四畳半開拓日記 15/18


15


 一週間経って、次の土曜日だ。


■ ジャガイモ畑 ■

キタアカリを植えた畑

収穫が可能


 ついに収穫可能になった。

 明日、再びみんなで集まることになっている。

 そのあとは、ジャガイモを使った食事会の予定だ。

 同時に、山田村のレベルが上がった。

 ジャガイモが収穫を迎え、経験値を得たようだ。


■ レベル が 上がりました ■


■ 山田 村 ■

◆レベル   8 《 次 の レベル まで 170 ポイント 》

◆人口    3

◆ステータス 正常

◆スキル   ●●○


■ 増築 が 可能 になりました ■

▼湯源

▼水路(拡大)

▼ため池

▼水車

▼トイレ


■ 以下 から 新しい スキル を 選択 してください ■

▼育成速度アップ

▼モンスター出現率ダウン

▼作業効率アップ

▼水質浄化C


 トイレ一択だな。

 こればかりは迷わない。

 山田村のシステムは、現代人としてはハードルが高かった。

 まあ、一家しかいないのだから、ちゃんとした施設がないのは仕方がない。

 これからは岬や柳原も行くのだし、しっかりとしているほうがいい。


「……でも、どんなトイレ?」


 あの空間にあるトイレなんて、あまり想像できないな。

 まあ、あとで見に行けばいいだろう。

 そしてスキルは、少し悩んだ。

 やはりもう一度、『モンスター出現率ダウン』に振りたい気持ちもある。

 しかし先日、『井戸』と『下水道』を設置した。

 ならば、この『水質浄化』は、大事なものだろう。

 おれが気づかないうちに、一家が病気になられては困る。

 ここは『水質浄化C』をチョイスだ。

 そして気になるのが、これだ。


◆スキル   ●●○


 ふたつが黒い●になっている。

 つまり、なにかしらの変化があったということだ。


「岬の予想が正しければ、バーベキュー炉に関係があるんだが……」


 えいっと詳細表示。


■ ブレッシングマイスター ■

◆ 神さま一号 【発動中】

◆ レンガ炉  【発動中】

◆ 未設定

▼ ブルペンズ

◆ なし


 まったく効果はわからんが、とにかく増えているな。

 問題は、この固有スキルがなんなのか。


■ レンガ炉 ■

目を離しているときも、素敵な音楽で調理完了をお知らせ

あなたの代わりに、わたしが料理を見守っていますよ


 お料理タイマーだった。

 こんなもの、なんの役に立つのか。

 しかも、やけに機能が充実している。

 料理に対して自動で時間設定が行われ、音楽もオーケストラからパンクロック、川のせせらぎまで、あらゆる好みにカスタマイズできる。

 音量も20~120dBまで調節可能って、もはや飛行機のエンジン音だろ。

 どれだけ遠くに行っていることを見越しているんだ。

 ……一日、みんなで頑張った結果がこれか。

 まだ『料理が美味しくなるスキル』とかのほうがよかった。


「さて、いろいろ終わったが……」


 直近の問題は、そうだな。


 いま、ゲーム機からサチの腕が生えていることだな。


 どうしたのだろうか。

 いや、こっちに来たいという意思は伝わる。

 やっぱり改めて見ると、ものすごくホラーだな。


 ばたばたばたばた!


 わかった、わかった。

 ちゃんと引っ張るから暴れるな。

 よっと、と腕を引き上げた。

 いつもの白いバチバチのあとに、サチが飛びだしてきた。


「神さま! お招きいただき、ありがとうございます!」


「ぐふううっ!?」


 突撃のあとの押し倒しからのすりすりすりを一通りこなし、サチは大変、満足した様子だ。

 回数を重ねるたびに的確に急所へ近づいている気がするので、次からは避ける努力をしよう。


「どうしたんだ? 今日はそっちでやる作業はないぞ」


「神さまが、明日の収穫のために準備をしてくださるということで、そのお手伝いをするようにお父さんに言われました」


 ほう、カガミがねえ。


「すまん、気を遣わせたな」


「いえ。わたしも楽しいです!」


 とても和む。

 この子には、ずっとこのままであってほしいものだ。


「しかし、手伝いと言われてもな……」


 今日の予定は、明日の食事会の準備だ。

 まあ、簡単な荷物持ちでもしてもらおうか。

 ただ、それには大きな問題がある。

 サチの服装をどうにかしなければならない。

 この目立つケモミミと尻尾を隠さなくては。

 もし悪いやつに連れ去られたら、カガミたちに合わせる顔がない。

 となると、方法は一つ。

 まずはサチの服を買ってきて、改めて二人で出かけること。

 ただし、おれが一人で少女服を買ってくるというのはどうだ。

 そんな年ごろの娘がいてもおかしくはないが、それでも一人で娘の服を買いに来るお父さんは珍しいだろう。

 いまのご時世では、下手すれば通報されてしまう。

 いちばん安全なのは、やはりアパートで待機してもらうことなのだが。


「えっと、サチ……」


「はい! なんなりとお申しつけください!」


 言えるわけないだろう!

 こんなにも期待に満ちた目で見られたら、断ることはできない!

 こういうとき、どうすればいいのか。

 いや、方法はある。

 しかし明日も来てくれる予定なのに、事あるごとに頼ってはさすがに迷惑では……。


「神さま。どうしたんですか?」


「…………」


 携帯を取りだした。

 すっかりと悪い癖がついてしまったな。


***


「来る前に、駅前のしま〇らで買ってきました」


 ヘルプを受けた岬は、昼前には来てくれた。


「すまんな。レシートあるか?」


「大したやつじゃないのでいいですよ」


「そういうわけにはいかないだろ」


 ものすごく不満そうな顔をされてしまった。


「わたしは前々から、先輩のことずるいと思っていました」


「え、なんで?」


「わたしだって、さっちゃんにいろいろ買ってあげたいのに……!」


 なんという貢ぎ系女子。

 相手が悪いホストじゃなくてよかったよ。


「でも、よくサイズがわかったな」


「一回モフれば、だいたいわかりますよ」


 もふもふソムリエ怖い。


「ほら、それじゃあ、先輩は出ていってください!」


「お、おい。いきなり背中を押すな」


「着替えが終わったら連絡するんで、喫茶店にでも行っててください。シャワーできれいにするので、時間かかりますよ」


「え、でもいつものこと……」


 虫でも見るような目で睨まれた。


「……ロリコン」


「わ、わかった、わかったから押すな」


 そうして、近くの喫茶店で待つこと三十分ちょっと。

 完了の知らせが来たので、アパートに戻った。

 鍵を開けようとすると、向こうから岬が顔を出した。


「先輩、可愛くてビビっちゃいますよー」


「そりゃ楽しみだな。どれ……」


「ちょっと待った」


 なぜか手のひらでストップをかけられる。


「先輩、わかってますね?」


「え、なにが?」


「いつもの微妙にイラッとするのはナシですよ?」


 信用ないなあ。


「わかってる。おまえのときだって、ちゃんと褒めたろ?」


「なんですか。その義務感でやってやった、みたいなの。あ、どうりで次からは感想言わないと思った!」


「むくれるなよ。いつも似合ってるから言わないだけだ」


「べ、別にむくれてないですけど……。まあ、いいです。入ってください」


 部屋に入ると、もぬけの殻だった。


「……サチはどこだ?」


「あれ? さっちゃーん?」


 すると、クローゼットが少し開いた。


「あうう。恥ずかしいです……」


「ちょ、さっちゃん!? シワになっちゃうよ!」


 それから数分の説得で、やっと出てくる決意が固まった。

 サチが緊張した様子で出てきた。


「おお……」


 お洒落なシフォンブラウスに、ふわっとしたミニスカートという組み合わせだ。

 非常にふわふわした感じの、女の子らしいチョイスの服装だ。

 こうして見ると、サチの顔つきは可愛い系だな。


「ど、どうでしょうか?」


「うん。よく似合ってるぞ」


 サチは嬉しそうにはにかんだ。

 てれてれとスカートをいじる仕草が、非常に可愛らしい。

 ……のだが。


「でも、ケモミミも尻尾も丸出しじゃないか?」


 いちばんの問題はそこである。

 隠すどころか、むしろ目立ってしょうがない。


「けっこう大きいし、隠すのは無理ですよ」


「フード付きとか、長いスカートとかあるだろ」


「この暑い時期に、そんな格好させるなんて殺す気ですか?」


「いや、それはそうだが……」


「変に隠そうとするから怪しまれるんですよ。堂々としてれば、『娘に変なコスプレさせてる父親だなあ』くらいにしか思いませんって」


 そういうものか?

 まあ、おれだって、そういう家族に声をかけようとは思わないな。


「でも、万が一、警察とかに通報されたら……」


「それに関しては、ちゃんと対策もあります。わたしに任せてください。それでも、もし職質されそうになったら……」


「されそうになったら?」


「全力で逃げましょう」


 それはなんの解決策にもなってない。


***


 やってまいりました。

 庶民の憩いの空間、イオ〇。

 おれたちは正面入り口から、堂々と入店した。

 ただし、おれの頭には変な垂れ耳のキャラクター帽子がのっている。

 岬の頭にも、ネズミのマスコット耳がついていた。


「うちの近くのドン〇で買ってきました」


 すごいや、ドン〇。

 なんでもあるのだな。


「なるほど。みんな耳をつけてれば、サチだけ浮くことはないか」


「木を隠すなら森の中です」


 でもスーパーの中に森が現れたら、みんな驚くと思うのだが。

 さっきから、チクチクと視線が刺さる。

 奇異な視線を向けられこそすれ、それ以上の反応を示すものはいない。

 これなら、いいのだろうか。

 しかし、それよりも問題があった。


「神さま、神さま! お城の中に入りました!」


「お城じゃないぞー。買い物するところだぞー」


「これが市場ですか!? すごくキラキラしています!」


「どっちかというと、サチの目のほうがキラキラしてるけどなー」


 さっちゃん、大興奮である。

 タクシーに乗っている間も、外の風景に感動しっぱなしだ。

 ばたばた動く尻尾を押さえるのに苦労した。

 運転手さんに「今日はどこかのお祭りですか?」とか聞かれちゃうし。

 岬の機転で、電車を避けて正解だったな。


「すごいです! さすがは神さまの世界です!」


 と、何かに気づいた。

 携帯ショップのマスコットバルーンだ。

 それに向かって、がるるるる、と四つ足で威嚇する。


「こ、ここにもモンスターが! 神さまには指一本、触れさせません!!」


 やだ、この子恥ずかしい。


「落ち着け。それは人形だ」


「え。そうなんですか?」


「ああ、だから行くぞ」


 何とも生温かい視線をもらいながら、その場を後にする。

 しかし、サチを大人しくさせないと、せっかくの変装(?)も台無しだな。


「ほら、サチ。おれの手につかまっていろ」


「さっちゃん。わたしとも手をつなごう」


 そうして『おれ=サチ=岬』の配置になる。

 宇宙人捕獲のイメージが頭に浮かんだ。

 ……こら、サチよ。

 笑いながら、ぶら下がろうとするんじゃない。


「神さま。サチは嬉しいです」


「こっちの世界は気に入ったか?」


「はい! でも、そういうことじゃなくて……」


「じゃあ、なんだ?」


「お父さんとお母さんと、お出かけすることもなくなりましたから……」


 えへへ、と寂しげに笑う。


「だから、神さまと巫女さまが、今日はサチの家族です!」


「……家族ねえ」


 岬と目を合わせる。


「まあ、たまにはそういうのもいいか」


「先輩が旦那さんとかありえませんけど、さっちゃんみたいな娘なら何人でも欲しいですね」


「ああ、そうかい、そうかい」


 まったく、一言多い後輩だ。

 誰に似たんだろうな。


「さて。買い物の前に、ちょっと遊ぶか」


***


 わんわんわんわん。

 きゃんきゃんきゃんきゃん。

 くぅんくぅんくぅんくぅん。

 元気いっぱいな犬の鳴き声が響くのは、店舗の隅にあるペットショップだ。

 正直、こんな場所があるとは知らなかった。

 少し奥まったところにあるし、目的がなければ、なかなかたどり着かないだろう。

 岬が必ず寄るということで、立ち寄ってみたのだが……。


「神さま神さま神さま! こっちの犬が可愛いです可愛いです可愛いです!!」


「落ち着け! あと神さまを連呼するのやめろ」


 一歩、足を踏み入れた途端にこれだ。

 さすがの岬も、ここまでのテンションには……。


「先輩先輩先輩! さっちゃんが、さっちゃんがさっちゃんが……!!」


 ええい、やかましい。

 犬にはしゃぐサチが、よほどツボにはまったようだ。

 もはや言葉にならない様子で感涙している。

 正直、ドン引きだ。

 やっとのことで落ち着かせたころには、すっかり疲れてしまった。

 というかケモミミ少女にとって、犬猫はどういう位置づけなんだろうな。


「故郷の村でも、畑を守るために番犬を飼っていました」


「ああ、なるほどな」


 昔の猫は蔵のネズミ捕り職人だったらしい。

 確かにそういう役割の動物も、ペットと言えなくはないのか。

 しかしケモミミ族が犬を飼うというのは、ちょっとシュールだな。


「神さま! こっちに来てください」


 ある猫のショーケースの前に引っ張られる。

 真ん中に、なんだか不機嫌そうな猫が鎮座していた。


「この子が可愛いです!」


「ええ。すごく不愛想にしか見えないが……」


「はい。神さまみたいで可愛いです!」


「おれに似てるから可愛い、は理論がおかしいぞ」


 こちとら三十半ばのおっさんだ。

 さすがに猫さんと張り合う度胸はない。


「…………」


「……ニャア」


 面倒くさそうに欠伸あくびした。

 サチには、おれがこんなふうに見えているのか。

 少しだけショックだ。


「さっちゃん。あっちに触れ合いコーナーあるよ?」


「……っ!?」


 ピピーン、とケモミミと尻尾が立ち上がった。

 わっふるわっふる、と興奮しながら店内を見回した。


「ど、どこですか!?」


「あっちだよ。ちょうど、時間になったみたい」


 わいわいと子どもたちが、柵の中へと入っていく。

 広い柵の中では、ダックスフントやらチワワやらが愛想を振りまいている。


「サチも、サチも入ります!」


「ようし。じゃあ、久々にわたしも……」


 すると、担当のお姉さんから止められた。


「あ、すみません。そちらの方は、ちょっと……」


 そちらの方。

 その視線は、サチのほうを向いていた。


「さ、サチはダメですか?」


「そちらの耳と尻尾を外してもらわないと、ワンちゃんたちが怖がるので……」


 ああ……。

 サチがこの世の終わりのような顔で立ち尽くしている。


「……神さま。サチも触りたいです」


「ううん。どうにかしてやりたいが、こればかりは決まりだからな」


「で、でも……」


 ぎゅっと腕を握る。

 そんなに触りたいなら、かなえてやりたいが……。


「でもな。サチの尻尾にびっくりして、もしあの犬が死んだらどうする?」


「あう……」


「それは悪いことだし、犬たちがわいそうだろ?」


「…………」


 サチがきゅっと唇を?んだ。

 ちょっと言いすぎただろうか。


「……これを外せば、入れるんですね」


「うん? まあ、そうだが……」


 いま、なんて言った?

 サチは、ゆらりと岬へと向く。


「巫女さま……」


「さっちゃん、どうしたの?」


 自分の尻尾を抱きしめると、泣きそうな顔でそれをなでた。

 そして──。


「……どうぞ」


「待て待て待て」


 ご献上しちゃダメだ。

 岬も素直に受け取ろうとしてるんじゃないよ。


「サチ。こっちに来い」


 しょぼくれているサチに、微妙な空気になってしまった。


「ええっと、あのな。おれも飼ってやりたいが、アパートはペット禁止だからな?」


「…………」


 ぐずぐずと泣いているサチの涙を、ハンカチで拭いてやる。

 ……ああ、くそ。

 この場合は、こう言うしかないか。


「すぐには無理だが、まあ、ペットを飼えるように、カガミに相談してみる」


 パッと顔を輝かせる。


「神さまあー!!」


「ええい、せっつくな」


 ぎゅうっと腕に抱き着いてくる。


「あ、先輩ずるい!」


「……じゃあ、おまえもカガミの説得を手伝ってくれ」


 とにかく、また課題が増えてしまった。

 まあ、悪い気はしないけど。


***


 食料品売り場と、調理器具売り場を回った。

 柳原の注文リストを眺めながら、購入したものを確認する。


「こんなところですかね」


「そうだな。アパートに帰って、村に送ってしまおう」


 と、サチが手を引いた。


「神さま! あれ、なんですか?」


 洋菓子店のテナントだった。

 少女たちが店頭販売のソフトクリームを食べている。


「アイスか。向こうにはないのか?」


「はい。あんなもの、見たことありません」


 それも当然か。

 冷凍施設などが充実しているようには思えないからな。


「甘くておいしいよ」


「甘い? 甘いのですか?」


「買ってあげようか?」


「い、いえ。そういうつもりで言ったのでは……」


 その割には、さっきから尻尾がぶんぶん暴れている。


「わたしは抹茶にしようかなあ。さっちゃんはどれにする?」


「で、でも、サチは今日、お役に立つために来たのに……」


「ふっふっふ。自分に正直になるのだー」


「お父さんから、あんまり神さまにはご迷惑をかけないようにって言われて、その……」


「イチゴ味と、チョコ味があるぞー」


「イチゴがいいですううううう」


 抹茶とイチゴ、一つずつお願いします。

 それから施設の中庭に設置されたベンチで休憩することにした。


「あわわわ……」


 サチがピンク色のソフトクリームに目を輝かせている。


「ほら、早く食べないと溶けるぞ」


「は、はい!」


 あーん、と口を開ける。

 それから豪快に、頭からぱくんと食べた。


「────……!!」


「お、おい。どうした?」


 まさか、口に合わなかったか?

 ああ、いや。

 尻尾はぶんぶんだし、耳はぴっこんぴっこんだ。

 聞くまでもなかったな。


「か、神さま、これ、これ美味しいです!!」


「おお、泣くほどか」


「甘いです! すごく甘いです!!」


「向こうには、アイスはないのか?」


「はい! こんなに美味しいもの、サチは初めて食べました!」


「ふうむ」


 幸せそうなサチを見ていると、ふと意地悪な気持ちが湧いてくる。


「おれのおむすびと、どっちが美味しい?」


「え……」


 サチの表情が凍りついた。

 ソフトクリームと、おれを交互に見比べる。

 そして、何とも言えない泣きそうな顔になった。


「あ、あう。あうあう……」


 ひゅるひゅる、と尻尾がしぼんでいった。

 ケモミミもぺたんと倒れている。


「先輩、趣味が悪いですよ」


「す、すまん。いや、わかってるぞ。おれのおむすびはまだ未熟だからな」


「あ、あのあの! サチは味があっていいと思います!」


「……ありがとう」


 何とも大人な励ましをもらってしまった。


「あの、神さま」


「どうした?」


「このアイスを、お父さんとお母さんにも食べさせてあげたいのですが……」


「それは無理だな。すぐ溶けてしまうから、向こうまでもたないんだ」


 しゅんと耳が垂れ下がった。


「まあ、カガミたちがこっちに来ることもあるだろ。そのときに、みんなで食べよう」


 パッと顔を輝かせる。

 まあ、そのときはアイスより、寿とか焼き肉とかそういう感じになるのだろうが。


「じゃあ、そろそろ帰るか。サチ、なにか買い忘れたものはないか?」


 ふんすと鼻を鳴らした。


「ではお父さんの代わりに、もう一個、食べてもいいですか!?」


 そういうしたたかなところ、おじさん嫌いじゃないぞー。

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