24:原因判明……新種のウイルス襲来
麻里菜はあんぐりと口を開けた。
「先月から広まっている高齢者の風邪。どうやらただの風邪ではないかもしれません」
麻里菜の目は一点、テレビだけを見つめている。
夜のトップニュースでニュースキャスターが語ると、会見の様子が映し出される。日本医師会の会長が話し始めた。
「先月の四月から高齢者を中心に、発熱や咳、のどの痛みを訴える患者が急増しております。そこで患者の粘膜から検体を採取し調査したところ、患者の八割に共通のウイルスが発見されました」
うそだろ……マイの予想が当たってる。しかも八割って多くね⁉︎
「発見されたウイルスは新種の可能性があり、現在解明を進めています」
新型じゃなくて新種⁉︎ マイ……やっぱり恐ろしいヤツ。
昨日話していたことがまるっきり当たっていた。さすがに人間界で新種はもうないと思っていたのに。
「いや……でもまだ確定したわけじゃないし」
麻里菜は握っているサフィーを胸に当てて頭を冷やす。
これを同一人物が考えたことなのだから、なおさら恐ろしい。
二日後、そのウイルスは新型ではなく新種であることが分かった。症状は薬で抑えられるものの、インフルエンザのようなワクチンや特効薬はもちろんない。
「麻里菜、新種のウイルスってやばいんでしょ? 分身は何か言ってた?」
マスク姿の美晴に尋ねられ、麻里菜は耳打ちで答える。
「それがさ……先週の時点で『もしかしたら新型か新種のウイルスかもしれない』ってマイが言ってて……」
「うっそ! 当たってんじゃん!」
「昨日の夜のニュースで鳥肌立ったよ。それで何がやばいかって言うと……」
麻里菜はあの後、もし新型か新種だったらどうなるか、という予想も聞いてきていた。
「まず、誰も抗体を持ってないから蔓延するスピードがものすごく速いらしい。それにワクチンとか特効薬がないし、治るのに時間がかかるし症状が重くなりやすいんだって」
「うわぁ……」
美晴は「絶対にかかりたくない……」と身震いする。
「何かすごい博識な人がいるよ!」
斜め後ろの方から聞こえた声の主は、学級委員の『陽キャ』だ。
「もう一度言って! 私も聞きたい!」
「えっと……知り合いに医者やってる人がいるんだけど、その人から聞いた話だよ?」
「全然いいよ!」
彼女は麻里菜と美晴が妖怪だということは知っているが、マイのことまで話すと長くなりそうなので、あくまで『知り合い』に留めておく。
「新種のウイルスにかかると、要は誰も抗体を持ってないから他の人にうつしやすくなる。それにインフルのワクチンとかタミフル……まぁ特効薬みたいのがないから、治るのに時間がかかって重症化しやすい」
「なるほど……言われてみればそうだよね」
その学級委員ははっとしたように麻里菜に質問をする。
「そのウイルスにかかってる人って高齢者が多いじゃん? それは何でなの?」
うっ、それは……これから解明されるはずなんだけどっ……!
「医者って言っても、その人は研究員じゃないから詳しくは分からないって。のちのち分かってくるはず」
「そっかぁ、まだ新種だって分かったばっかだしね」
危うく口を滑らせて『マイは――』と言いそうになる。ああ、ホントに危ない危ない。
麻里菜の一年八組の担任も、おそらく六十歳は超えているおじいちゃん先生なので、よりかかる可能性が高い。
「この学校の誰かがかかったら学級閉鎖は必須。先生がかかったら学校閉鎖もありえる」
「うわ、確かに!」
「学校閉鎖はいや〜」
やはりこの二人の口調からして、まだ現実味がないようだ。今回はインフルとは違うんだって。
麻里菜は感情を表に出さないものの、人一倍 共感力が高いのだ。その感性でマイからさんざん感染症の恐ろしさを耳にしてきた。
その経験談から一つ思い出したことが。
「そういえば……妖怪ってウイルスとかにかからなくね?」
美晴には聞こえる最低限の声量でつぶやく。
「へぇっ!?」
「ちょっと、何それ!?」
しかし学級委員にも聞かれていたようだ。
「ほ、ホントだって。私、妖力が覚醒してから一回も風邪ひいてないし、インフルにもかかってないから」
「それならいいや。マスクやーめた」
「うわっ、ズルいよ!」
麻里菜が言ったとたんに耳からゴムを外し始めた美晴。学級委員は
「そもそも、私 花粉症だからマスク外せないけど」……らしい。
妖魔界の医療が発達しなかったもう一つの理由が、妖怪は基本病気にならず、呪いやケガによって引き起こしたものくらいでしか医者にかからないからだった。
「まぁ、でもエアコンの風とかでのどはイガイガするから、冬場はマスクしてるけど」
麻里菜がマスクを外すことはなかった。
「えぇーマスク苦しいって」
「ほら美晴、マスクすると小顔効果! 小顔小顔!」
「あっ、じゃあつける!」
学級委員の言葉に即座に乗っかり、再び美晴はマスクをつける。
「似たような顔してんのに、何で美晴の方がかわいく見えるんだろ? マスクつけなくても十分だし」
「なに、私がかわいいって? 麻里菜、言ってくれるじゃん!」
背中に手を回して横から抱かれる麻里菜。
「そこは謙遜するんじゃないのかよ」
「麻里菜だってかわいいでしょ! 美晴とそっくりさんていうことは麻里菜もかわいいってことだよ!」
そう学級委員に言われても腑に落ちない。やはり何かが違うのだ。髪型? 身長? 陽キャか陰キャか?
「……そうかなぁ?」
「かわいいよね、美晴?」
「うん、麻里菜は顔もそうだけど、特にふとした瞬間がかわいいよ!」
だから……そこまで答えなくていいから。
「ほらほら、こういう時だよ! ちょっと照れてる感じ!」
ふぐっ……!
「やっぱりかわいい!」
昼休みが終わるまで麻里菜は席を立てずにいた。
学級委員はそっとその場を離れ、「美晴、絶対麻里菜のこと好きだよね? 百合尊いっ!」と小声で見守るのだった。
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