第3話
こんにちは。
私の名前はシレン=ペンドラー七歳です。皇族になったので性が付きました。
いやー、まさかあの状態で生き残れるとは思いませんでした。完全に死んだと思いましたね。
なんと申しますか......魔法というのは凄いものですね。あれだけの重症だったのに一週間程寝込むだけですみました。お陰で現在は家族と楽しく暮らせています。
私を治療をしてくれた聖女様には足を向けて寝れませんね。
さて、まずはあの後の話をしましょう。
簡単に流れを説明しますと――
母様、キレる。
父様、止めない。
公爵、首チョンパ。
王様、土下座。
母様、皇帝。
父様、皇配。
アリス、皇女。
シレン、皇子。
こんな感じだったようです。
ええ、分かります。明らかに途中からおかしいです。
いえ、詳しく説明したい処なのですが私が目覚めた時には既に全部終了していたのですよ。
だから私的には――目が覚めたら皇子だった。わけですね。
何かのタイトルになりそうですね。
父様が言うには、実は母様がクラス詐欺をしていたらしく、実は『剣聖』じゃなく『剣神』だったらしく、この国の戦力で対応出来ない存在だったらしいのです。
それでも母様は平民だったので、どんな理由があろうと公爵を首チョンパなんて事をすれば国としては罰を与えない訳にはいかなかったらしいのです。
ここまでは私でも理解は出来ますが、この先から話がおかしくなります。
王様がイキナリこの国には存在しない筈の、王の上位である皇帝に母様を任命したのですよ。
この時点で何故? となるのですが......理由としては要は母様が平民だから問題であって公爵よりも地位が高いのなら、事件の内容的に母様を罰する理由が無くなるからだそうですが......
それで何故、皇帝なのでしょう?
王より偉くなっていますね。
「わっははは! そりゃ当然じゃ! お前の母親に勝てる者等おらんからな。それに丁度良かったのじゃ、王族にもバカはおってな――纏めて綺麗サッパリ処断できたからな」
これは当時、不思議に思って王様に聞いた時の言葉です。
......かろうじて理屈は理解できたのですが......あの母様に政治を任すのは自殺行為ですよ?
まあ、幸いな事にと言うべきでしょうが、当然のように母様は政治なんて関わらずに冒険者を続けています。住処も皇帝なのに引っ越しもせずにいますし皇族となった今でも平民の頃と同じ生活ですが......将来どうするつもりなのでしょう?
......現在の処、皇帝の称号はあくまで方便であり、権力とは無縁なものですが、国が正式に認めた地位ですから権威は間違いなくあるわけで......将来、私とアリスが成長して権力を求めたらどうするつもりなのでしょう?
当然、私はそんな事は望みませんし、アリスも今の処興味はなさそうですが......私達を利用しようという存在は間違いなくあらわれるでしょう。
さて、これは一度、母様......は無駄ですね、父様と王様と話し合うべき事案ですね。
ベストなのは皇帝の地位は母様一代のみで、家族に継承権は発生しないという形ですかね?
まあ、取り合えず、そんな訳で私は皇子様なりました。
そんな皇子様の私が今、何をしているかと言えば。
メイドのセーラさんを伴っての家族揃ってのお出かけです。
家の家族と言うか......母様は王都では有名なので街の人に挨拶を、したりされたりしながら教会に向かっています。
ああ、皇帝一家と言っても街の人達の態度に変化はありません。皇帝になりましたが母様自身は『剣聖』だった頃と変化はないです。と、言いますか、殆どの平民は知りません。態度が変わったのは主に貴族だけですね。
「兄さま《にいさま》兄さま。どうかしましたか?」
「いえ、何でもありませんよアリス、少し考え事をしていただけですよ」
「はは、さすがのシレンでも、今日の洗礼には緊張しているみたいだな」
今日の目的は洗礼です。私が七歳になったのでクラスが授与されるのです。
「ねえねえ兄さま」
私と繋いだ手を振りながらアリスが問うてきます。
「兄さまは、どんなクラスが欲しいのですか?」
「......そう言えば、聞いた覚えが無いな? やはり『剣士』関連か?」
「いえ、別にこれといってありません。そもそもクラスを貰えるかも分かりませんから......」
アリスと母様の問いに私は気楽に答えたのですが、どうも皆との考えとはズレていたのか四人とも目を見開いて私を凝視しました。
「......はは、何と言うか、相変わらず達観してるねシレンは」
「うーん......そうでしょうか? 確かにあれば便利だと思いますが別に無くても皆さん普通に暮らせていますし、貰えれば幸運程度に考えていたのですが......?」
私は父様に頬を掻きながら答えたのですが――
「兄さま! 何を言っているのですか! 兄さまがクラス無しなんでありえまん! 兄さまなら絶対に凄いクラスが女神様から与えられます! セーラさんもそう思うよね!」
「当然かと」
どうやらアリスの気分を害したようです。
しかしセーラさんも同意しないで欲しいですね。
「......うーん。でもねアリス、クラスは貰えない人の方が多いわけだしねぇ、余り期待し過ぎるのもどうかと思うよ?」
「それでもです! 兄さま、気合です!!」
はぁ、妹の期待が辛いですね。
それに、困った事に母様に大分毒されてきていますね。どうしたものかと父様とセーラさんに顔を向ければ苦笑するだけです。
そんな風に興奮するアリスを治めたのは意外にも母様でした。
「ははははははっー!! さすが私の息子だ!! なるほど! 確かにそうだ!! クラス等あくまでオマケのようなものだったな。私もまだまだ甘い」
なんでしょう? 母様が物凄く機嫌が良くなったのですが......凄く嫌な予感がしますね。
「うむうむ。クラス無くとも、この母を超えて見せる気概を持っていたとは母は嬉しいぞ。ーーシグよ、我らの息子はどこまで登り詰めるのだろうな? ーーよかろう母もお前に負けず研鑽をしよう。見事この母を超えて見せるが良い!!」
......ありえない場所に着地しましたね母様。
一欠けらも、そんな事は言っていませんし目指しておりませんよ? これは訂正をしとかなければ今後大変な事になりそうだと思ったのですが......。
「ほへぇ~、流石兄さまです! 凄いです! カッコいいです!」
尊敬の眼差しで私を見上げるアリスの手前、言葉を飲み込むしかありませんでした。
機嫌良く笑う母上。
キラキラと私に甘えるアリス。
合掌している父様。
澄まし顔でいながら頬を引きつらせているセーラさん。
どう誤解を解こうかと頭を悩ませる私。
そんな私達は「早く早く」とアリスに腕を引かれ教会の門をくぐるのでした。
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