第5話
――魂の消滅。
それこそが私の望みなのです。
「はい?貴方は意味が分かっているのですか? 魂の消滅ですよ? 肉体の死ではなく魂ですよ?」
「ええ、その通りですよ。私という根源事、消滅させて欲しいのですよ」
「......訳が分からないわね。魂が消滅すれば神でさえ消え去ると言うのに......肉体の死にすら執着する人間がそれを望むの?」
「肉体の死ですか......神らしい考えですね。人間の肉体の死は死んでも元の形と記憶を残すアナタ方と違って、とても重要な事ですよ。記憶も無く姿形が変わった者など魂が同じだけの別人ですからね。私から言わせれば魂の消滅も肉体の死も同じですよ。私でなくったものを私とは思えませんからね」
「......」
まあ、これは本音ですが――理由では無いのですがね。
実は私、記憶を持った転生は二度目なんですよ。
それで今回の人生で気づいたんです。
何をと言えば...
――彼女に見つかる位なら消滅すべきだろうと......。
いえ、元々一度目の人生で私は消滅した筈なんですよ。それが何故か記憶を持って転生したので彼女が居る事を確信はしていたのです。
彼女にコンタクトを取ろうと思いましたが、魂が衰弱しきっていた私にはアレを使う事ができなかったので、彼女からのコンタクトを待っていたのですが、残念......いえ、幸いにも、その前に寿命を終えたのです。
そして、次に出会ったのが目の前に居る女神でした。
この時の私は、先に述べたように満足していました。病弱のベットから出る事はなかったですが、地獄のような一度目の人生で得る事のなかった家族の愛を知る事ができましから。
そうです、満足したのです。
この時点の私はコンタクトが無い彼女は、私と同じように考えを持ち、人として自然な転生の海に返ったのだと思っていました。
だから女神の提案した記憶を持ったままの転生等には興味がありませんでした。
しかし!! この件に関しては女神に感謝を私は一生続けるでしょうね。
本当に、それに気づかせてくれた妻と家族達には感謝しかありませんね。
なんで気づかなかったでしょうね私......
――彼女も地獄だ!!
転生の海に返る?
ありえません。そんな事は絶対にありえません。
恐らくですが......一度彼女に捕まれば転生しても逃げれないでしょう。そして間違いなく、あの地獄の日々と地獄に付きあわされるのでしょう......。
はい......絶対に嫌ですね。
永遠の地獄巡り。
死は逃げ道じゃ無い。
人生は一度で十分。
そして、もっとも怖いのが......彼女に安らぎを感じてしまっていた自分に戻る事ですね......。
ハハハ......思わず乾いた笑いがもれますね。
そんな私に女神が訝しげに問うてきました。
「貴方......中二病だったのですか?何だか無駄にカッコつけていません? 恥ずかしくありません? そんなデータは無かった筈なのですが?」
しょせん女神ですね、愚かな質問です。
「クク、愚かですね。中二病は誰の心にもあるものですよ。中二病無くして娯楽は生まれず。中二病無くして愛は生まれず。中二病無くば人は獣と同じですよ」
と、友人が力説していましたね。
イマイチ私には理解しきれませんでしたが、彼があそこまで必死に訴えていたのですから、そうなのでしょうね。
それに、そういう人物を何人か知っているからそう思うだけですよ。前世と現世の人物が喧嘩したり仲良く酒を飲んだりしている場面を見れば、そうも思いますよ。
因みに、この時一緒に中二病の話を聞いていた彼の前世なる人物はーー「アホか」と言って途中で席を外しました。
「...なんと申しますか、深いか浅いか判断に困る議題ですが、大体アナタの事が分かりました」
「ほう、アナタに私の何が分かったというのですか?」
「拗らせている事です」
「?」
どういう意味なのでしょうか?現在、魂である私が何を拗らせているというのでしょう?
「何故これ程の逸材だったのに......やらかさなかったのかしら? ......まあいいわ、取り合えずアナタに与えたスキルを返して貰うわね」
言うと、私の中から何かが吸い出されていき、それは女神の手のひらの上に集まっていくと......成人男性の頭程の球体になりました。
それを見た女神はイマイマし気に、吐き出すように言いました。
「はあー、やっぱり再利用は無理そうね......使えるのは一割程ね。まったく本当にイマイマしいわね」
そう言うと女神は球体を無造作に握り潰す――砕かれたそれは、光の粒子となり女神の体内に吸収されていきました。
「さて、これで用は済んだわ。本来ならアナタの魂は転生の海に返す予定だったのだけど......不敬が過ぎましたね、貴方の要望通りにしてあげるわ」
神らしく何も忖度せず、人間が蚊を殺すのと同じように私に神威を放出してきました。
私は願いを込めていいました。
「クク、頑張って下さい――アナタ程度の格でそれが出来ると良いのですが......」
その言葉を最後に、私の魂は砕け散りました。
最後に女神が青筋を建てて叫んでいたように見えたのは気のせいでしょう。
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