第8話

 試験を終えて五日後。

 私はアリスを伴い、合格発表を見に再び冒険者学校に訪れますた。

 校門を超えると、すぐに人混みが出来ている場所が目に入り私達はそちらに足をむけます。


兄さまにいさま番号は四十四番でしたか?」


「そうだね、それで合っていますよ」


「じゃあ、私が見てきてあげますね」


 と、アリスは人混みに向かって走りだします。

 私は急ぐことなく普通に歩きながら、このような処はまだまだ子供ですねと思いつつ、私もまだ子供でしたね。と益体のない事を思っていると、アリスが複雑な顔をして戻ってきました。

 

「どうでした?」


「......受かっていました」


「......そうですか」


 正直、合格出来る自信は半分程でしたが......どうやら私は無事に冒険者学校に通う事が出来るようです。

 私は祝ってよいのか、残念がればよいのか? どっちとも言えずに渋い顔をしているアリスに言います。


「アリス。兄さまの努力を認めてられたんです。祝って貰えませんか?」


「......そうですね......兄さまが認められたんですよね。おめでとうございます。兄さま」


「ありがとうございます。アリス」


「はぅっ!」


 残念ながら全て納得が言った訳ではないでしょうが、アリスは久しぶりに笑顔でお祝いの言葉をくれました。

 やはりアリスには笑顔が似合いますね。

 

 私が『無能者』にされてからは笑顔の数が極端に減り......私が冒険者を目指すと言ってからは心配顔ばかりなっていましたから......久しぶりの笑顔に私も顔が綻んでしまい――思わずお礼と共に昔の癖でアリスの頭を撫でてしまいました。

 

 残念ながらアリスは私のその行為が気に入らなかったらしく、なんとも可愛らしい声を上げると、すぐに頬を赤くして「兄さま、子供扱いは辞めて下さい」と手を払われました。


 アリスは、まだ十歳ですが残念ながら子供扱いを嫌います。私としては、もっと甘えさせたい処ですが――『勇者』としての自覚からか......それをさせて貰えません。寧ろ『無能者』である私の事を心配し何かと世話を焼こうとしてきます。兄として、とても不甲斐ない事です。

 

「すみません」と剥れる《むくれる》アリスに誤る私でしたが...

 

 ――迂闊でした。少し目立ってしました。


 周囲からヒソヒソと声が聞こえます。


「おい、あれって?」「『無能者』だ」「まさか合格?」「はっ、コネか」「一緒にいる娘、誰だ?」「妹じゃない?」「妹って...あんな可愛い娘が『魔法戦士』?」「母親が『剣神』妹が『魔法戦士』で兄貴が『無能者』って」「出涸らしだな。笑える」「俺なら生きてられないな」......。


「っ!!]


 私はすかさず、激高しだすアリスの手を握りしめます。


「......」


 何故? と言いたげに私の眼を見るアリスに私は駄目だよと首を振ります。

 暫らくしてアリスは周囲を一度見まわして(顔は覚えたからな)......何かを呟いた後に――「兄さま。帰りましょう」と私の手を引き歩き出します。私は「そうですね」と手を握ったまま一緒に校門へと向かいます。

 

 校門を抜ける時にポツリと零れるかすれ声――


「兄さま......悔しいです」


 唇を噛み、今にも泣き出しそうなアリスの声に......私は「すみません」と返す事しか出来ませんでした。  

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