第3話 天才勇者、異界へと旅立つ。

「そろそろ話しの続きをしてもよいかの?」


いまだ神様になれるかもしれないという事実に興奮冷めやらぬ様子であちこちせわしなく動き回っている少年、ヴィルト。

いっこうに落ち着く気配を見せなかったので痺れを切らした神様が声をかける。


「神様かぁ、なんでもできるんだろうな。まずはセシルに会いに行くだろ、次は……。」


聞けや!

このくそガキが!

わし神なんじゃぞ⁉

偉いんじゃぞ⁉

何を平然と無視っておるのじゃ!


神様は内心怒り狂っているが等のヴィルトは全く聞いていない。

もはや神の声ですら届かないまでに自分の世界に入ってしまったみたいだ。

そしていつの間にか心の声を戒めることをやめた神様。

やはり神と言えど老年、忍耐力は強くないのだろう。

仮に神様が死ぬことがあればきっと死因は憤死かもしれない。


「はぁ、くそガ、、うぉほん!ヴィルトよ、早速じゃがお主には働いてもらうぞ?」


危ない危ない。

つい心の声が出てしまうところだったわい。


だが先ほどの声が聞えていないにも関わらず今回の声が聞えるはずもなく案の定無視される。

だが今回は神様の方が上手だった。

神様パワーかくいうビリビリ光線で強制的にヴィルトに気が付かせることにした。

もちろん加減はしてある。


「アバババ。な、なにするのさ⁉」


ようやく意識が戻ってきおったか。

と言うかもう早くこの場から去れ!

これ以上お主の相手などしとうない。

疲れるだけじゃ。

はぁ、せっかく可愛い孫ができると思うとったのに全然可愛くないわい。



「うん、いいよ。どんな世界に行くのかな!なんだか緊張するけど楽しみだね。」


まるで遊びに行くかのようなヴィルトの様子に若干溜飲を下げる神様。

それに神様がビビビっとやったことに関しては何も思っていないらしい。

無邪気な笑顔を向けられつい頬が緩んでしまった。

なんだかんだ言ってもそこは神。

子供には弱いのだ。



「”地球”という世界じゃ。お主のおったレディワンとは全く異なる世界と言う事になるのかの。文明の発達具合は比ではない。色々と戸惑う事もあるかもしれぬが頑張ってほしい。」


「ふーん、よくわからないけど行けばなんとかなるよね。でも僕はその“地球”とか言う世界に行って何をすればいいの?魔王討伐とかかな?」


いつの間にか神様の隣に来ていたヴィルトはそこに腰かけ、神様を見上げながら問う。

なんとなく日本家屋と縁側が想像できそうな雰囲気だ。


「それは行ってみないことにはわからぬ。じゃが厄災が降りかかっている事だけは確からしい。何があるかもわからぬような場所にお主のような子供を送るのはいささか忍びないのじゃが。」


縁側シチュエーションにすっかりほだされた様子の神様。

その口調は孫の安否を心から心配するおじいちゃんだ。

そしてそんな雰囲気がヴィルトにも伝わったのだろう。


「心配しなくても大丈夫だよ。じゃあね、おじいちゃん!行ってきます!」


神様のことをおじいちゃんと呼び元気にその横を駆けていく。


はぅ!

おじいちゃん、おじいちゃん。

いい響きじゃの。

おじいちゃんか。


そのおじいちゃんはというと、思いがけずにおじいちゃんと呼ばれたことに顔面が崩壊している。

そこから神の威厳とやらを見つけるのは不可能だろうってくらいにゆるゆるの表情をしている。

だがそれもある意味でっ仕方がない事なのかもしれない。

不変の神が家族はもちろん、孫を持つ事などないのだから。


「頑張るのじゃぞ、ヴィルトよ。わしはお主をいつでも見守っておるぞ。」


そんなことをつぶやきながらヴィルトが走って行った方を見ながら暖かい笑みをこぼす神様。


剣と魔法の天才と呼ばれた最年少の勇者。

彼はその小さな体に不釣り合いな大きな力を宿し、期待に胸を弾ませひかり輝く中を新たな世界へと駆けて行くのだった。



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