第2話

 おはようございます。

 私の名前はシレン。五歳です。平民なので性はありません。


 さて、転生してからはや五年。今日までこれといったトラブルもなくスクスクと成長させて頂いておりましたが.....困った事に、現在、私死にかけてます。

 

「にいちゃ! にいちゃ! にいちゃ!」

「だいひょうぶですよ。にいちゃは、へんきでひゅよ」

 

 ふむ、意味の無い暴行のお陰で、ちゃんと発音出来ませんね。不甲斐ないです、可愛い妹が泣いているのに寧ろ悲しませてしまっていますね。

 

「にいちゃ!! にいちゃ!! にいちゃ!!」


 身体中、傷だらけで倒れている私のお腹に覆いかぶさって泣きじゃくるアリスを宥める為に身体を起こします。残念ながらお互い手枷をされているので抱きしめる事は難しいので頭を撫ぜます。


「ひょら、にいひゃはだいひょうぶですよ、だかひゃ泣き止んでくだひゃいアリシュ。ひゅぐにとうひゃまとかあひゃまがむはへにひてくれまひゅよ」

《ほら、にいちゃは大丈夫ですよ、だから泣き止んで下さいアリス。直ぐに父様と母様が迎えに来てくれますよ》


「っ!? にいちゃ!!!!!! にいちゃ!!!!!! にいちゃ!!!!!!」


 ニッコリ微笑んだつもりですが......どうも現在の私の顔は相当酷い事になっているようです。数か所の骨折に痣に、顔の面積も倍ぐらいになっていそうですね。下半身の感覚も殆どありません......眼が腫れてよく見えませんがアリスが真っ青な顔になったのは分かりました。

 

 出来れば扉の外の見張りを刺激したくないので大人しくして欲しいのですが、まだ三歳のアリスにそれを求めるのは酷でしょう。

 少し身体がきついですが手枷が付いた腕を頭から通してアリスを抱きしめます。折れた肋骨が痛みますが我慢してアリスが泣き止むのを待ちましょう。


「グス、に......いちゃ.........」


 暫らくすると泣き疲れたのでしょう、アリスは寝息を立てだしました。正直、身体を起こしているのも辛いのでアリスを起こさないように絨毯の上に横たわります。

 

(さて、これからどうしましょうか?)


 自力で脱出するのが一番でしょうが......今の私の身体では不可能ですね。出来ればアリスだけでも逃がしたい処なのですが......扉が一つに鉄格子付きの天窓ですか......。

 完璧に不可能ですね。

 さすが公爵家、屋敷の中に監禁部屋ですか。

 

 まあ、それでも幸いと言えるのは鉄格子さえなければ快適な部屋なのが救いですね。不摂生な牢屋等にアリスを入れられるなど我慢がなりませんから。

 出来ればアリスには見るからにフカフカなベットで寝て貰いたいものですが......不甲斐ない私には現状その程度の事もしてやれません。


 正直に申しまして......このままだと父様と母様が助けに来るまで私は生きていないでしょう。

 ある程度の痛みを無視する技術はありますが負傷が消える訳ではありませんから五歳のこの身体が、まだ活動しているのが不思議なのです。

 

 まったくあの公爵はバカなのですか?

 何故、人質を交渉前に殺しかけているのでしょう?

 二人いるからと交渉前に殺す必要性が、まったくありません。

 アリスに危害を与えようとしたので金的に頭突きをかましただけで、殺しかけますか?

 

 まあ、今考えると良かったかもしれませんね。

 三歳のアリスがバカ公爵の癇気に触れない訳がありませんから。流石に私がこの状況でアリスに危害を与えようとはしないでしょう。

 

 さて、そんな訳で当分の間は大丈夫ですが、アリスには母様達が直ぐに迎えが来ると言いましたが、二人は現在、冒険者のクエストで街を離れています。簡単なクエストですぐに帰ると母様は言っていましたが、今日明日という訳にはいかないでしょう。

 

 ああ、そうだ。侍女のセーラさんが気に病んでいないと良いのですか......。

 父様が、セーラさんがいるから僕達は安心して私達を置いて冒険出来るんだと言っていましが、誘拐犯の中に母様と同じ『剣聖』とやらがいたのですからセーラさんに責任は無いと思うですが......セーラさんの性格だと気に病むなと言う方が酷な気がします......下手な考えを持たないでくれたら良いのですが。


 ああ......不味いですね、考えが飛んでますね。

 これはいよいよを使わなければいけませんかね?

 正直、の事を抜いても使うのは気が進まないですが......アレはこの世界では目立ち過ぎます。

 それでも、私が死ねばアリスがどうなるか分かりませんから――ギリギリまで待って駄目なら......。


 ですが、まあ大丈夫でしょう。

 何故なら母様は気合と根性の人ですからね。

 息子の無茶な願い程度なら軽くこなしてくれる筈です。

 ほら、その証拠に――

 音もなく部屋の壁が微塵切りなりましたよ。


「お前達、無事か!?」


 母様の声を聞いた私は、喜びと、ああ......もっと皆と居たかったなという無念さを感じて意識を手放しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る