母親が剣神で妹が勇者――そして私は無能者です

第1話

「おんぎゃぁ~~~おんぎゃぁ~~~」


 はい、私です。

 やはり私のも虚しく通じず......魂の消滅は無理だったようです。

 

 まあ、予想はしていましたので、この事に関しては、それ程ガッカリはしていません。

 何故なら、あの女神、私のに全く気付いていませんんでしたからね。私を消滅さすにはアレ事消滅させる必要がありますからね。だから、この件に関しては成功すれば良いかなー程度でしたが......。

 

 問題は記憶の方です。

 ええ......説明するまでもなく今世も記憶は残ったままです。

 残念ながら、私でない私にを押し付ける事は不可能なようです――とても残念ですね。

 多分ですが......アレに私の記憶がバックアップされていて転生した時の記憶が無い状態を異常と判断し上書きされているのでしょうね。

 ふぅ、必要な機能でしたが......今はその高性能さが辛いですね。

 まあ、こうなったら彼女に見つかるまでは目だ立つ生きるしかありませんね。幸いな事に今だ見つかっていないという事は、アレを使わなければ私を発見できないという事でしょう。

 まあ、色々考える前に今はこちらの方をどうにかするべきでしょう。


「ゲプゥ」

「ん? もう良いのか? もっと一杯吸わないと大きくなれないぞ」


 いえいえ母様かあさま、もうお腹一杯ですよ。見てください口から洩れていますよ。

 私は口に押し付けてくるオッパイから逃げるようにイヤイヤをします。


「ケイトリン。嫌がってるじゃないか無理やりは可哀そうだよ」

「むう、しかしだな、こんなちっちゃいのだぞ? もっと飲んだ方が良いのではないか?」

「奥様、まだ生後一週間です小さくて当然です」


 え? 何をしているかですか?

 普通に食事ですが?

 ええ、それは当然、赤ちゃんですからオッパイから頂いてますが......何か問題が?

 別に恥ずかしい事では無いでしょう赤ちゃんなんですから。飲まなければ死にますよ。それよりも排泄物の処理をお願いする方が恥ずかしいですね。


「ほらほら、セーラもこう言ってる事だし、そろそろ僕にも、その子を抱かせてくれないかい?」

「断る!」

「何でだよ!?」

「何でだと貴様! この子が産まれてから一週間だぞ! 産まれてから一度も顔も見せずに今更父親面をするなぞ私は認めん!! この子に父はおらん!!」


 おや? そう言えば......確かに今日までこの男性の声は聞いた覚えがありませんね。まだ視力が無いようなものですから声で人を判別するしかないんですが......。

 しかし一週間ですか......たしかに放置しすぎですかね?


「いやいや仕方ないじゃないか、北の村の付近にミノタウロスの番が出たんだよ、すぐに動けるのは僕だけだったんだから動かない訳にいかないじゃないか」

「ふざけるな! 北の村なら往復で二日もあれば帰ってこれるだろうがっ!?」

「イヤイヤ無茶だって!! 戦力が揃ったのが二日前だよ!? そこから作戦を立て色々準備して倒せたのが昨日の夕方だったんだから仕方ないじゃないか? これでも終わってから休まずに馬を走らせたんだよ」


 なるほど、タイミングが悪かったようですね。確かにそれなら父様とうさまを責めるのは酷でしょう、まあ、そういう理由なら母様も許してくれるでしょう。


「ふざけるな!! たかがミノタウロス二匹如き瞬殺しろっ!! どうせ村の若い女に鼻の下を伸ばしていたんだろうがっ!?」

「冤罪が過ぎる!!」  

「奥様、それが出来るのは『剣聖』の奥様だけです。『剣士』の旦那様がそれをしようとすれば確実に死んでしまいます」

「気合と根性があれば出来る!!」

 

 ......まだこの世界に転生したばかりの私には、この世界のミノタウロスがどれ程のもか『剣聖』やら『剣士』が何かは分かりませんが......母様が無茶を言っている事は分かりました。

 

 ――気合や根性で全て解決等、普通は出来ません。

 

 しかし、困った事に......稀に居るんですよね――それで解決しちゃう人が。

 あれは何なのでしょうね?

 気合と根性があれば――どんな壁も、どんな困難も、どんな無茶だろうが乗り越えちゃう人って......。

 いや、まあ結果論から言えば、その力量があっただけなのでしょうが......納得できるかと問われると......。

 

 まあ、それは置いといて、どうやら母様はそういうタイプのようです......困った事にこういうタイプを説得するのは大変です。なにせ理屈が通らない事をしでかすので、理屈では説得するのが難しいんですよ。

 

 まあ、あれですね、父様頑張って下さい。赤ん坊の私には心の中で応援する位の事しか出来ません。

 それに、そろそろ眠気に勝てそうにありません。

 私は必死に母様を宥める父様の声を子守唄替わりに眠りに落ちました。

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