第4話 天才勇者、予言に名を連ねる。

まだ。


まだ来ない。


ダメ。


今日も来なかった。


今日も。


今日も。


今日も来ない。


どうして?


絶対に来るって約束したのに。


どうして答えてすらくれないの?


ねぇ答えてよ。


私は、ここにいる。


ずっと、いつまでも。


あなたを信じているから。


ねぇ、お願い。


私の声をあの人まで届かせて。





長い長い石段を上った先にその神社はあった。

真っ赤な鳥居をくぐると見えてくるのは慎ましながらも寂しさは感じさせない本殿。


その脇には立派なご神木が空に向かって大きな存在感を放っている。

本殿に末社、社務所と石段の下からではわからないがかなりの広さだ。

それに加え、歴史を感じさせるような立派な造り。

にも関わらず参拝客はいない。

早朝という時間のせいもあるのだろうが主な理由はこの神社にまつわるとある巫女が原因でる。

そこの神社はかつて未来を視る能力を有したがいたとされる場所だ。

そしてその巫女は未来を視る事で人々を導き、いずれ訪れるとされていた災いすらも退けたという。

そして彼女の死後、それらの尊い行動がこの世界の神に認められ、魂を神格へ昇華させたことにより、慈愛と導きの女神になったとか。


そしてこの神社の神主ははその巫女の子孫を名乗っている。

もっともその話も今となってはどこまでが真実でどこからがフィクションなのかわかってはいない。

だが文明の発達した現代ではほとんどの者は子供たちに童話として信託の巫女の物語を話すのだ。

故に童話の中の人物が祖先だというような人の神社、という事で人々からは遠巻きにされている。

だがこの神社に住まう一族はかなり御三家にも数えられるほどの家なので表立ってこの家族の悪口を言うものはいない。

もっとも他の御三家も何かしらの曰く付きな家なので裏では外れ三家とかイタ三家とか言われていたりする。

だがいくら周囲から揶揄されようと自分たちが信じるものに絶対の自信を持つ彼らは意にも返さないのであった。




「またあの夢。」


空之杜 藍ソラノモリアオイは何とも言えないもやもやした気持ちでめが覚める。

昨夜は充分な睡眠をとったはずだ。

それなのに頭はついさっき眠ったばかりのように重く、まるで靄がかかっているかのように思考がまとまらない。

枕もとの時計に目をやると起きなければならない時間までまだもう少しある。

藍は時計を見るためにわずかに上げていた重い頭を再び枕へ深く落とす。

そして目を閉じたまま先ほどまで見ていた夢を思い出す。


ここ最近毎日のように同じ夢を見る。

夢に出てくる少女はまったく知らない女の子。

巫女のような服を着ているのでもしかしたら小さいころに会っているのかもしれないが藍には全く覚えがなかった。

彼女は膝を抱えるようにして座り悲しそうにいつも同じことを言うだ。


今日も来ない、と。


その様子を見ているだけで彼女がどれほどの悲しみに打ちひしがれているのかが嫌というほど伝わってくる。

だから藍は彼女の元へと行き、彼女を抱きしめるようにして声をかけるだが藍の声は彼女に届かない。


何もできない。

彼女の悲しみを和らげてあげることもその涙を拭いてあげる事すらもできない。

それなのに毎日同じ夢を見る。

これはきっと単なる夢ではない。

きっとなにか意味があるはず。

ここ最近藍は何となくそう思うようになっていた。


「あなたは誰?どうして泣いているの?」


目を瞑りながら彼女のことを思い浮かべながら心の中でそんなことを呟く。

しばらく待ったが当然答えなんて来るわけがない。

夢の中の少女に話しかけるなんてどうかしてる。

自分の愚かさに呆れながら目を開けようとすると驚くことに声が聞えた。



「私の声が聞えるの?」


夢の中の少女と同じ声だ。

だが夢の時とは違って彼女の姿は見えない。


「聞こえるわ。あなたは誰?」


「私は――。あなた――の――よね?なら時間――けど―。勇者――の――が今ひ

――。あな――厄災―――で――。――ヴィルト――。お―が―。」


この言葉を最後に彼女からのメッセージは途切れた。

ひどいノイズのかかった電話のように一部しか聞き取ることはできなかった。

だがそれでも勇者、厄災、ヴィルトという言葉が聞こえた。

これらが何を意味するかまではわからないがひどく嫌な予感がする。


「ヴィルト、、、。」


布団に座ったまま目を開けその名前を呟く。

もちろん知り合いなどではない。

だがそれにも関わらずなぜかとても懐かしい名のように思えた。





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天才勇者は留年候補⁉ 銀髪ウルフ   @loupdargent

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