20:あやかしデュエット+α、爆誕っ!

「俺のことは十分に話した。今度はそっちの番」

「分かってる。じゃあまずご報告を」


 麻里菜の手をとった美晴は、軽く上に持ち上げてこちらを一瞥いちべつする。


「私たち、双子の姉妹でしたー!」

「……双子? まぁ、顔は似てるよな」

「ちょっとぉ〜反応薄い〜! 普通さ『えっ、双子!?』ってならない?」

「別に」


 あまり驚かなかった蓮斗に、また別の報告をしてみる。


「それに、さっき麻里菜は魔法が使えるって言ってたけど、うちら半分妖怪なんだよ!」

「半分妖怪……双子……っていうことは麻里菜が?」

「……はぁ? 私も麻里菜も半妖ってこと!」

「ああ、そういうこと。説明ヘタクソ」


 先に双子だと告げてしまったことで、『双子の片割れ(半分)が妖怪』だと勘違いしたようだ。


「そんな気はした。二人を迎え入れた時に、他の人間とは違う雰囲気を感じたから。美晴もそうだっていうのは意外だな」

「ちなみに私がキュウビ。美晴はヌエっていう妖怪なんだ」

「ほら、やっぱり美晴っぽい。ヌエって猿とか虎とか蛇とか混ざってる妖怪だろ? 結局何の妖怪なのかパッとしないっていうか、いかにも獣らしいのが本人と似てる……いててててっ!!」


 美晴にほほを思いっきりつねられて、美晴いじりは収まった。


「話は戻すけどよ、それで犯人を妖怪の力でねじ伏せたんだろ?」

「ねじ伏せた……まぁそう。その時に初めて変化したから、最初はすごく戸惑っちゃった」

「じゃあまだ妖怪になったばかりなんだな。麻里菜の大ケガが早く治ったのも、妖怪の力が関係してるのか?」


 麻里菜はうなずく。


「うん、どんなにひどいケガでも三日あれば完治する。骨折くらいなら一日で治るよ」

「それはすげぇな」


 その高い治癒能力は逆に仇となることがある。例えば傷口にゴミが入ってしまった場合、早く手当てをしないとゴミごと傷口の表面が覆われてしまうのだ。

 この前の事件で、麻里菜が魔法で実弾を吸い寄せて取り除いたのも、そういう理由である。


「麻里菜は妖怪でもあり、魔法使いでもある……。なるほどな、これでつながった」

「「えっ?」」


「よっこらせ」とおもむろに立ち上がった蓮斗は、スリープにしてあったパソコンを起動させる。


「俺にやってほしいことはこのことだろ?」


 パッと映った画面には、青空に浮かぶ雲が背景のさわやかな雰囲気を感じさせるサイトがあった。しかし、よく見ると『社会奉仕団体 ルイナ』の文字が。

 麻里菜は凍りついた。


「さっき『魔法学校で勉強して、魔法を使えるようになった』って言ってたよな。そうなると、麻里菜が学んだのは異世界にある学校。都市伝説だが、人間界から行ける異世界は『妖魔界』というところで、そこを治める女王がいるらしい。その女王はもともと人間界に住んでいた」


 ……どうしてマイのことが人間界に知られているんだ?


「それで……。ほら、ここ。『妖魔界から遥々、社会的弱者の方々を救うためにやってきました』ってな。まだ知られてないが、立てこもり事件の犯人がルイナと裏で関わってたっていう情報を見つけた。犯人は娘を亡くしていた……ルイナからすれば社会的弱者なんだろ」


 麻里菜はパンパンと手を叩き「さすがハッカー、もう隠しておけない。お手上げです」と苦笑した。


「私は妖魔界で魔法を学んだ半妖で、女王は……私の同一人物。私はその女王から『テロ組織ルイナから人間界を護ってくれ』って頼まれて」

「女王から……同一人物だけど別々で生活してるんだな」

「もう分かれてから四年になるけど」


 蓮斗は麻里菜の言ったことをパソコンのメモに打ちこんでいく。


「蓮斗はいつごろから『ルイナ』のことを知ってた?」

「そうだな……先週の土曜だから事件の次の日には」

「わっ……すごっ」


 マイは、事件のその日に『ルイナ』が人間界に逃げたことが分かったらしい。その次の日に人間界で分かっていた蓮斗は、相当な考察力と技量を持っているだろう。


「相手は異世界から来たヤツらだからな……こっちもかなりの危険を伴うが……やりごたえはありそうだな」

「情報収集、本当に手伝ってくれるの?」

「ああ、『ルイナ』から人間を護る……その手伝いができるだけでいい」


 麻里菜は「よろしくお願いします」と言って、蓮斗に手を差し出した。


「ベストを尽くす。二人もな」


 蓮斗はその手を握り返す。


「ねぇ、何かうちらでチーム名みたいなのつけない?」

「チーム名か……」


 麻里菜は昨日の、美晴との二重奏を思い出した。「デュエット……あ、それじゃ……」とつぶやくが、その中に蓮斗は含まれていない。


「デュエット、いいんじゃね?」


 しかし、配慮をしたその人が肯定したのだ。


「俺は補佐で二人がメインなんだからな。俺はプラスアルファにすぎない」

「蓮斗、そんな扱いでいいの?」

「別に。まぁ、実質は+αの中に女王も入ると思うけど」


 マイが+αとか、本人怒りそうだなぁ……。でも「有力な情報が手に入り次第知らせる」って言ってたから、補佐と言っちゃあ補佐なんだけど。

 それなら……。


「じゃあ……『あやかしデュエット+α』は?」


 麻里菜は美晴と蓮斗の顔色をうかがう。

 美晴は「+αに蓮斗もちゃんと含まれてるし、いいと思うよ!」とうなずき、蓮斗は「あやかし……いいんじゃね」と口角を上げた。


 特にひねりのないシンプルな名前が、何の批判をされずに受け入れられた。麻里菜はそれだけでよかった。

 今までは、何か提案をすれば難癖つけられて頭から否定されていた。麻里菜が思ったことでも、他の人が言えばその意見は通る。麻里菜が言ったら通らない。


「よかった……」


 そんな過去を知らない二人の横で、麻里菜は胸をなで下ろす。

 これからは仲間を信じないとやっていけない。過去を引きずったままではいけない。


 双子の首にかかるペンダントと懐中時計が、部屋の照明を反射してきらめいていた。






 美晴はひとり夕食を食べている。昨日作って余ったカレーライスを温め直したものだ。

 夕方に帰ると言っていた父は道が混んでいて全然動けず、あと二時間はかかりそうとのこと。


 テレビをつける気にもならず、ただ部屋にはスプーンとお皿がぶつかり合う音が響いていた。


「麻里菜……」


 昨日防音室で撮った動画を見返し、麻里菜のクラリネットの音を聞きながら懐中時計をにぎった。


「さみしいよ」


 明日また学校で会えるということを忘れ、西川口駅で見送った麻里菜の背中が恋しくなる。


 さびしさを紛らわすために買ったキツネのぬいぐるみを、麻里菜が座っていた席に置いた。しかし、心のどこかで『麻里菜ではない』と思ってしまう。


 二日目でコクが増したカレーは、いつもよりしょっぱく感じられたのであった。

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