第10話 女神の回想 前編

 この場所の事を説明するなら、大抵の人はこう答えるだろう......広々として何もない空間だと。

 三百六十度、どの方向を見渡しても、この空間の広さを図る事は出来ない。

 そんな、空間の中にポツンと一つだけ異物があった。

 豪華な天蓋付きベットである。


 そのベットには、女神の如き慈愛を感じさせる美貌を持つ、長い金髪の女性が大の字で横たわっている

 女神ミストラスは身動きせずに憂いの眼で空を見つめている。

 

 女神である彼女に、時間の概念は余り意味がない。

 自分がどれ程の時間この状態でいたのか......女神には、どうでもいいことだーー一人の人間が誕生し寿命を迎える程かもしれないし、人ではなく文明かもしれない。あるいわ瞬きする程の短い時間かもしれない。


 女神にとって時間を感じる時は他者と関わるときか、システムから報告がくる時だけだ。

 そんな、超越した存在である女神の口からポツリと......


「暇だわ......とっても暇だわ」

 

 苛立ち紛れの声が漏れた。


「長い! 長いわよっ! 何!? まだ、こんだけしか溜まってないの!?」

 

 確かに、神にとって時間の概念は無視できるだろう。だが、何かしらに意識を向けてしまうと、神とはいえ時間に囚われてしまうのだ。


「あー、もう暇すぎるわ......暇だし別の神のとこにでも遊びにいこうかしら? ......やっぱ駄目ね。絶対あいつら笑うわ、そしてバカにされるわ」


 一瞬良い考えだと思ったミストラスだが、すぐにその考えを打ち消した。

 何故なら、散々神々に自慢していたからだ。

 『万物創造』を人間に与えた事を。


 これから先は、その時の会話である。



「おい、聞いてくれ。儂とこの超越神になった」


「嘘! マジかよ!?」


「早く、早く見せなさいよゼウス! 持ってきてるんでしょ?」


「当然じゃアマテラス。ほれ、これじゃ」


「.........」


「サ、サ、サ、サイコォー!」


『俺は、神の座になんてもんに興味ねえよ。ただ、お前が俺の大事なあいつらに手を出そうってんなら――全ての次元のお前を殺しつくすだけだ』


「――だってよぉ~~~~~~。ヒィーヒィーヒィヒィ。は、腹が......誰か助けてくれ!」


「! む、む、無理」


「いやいや『僕はもう、君にイジメられていた、あの頃の僕じゃない! ぼ、僕は.....俺はお前を倒す!』ってとこも良くない?」


「テンプレ乙」


「ヒィヒィヒィ――ヤ、ヤ、ヤメロ......殺す気か......」


「!!!!!!」


「アシュっちとアテナっちは相変わらず笑いの沸点が低いなぁー。そういやロキっちの方はどうだったん? たしか同じ『スキル』だったよね?」


「......グッ、俺とこは魔王になって魔族以外を滅ぼしただけだ。ありきたり過ぎて見るべき処などなかった」


「あら、それは残念ね。たしか『無限成長』だったかしら? リソースの割に地味ね」


「まったくだ。しかも魔族以外残っていないときた。リセットするしかあるまい」


「それは、まあ......ご愁傷様ね」


「グワッハハハハ、ロキよ、掛けは儂の勝ちじゃの。約束通りリソースは貰うぞ」


「ムグググ......分かっている、持っていけ」


「ふぅふぅふぅ......」


「アシュラよ、ようやく落ち着いたようじゃの」


「ん? ああ、ヤバかったわっ。いや~おもろかったわ爺さん」


「うむうむ、そうじゃろ、そうじゃろ」


「でもよ爺さん。超越神なんて生まれたら次どうすんだ?」


「うむ、確かにの......これ以上の存在はあらわれんしのぅ」


「だよねぇ。リセットするにも超越神だと全部しないとダメだからねぇ」


「まあ、ロキからリソースを貰って余裕はあるが......暫らくは時間つぶしに『ほのぼの』系をいくつかやって様子見じゃの」


「『ほのぼの』系か...俺は好かんが...リソースは食わないな」


「うむ、そういう事じゃ。――さて、次はおるかの? まあ儂のより面白いのがあればじゃがの」


「はっ、さすがに爺さん以上のは、そう簡単には出てこねえよ」


「だねぇ、僕は持ってきたけど今回はパスさせて貰うよ」


「ガッハハハハ、そうじゃろな。そうじゃろうとも」


「はぁ、その下品の高笑いも今回は仕方ないわね...。――そう言えばミストラス、今日はなんだかずっとニヤニヤしてるだけで黙っていたけど、どうかしたの?」


「ふふ、ふふふ、ふふふふ、ようやく聞いてくれたわね、アテナ」


「な、何? 気持ち悪いわよミストラス?」


「ふふふ、まあ聞いて頂戴。ほんと~~~~~~うに長かったわ! コツコツとコツコツと本当にコツコツと貯めて完成させたわ」


「......何をよ? てか顔が近いわよ少し離れなさい」


「聞きたい? 聞きたい? どうしようかしら」


「うぜえ! さっさと言いやがれ」


「ふふ、いいでしょう。そんなに聞きたいなら教えてあげるわ」


「うわぁー、凄くウザイや」


「別に聞かなくてもいいぞ、儂?」


「シャッラップ。――ふふ、頂点を取ったつもりでしょうが...ゼウス! これを聞いて慄くおののくがいいわ――」


「さすがに私も、ウザくなってきたわ」


「――『万物創造』が完成したわ」


「「「!!!!!!」」」


「おいおいマジかよ!?」


「うわぁー」


「あらあら、凄いわね」


「あんた、いつの間に? 今までスキル世界に興味なさそうだったのに? あんた作りにしか興味ないのかと思っていたわ」


「ふふふ、確かに私のリソースの殆どは眷属創りの為に『クラス』世界に振り込んでいますからね。だから言ったでしょコツコツと貯めたと」


「......いや、あんたコツコツって言っても限度があるでしょ? 普通でも千年よ? あんたなら――」


「ええ、本当に退屈でした......作業中は時間の概念に囚われてしまいますからね......ほんと~~~~~~うに長かったです」


「......じゃろうの」


「そういう訳で、これで、ようやく皆と共通の話題を持てますね」


「なんじゃ、寂しかったのか?」


「アシュっちがバカにするから」


「え? 俺か?」


「ごめんなさいね、ミストラス。そんなに思い詰めていたなんて......」


「ふっ、なんとでも良いなさい。あなた達の誰もやったことのない――『無自覚』系と『万物創造』の夢のコラポよ」


「それはまた、予測できない組み合わせを」


「ああ、面白くなるのは間違いないだろうが......流石に全リセットは避けたいからな」


「え?」


「じゃの、予測できんのが面白いのは事実じゃが......さすがに全リセット覚悟はキツイの」


「ん? なんでだ爺さん? 『無限成長』だったんだろ? 可能性は低いが超越神なら予測できただろ?」


「うむ、そうじゃが、元々あの世界はマンネリ化しておっての、リセットするつもりじゃったんじゃ。ロキの方も同じ理由での......なら最後にぶち込んで見るかと思っての」


「え?」


「.....その反応.......あたな......もしかして......」


「.....ホ、ホホ、そんな訳あるわけないでしょ。勿論分かっていたわよ」


「.........はぁ」


「まあ、あれじゃの、これは次の集まりが楽しみじゃ」


「だね。じゃあ次の集まりはミスっちの処の『万物創造』君の映像が上がった時かな?」


「そうですわね。楽しみですわ」


「うむ、どんな映像になるか楽しみだ」


「期待してんぞミストラス」


「......ええ、ええ、期待していてくれていいわよ.....ええ、スッゴイのを用意するわ」


「ヤケになってない、あんた?」


「そ、そ、そ、そんな事ないわよアテナ。う、うん、そんな事はないわアテナ」


「......何で二回言うのよ」


「べ、別に意味はないわよ。言いたかっただけよ。そ、それより、私そろそろ戻るわ――観察しなきゃいけないから」


「あ、ちょ、ミストラス待ちなさい」


 ――回想終了


 因みにミストラスが帰った後に交わされた会話を挙げておこう


「しかし、あいつ、すげえ根性だな」


「そうですわね、彼女は私達と違って眷属創りを主体にしてますからね」


「まあの、あのシステムは良く出来ておるからの」


「確かにね。でも、あれって完成され過ぎていて下手にいじれないわよね?」


「だねぇ、下手にいじれば達磨式で不都合が起きそうだよねぇ」


「しかし、千年か? チマチマ千年ってのは......俺様には無理だな」


「あら、違うわよ。あの娘の場合だと一億年はかかったんじゃないかしら?」

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