ロリババにババアは禁句なんでね
あの後ギルドへ行き、依頼を破棄する旨を伝えた。元々提示されていた違約金を受付嬢に渡したら別に会う必要はないと言われた。つまらないものをみる目で見られたがもうどうで良かった。
やはり人間はゴミだ。そんなことを考えながら外へ出た。
適当な宿に泊まり、ベッドに腰を下ろす。部屋に入った時、キメラは指輪に戻っていった。
「疲れたな」
今日だけでたくさんのことがあった。クーカのそばを離れ、勇者としての試練を受け、ギルドへ登録し、依頼を破棄。
「はぁ……」
ベッドに横になりながら手に入れた指輪を眺める。
(どうやって倒したキメラは指輪になったんだ?)
疑問は尽きない。
中世甲冑の時もそうだ。本当に内容を深く知らされていなかったのだろうか。勇者とあろうものがそんなに抜けているとは思えない。
だが事実それ以外に考えられないような消え方をしていた。
「それに【ゲイズ】はなんなんだ?」
たくさん種類があるように思えた。あの2種類だけという可能性もあるが、何故か他にもある気がする。きっと勇者にしかわからない感覚なのだろう。
「……俺、変わっちゃったのかな」
枕にうつ伏せになりながら今日の行いを振り返る。俺魔物だからといって敵意のないものを殴る人間だっただろうか。少し感情に素直になりすぎている気がする。
気を張ったストレスの反響だろうか。
「俺らしくない。考えても仕方ないよな」
寝よう。
……
…………
…………………。
「寝たかしら?」
そう小さく呟いた声は人の形へと姿を変えた。
起きないように近寄り、額を触る。スキルを使って新しい主に対して魅了をかけた。対象は睡眠欲だ。
これは主に対して害をなすつもりはなく、安眠して欲しいと思っているから罰は喰らわない。
「私も久々の人間と会えてテンションがおかしくなってたのかしらね?」
そう思いながら自分の行いを振り返る。
……どうあがいても子供だ。
「ま、いいわ。もうこの世界に敵はいないもの。バカンスしましょ」
元の主人の言っていたことを思い出す。確かに倒したと言っていたはずだ。復活するかも知れないとは言っていたがきっと杞憂だろう。世界最強の主人が倒したのだから。
新しい主、クラートの髪を撫でる。んっ、と吐息を吐くクラートに慈愛の目を向けた。
今日の事は仕方ない。まだ馴染んでないのだから。
「はやく敵を見つけて馴染ませないとね。私も手伝うわよ」
でも、それでいいのかしら。
小さく呟いて宿の窓から外へと出ていった。だが不思議なことに物音は一切しなかった。
………………。
…………。
……。
小さな白い空間に居た。
何かが話しかけてくる。
だけど言葉が分からない。
話しかけようと手を伸ばすがその手は届かなかっ
た。
目の前にいる《彼》は三日月の様に口元を歪めて《俺》に剣を突き刺した。
酷く気分が悪い。……吐きそうだ。
《彼》の言葉が流れてくる。
「責務を果たせ」
……。
…………。
………………。
ドクン、ドクン、ドクン。
「……ッ!?」
ガバッと勢いよく身体を起こした。
刺された。苦しい。気持ち悪い。
「はぁ、はぁ、はぁ……うッ」
動悸が乱れ、吐きそうな気持ちを堪える。ここで吐いたら後片付けがめんどくさい。口に手をあてがい飲み込むようにする。
「なんたってあんな夢を……あれ、どんなんだっけ」
白い感じだったのは覚えている。だがそれ以外には何も……いや、言葉が身体の中で渦巻いている。
『責務を果たせ』
あれは一体?誰に言われたんだろう。言われる筋合いのやつなんて村に居ない。いや、神様とかか?勇者だからお告げが来たのか?
魔王が現れた?ありえる。仮にもし違うとしたらだとすれば、クーカと離れてるくらいしか大事なことないが。
まぁ、いい。目覚めが悪いが頭が異常なほどクリアだ。昨日が如何に疲れていたのかが伺える。あとでキメラに謝んないとな。あとは名前をつけてあげないと……か。
ベッドに再び横になった時、ベチャベチャに濡れていることに気付いた。
人の形になってることからして汗である。漏らした?など、そんな心配をする人は近くにいないのであった。
服もびしょびしょに濡れていたので着替えようとしたが着替えるものがないことに気づく。
布団に関しても宿だ。すごく気持ち悪い。とりあえず全裸になり服を窓の近くに置いた。今はパンイチだ。することもないので適当に身体を動かして身体の目も覚ますことにする。軽くストレッチをしてからスクワットだ。脚はいい、代謝が上がる。それに軽く背中に入るのも気持ちがいい。
それはふっ、ふっ、と回数を積んでいたときに起きた。
「帰ったわよ〜」
「えっ?」
「……帰ったわよ〜。串焼き食べる?いらないなら私が食べるけど」
俺が扉の前でパンイチスクワットをしていると、買い物でも済ませてきたのか串焼きを2本持ちながらキメラが現れた。
一瞬こちらに目を合わせると何事もなかったかのように濡れていないところに座り、一本の串焼きを咀嚼し始めた。
ベッドの上でなんて行儀が悪いとかいう暇もない。頭の中が混乱している。
「な、なななななんで?お前指輪にっ、えっ?」
「別に行動制限はされてないわ。それよりも串焼きはいるの?」
「……貰う」
コクンと飲み込んでからキメラは返事を返してくれた。俺の格好に特に興味はないようで何故だか虚しい。
「言っとくけど別に趣味じゃないからな。寝汗で服が濡れて気分がわr……」
「あっそ。別に聞いてないのだけど?」
「ん、どうも」
雰囲気わっる。
……あぁ、やっぱ昨日おかしかったんだな。全然殴る気持ちにならない。少しイラッとしたが一瞬のことだった。
「まぁいいや。服買ってきてくんね?1着でいい」
「……仕方ないわね」
「素直だな?」
咀嚼しながら頼む。うっさいわ。と言ったが指をペロペロ舐めながら扉の外へ行った。買いに行ってくれたのだろう。
「やっぱ2着でー!!!」
姿が見えないが大きな声で言ったので多分聞こえているはずだ。
んー、気分が良い。こんなに心が穏やかな朝はなかなかない。全てを許せる気分だ。それはさながらガンジーである。……あれ、ガンジーって誰だ?
まぁいいか。
000
「で、どこ行くの?」
「とりあえずギルドかな」
少し声を弾んだキメラにハテナを浮かべながら答えた。
ちなみにキメラがちゃんと服を買ってきてくれたので着替えてある。あぁ、もちろん宿の裏で水を浴びた。汗を流したのだ。一応乾かしたが汚そうなので服も濡らした。
買ってきてくれた2着だが、両方とも上下同じなのは所詮魔物と言ったところだろう。
「センスねぇな」と言ったところ顔面に蹴りを飛ばしてきた。油断してたこともあり俺はまともに喰らい吹っ飛んだが、キメラも頭を抑えて叫んでいた。痛み分けというやつだ。
「馬鹿かお前は!」
「あんたに言われたくないわよっ!」
朝から喧嘩が始まったが睨み合いだけだった。
ちょっと物寂しいのでこそっと俺を殺す、深い傷を与える以外の命令は解除してあげた。
理由は同世代にはしゃげる友達がいなかったからという子どもらしい理由だ。
これで少しは愉快な旅に近づくだろう。
「なにニヤニヤしてんのよ?」
「これからのことを思ってな!ガッハッハ!」
「うわぁ……」
おかしい、クーカに接する時みたいにしたのに完全に引かれている。クーカなら絶対に一緒に笑ってくれたのに。所詮は魔物か……。
「……ま、まぁそんなことはどうでもいいだろ!早く行くぞ!」
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ!なに?恥ずかしがってんの?わかりやす〜」
早歩きでその場から逃げようとするとプププ〜とわざと説明してまで煽ってきた。……ギルドまで全力疾走して逃げたが俺は悪くない。
ちなみにこの腐れババァが!と走りながらキレたら聞こえないような声で後ろから「ぁ?」と聞こえた。振り向いた時、確実に目の色が変わったのは言うまでもないだろう。あの目は確実に殺気を漏らしていた。
2日連続で死を連想するなんて勘弁してくれ……。
俺が悪いけどさ。
ちなみに周りの人たちからは温かい目で見られていた。なんでだろう?
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