出し、ミストラスは重い溜息を吐いた。
忌々しいのは、自分が魂を消滅させたあの男だ。
自分がコツコツと千年(実は一億年)かけて創ったスキル『万物創造』を与えられながら......何もやらかさなかった――あの男が全部悪い!
「まったく、あの中二病、何だったのかしら? 『万物創造』持っておきながら、村人って! ......まあ、そのお陰で、あの世界をリセットしなくてもすんだわけだけど......それでも村人は無いわ。皆の前で、あれだけ大口を叩いて――平凡な村人の一生なんて持っていったら......あの連中に、別の意味で笑いを提供するだけじゃない!」
「あー忌々しい! 忌々しいったらないわ!」
誰もいない空間のベットの上を、行儀悪くゴロゴロ転がりながら喚き立てるミストラル。もはや慈愛の表情は掻き消え、その表情はヒステリックに叫ぶ何処にでも居る女性そのものである。
いつ終えるかも分からぬ程に、同じような悪態を続けるミストラルだったが――唐突に「喉が渇いたわ」とムクリと起き上がると――テーブルの椅子に腰かけていた。
ミストラスはテーブルの上に用意された紅茶を優雅に飲み干すと――
「まあ、どうしようもないわね」
と、ようやく、その答えに辿りついた。
当然であろう、全てはミストラル自身が招いた結果なのだから......。
自由に生きろと言われ、自由に生きただけのシレンに責任は無いと断言できよう。
神々に笑われるのも、無駄に大言壮語を吐いたミストラル自身の責任であろう。
「はぁー、次の神会は覚悟するしかないわね......。なにか、それまで時間潰す事ないかしら?」
そう言って、娯楽用に用意したスキル世界を覗いてみたが――ミストラスのスキル世界は基本スキルしか用意されていない世界だ。神である彼女からしたら「つまんないわ」の一言で終わる。
そこでふと......彼女は消滅させたあの男の事を思う。
「ああ、消滅じゃなく地獄巡りでも良かったわね」
――と
それを見ながらスキル創りをすれば退屈も少しは紛れそうだ。――と思ったミストラスだが、すぐに頭をふった。
「ダメね、あんなの直ぐに飽きちゃうわね、暇潰しにもならないわ」
実際、今までがそうであった。悪人、善人問わずにミストラルは地獄巡りに何人もの人を送っている。それを彼女が見届けた事は無い。
良くて第二地獄、殆どが第一地獄で飽きて......忘れてしまう。
そんな、忘れられた存在の彼等は今だに地獄巡りを続けさせらている......神の救いを信じて。
これでは『悪神』だとなるだろうが、ミストラルは『善神』では無いが『悪神』ではない。
神々の中では数多くある『中立神』である。
地獄に送られた彼らも、無作為に選んだ訳ではなくミストラル的には理由があるのだ(あくまでもミストラルだけの理由だが)
もし、シレンがミストラルの望む通り――スキル世界の中の一つか二つをリセットさす程度のやらかしをしていたならば、ミストラルはシレンに多大な感謝と、破格の褒美を与えただろう(それをシレンが望むかは別問題だが)
理由もなく――施しも与えないが、罰も与えない。
理由があれば――善行もするが、悪行もする。
要は......神の気分次第なのだ。
「ハァー、なんかもう、どうでも良くなった来たわ......次の神会まで寝てましょ」
そう言うと、テーブルとイスが消えミストラルはベットに横たわっていた。
時間の概念を捨てれば待つ時間は皆無である。――そう思い目を瞑ろうとしたミストラスだったが......ムクリと起き上がった。
「へぇー、眷属誕生の兆しが出るなんて、久しぶりね」
システムから送られた来た報告にミストラスは機嫌の良い声を上げる。
「まあ、今度も期待ハズレでしょうけどね」
――と、おどけながら口にするが、その表情は真剣そのものである。
当然であろう。
彼女は他の神々が#スキル世界__娯楽__#にリソースを割く中、彼女は、それを羨ましく横目にしながらも眷属作りの為に多大なリソースを『クラス世界』につぎ込んで来ていたのだから。
何故ミストラスが、他の神からすれば変態じみた程に眷属作りに励んでいるのか? 当然の事ながら理由はある。
彼女は唯々――生き残りたいのだ。
この自分達が存在する『真なる世界』で起きる――全次元、全宇宙の存続を掛けた戦いにだ。
それがいつ起きるかは、この『真なる世界』の誕生から存在する『創世の女神』ですら分からない。
しかし、それが起きるのは『創世の女神』が予言しているのだから......起きるのだ。
――ミストラスからすれば、他の神々の方がおかしいのだ。
どの神も、負ける事を考えていない。――敵がどういうものかも分かっていないのにだ。もしかしたら、神々同士の戦いも起きるかもしれないのだ。
だからこそ、ミストラスは自分の戦力となるべき眷属を求めているのだ。
もし、その戦いに敗れたとしても......次の――
――『創世の女神』になる為に。
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