指輪は便利なんでね

「……えっと」

「んー?」


 ナニコレ。


 白と青の【ゲイズ】が出てきたと思ったらこの銀髪悪魔が仲間になった……?

 隷従だから仲間というか下僕になったのか?

 ……やってみるか。


「なぁ」

「なによ?」

「土下座しろ」

「は?なに言っt……なに!?!?」


 イヤ!?ヤダ!と言いながら銀髪悪魔は綺麗な顔を歪ませながら地べたに這いつくばる。おぉ……。これは愉快な。


「アッハハ!!!」

「絶対に許さない……。髪の毛抜いてやる……。毟ってやる……。禿げさせてやる……」


 俺が指差しながら笑い転げていると怨嗟の声がこだまする。銀髪悪魔はその赤い眼光でこちらを睨んでいる。何故だろう。あいつ今動けないのにめっちゃ怖いんだけど。……そうだ!


「俺に危害加えるのを拒否する!髪の毛を毟るのを拒否する!……違う!俺の頭に生えるものを抜くことを拒否する!」

「アンタねぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 うおっ!?コイツ隷従で土下座してるくせに若干立ち上がってんだけど。だがある程度したらまた土下座に入った。流石魔物だ……。膂力が半端ないな。縛っててよかった。

 俺は銀髪悪魔の前にヤンキー座りして話しかける。


「なぁ、嬢ちゃん」

「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス………」


 なにコイツめっちゃ怖いんだけど。目にハイライトないんだけど。目が赤くないんだけど!?

 目が虚空のように真っ黒に染まり、身体から瘴気が溢れ出てきている。先ほどのキメラモードの時にも辺りに漂ってたな……。


 よし、許してあげよう!


 そう考えた途端。


『ギャハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!』


 俺の目の前、銀髪悪魔の後ろに【ゲイズ】が現れた。それは真っ黒な【ゲイズ】一番最初に出会った個体と同じ奴ではないだろうか。やはりこの【ゲイズ】をみると身体の芯から冷えてくる。だが同時に護られてるような暖かい気持ちになる。見た目めっちゃキモイけど。


 銀髪悪魔はずっとコロス……と言って【ゲイズ】に気づいていないみたいだ。俺は喋るな、目を瞑れ、そして後ろを向けと言って後ろをむかせる。土下座をしたまま後ろへ身体を動かしていた。スカートのままお尻をこちらに突き出している状態だ。


「ほう……?」


 実に興味深い。まさか土下座したまま後ろを向くとは思わなんだ。神意思を感じる。


 お邪魔しまーす!


 ……お邪魔しました。


「ノーパン……だと!?」


 そう俺がいうと目の前から歯をガチガチと鳴らせ怒りを伝えてくる銀髪悪魔。


 スパンッ!


「破廉恥な魔物め!成敗してやる!」


 ケツを叩いて俺は口にする。


「自由にしていいぞ!」

「お前ぇぇぇぇ!……ギャアアアアア!?!?」


 銀髪悪魔が絶叫とも取れる怒声をあげたかと思えば悲鳴を上げる。そうだろう、そうだろう。一番最初に目を開くよな。お前の目の前にいるの……さっき殺された【ゲイズ】だもんな?


「やっちゃってください!」


 三下風に【ゲイズ】に言うと俺の言葉を理解したのか【ゲイズ】の目が閉じて、代わりに口になる。今回は目の形のまま口になるのではなく、丸く穴が開いてそこが口になっていた。前よりもさらにキモイ。……回転し始めるのも更にキモイ。


「ひっ!?」


 銀髪悪魔が短く悲鳴を上げると【ゲイズ】から何故か喜色が伝わってきた。


「いけぇぇぇぇぇ!」

「覚えてなさいよっっ!!!!!!!!!」


 そのまま銀髪悪魔はゲイズに飲まれスプラッター好きも満足な絵面だ。四肢が飛び散り、血液も飛び散り。【ゲイズ】は美味しそうに咀嚼している。ただクチャラーはいただけない。

 おいやめろ!口を開けるな、見せつけるな!


『オイシイィィィィィィィィィ!!!!!!!キモチィィイィィィィィイ!!!!!!!!!ヤワラカイィィィィィィィィィィィイ!!!!!!!!!!ギャハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!』


 口のものを飲み込んで(?)から【ゲイズ】がお約束のように笑い出す。 


 カチャン!


 近くから何かがハマるような音がした。なんだ?と思うよりも先に人差し指に違和感が生じる。見てみると先ほどの指輪が嵌っていた。


「しぶといな」


 そんなことを呟く。まぁ、神器っぽいしな。そこで思考を終わらせ、いまだに何故か消えないでずっと笑ってる【ゲイズ】顔を向ける。


「なぁ、お前ついてくる?」


【ゲイズ】は俺が話しかけると急に笑いをやめて口を目に変えた。そしてそのまま俺のことを見つめてくる。……やばいキモすぎる。


 すると上に黒目をギョロリと向けてにやけたような目を見せる。


「……いいってことか?」


 もし仮に【ゲイズ】が仲間になればかなりの戦力になる気がする。俺でも多分出せるんだろうけど先代の出したゲイズっぽいし、制約を受けないで使えるならそれに越したことはない。


 そんなことを考えているとゲイズは指輪に目を向けた。またにやけたように上を向いて……黒い煙になった。


 なんだ?


 そう考えた途端、指輪の中に入っていった。そう、キメラの指輪にだ。


 ……えぇ。


ガクガクガクと指輪が激しく動き手が振り回される。……落ち着いた。


「……キメラ、隷従同士(?)頑張ってくれ」


 俺はそう言いながら指輪を優しく撫でてあげた。


 それに反応するように軽く震えたのは怒ってるわけじゃないよね?



 000



 さて、【ゲイズ】は仲間になったし……俺のは使わなくていいかなぁ!白と青の【ゲイズ】と真っ黒の【ゲイズ】。とりあえず2種類あることはわかった。そして能力が違うことも。白と青のやつはナカヨシィィ!!って叫んでたことから主従関係を結ぶ魔法みたいなもの……か?

 黒い方は攻撃系って感じか。んー、面倒くさい。


 さて、目の前に見える青く光る魔法陣。迷宮攻略もしたし多分転移魔法陣だろう。転移……怖い。また落下とかないよな?大丈夫だよな?

 ふーっ、ふーっと呼吸が荒くなるのを感じる。

 少し心を落ち着かせてから転移魔法陣へ移動する。


「い、いざ!」


 俺は飛び込むようにして転移魔法陣へ乗り込んだ。


 ……あれ?


【スキル:発光を入手しました】


「あああああああああ」


 恥ずかしい。恥ずかしすぎる。叫びながら乙女のように両手で顔を覆う。そのままゴロゴロと床に転がるのもしたかないことだ。何故ならばキメラが俺の行動を見ている可能性があるからだ。


返せ!俺の意気込み!


「ばーーーーっ……ぎゃぁぁあぁああああ!!!」


 噂をすればと思いきや悲鳴が頭の中に広がってくる。そうだ、ゲイズもっとやってやれ。


 そんなことを考えていると落ち着いてきた。魔法陣を通り過ぎようとしたとき、視界の端に何かを捉えた気がした。ふと後ろを振り返えると青い魔法陣が消え、隣に黄色い魔法陣が現れた。


 どうしよう、また馬鹿にされるのだろうか。そんなことを考えてると後ろからゴゴゴ……と音がした。後ろを振り返ると、壁が開き日が差していた。……出口か?


 さて、どっちが安全だろう?壁の向こうは完全に外な気がする。蝶々入ってきてるし、なんなら他の虫も入ってきてるし。けど……気になるよねぇ?

 そう思いながら魔法陣に目を向けた。


今度は転移のやつか試してみよう。疑心暗鬼になるな?いいや、勇者として警戒するのは当然の行為でありまして……。

ドアノブで痺れたり警戒心が足りてない気がする。


「えいっ」


 近くの石を投げてみる。


 反応なし。


 俺の足元を歩いてる甲虫を投げてみる。


 あ、飛ばないで。


 今度はまた別の、羽のない虫を投げた。


 魔法陣に命中。


 ジュワァと、音共に消え去った。


『欲深き者には死を!我はニンゲンを許さぬ……。滅ぼしてやる……。滅ぼしてやる……』


 あ、やべ。なんか厄介そうな中世甲冑に身を固めたスリムな騎士が瘴気を纏わせながらやってきた。ヤツ剣を構え、こちらを見据える。あいつ飛べんの?かなり距離あるけど。そう、先のヤバイ水の川が流れているのだ。俺が力を使わなければ渡れないほどに遠い。大体50mはある。


 ま、逃げるんですけどね。


「お先に失礼ッ!」


 俺は壁の向こう側へ走っていく。そこまで遠くない。3秒もあればつける。


『逃すかァァ!』


 腹の底から震える低い声が大きく響き渡る。

 後ろを振り向くと高く飛躍していた。


「んな馬鹿な!」


 俺はそのままダイビングするようにして壁の向こう側へ行った。


「逃れたな!」


 俺は全身をパンパンと土を叩く。

 辺りを見回すと緑一色の森、後ろにはめちゃくちゃに大きな気があった。上を向いても天辺が見えない。雲を突っ切るまで幹しか見えない。所々に枝があるが樹齢100年の木なんて屁でもないほどだ。俺が出た壁といっていた木はゴゴゴ……と閉まっていく。……閉まらない。いや、正確には閉まっていたが何故だろう。指が見える。銀色の指が。

 血の気がサーッと引いていくのを感じた。


「なんなんだよマジで何勝手に人間恨んでくれちゃってんの!?大体死んだの虫だし、魔法陣踏んだら俺死んでるしなんで生きてるの分かってんだよありえねぇなぁ!!!」


 逆ギレするも虚しく中世甲冑男は壁に奮闘している。若干開いてきてるような気がする。


 イヤ無理無理!俺聖剣ないし!クーカ居ないんじゃかっこつける意味もない!


 ガンッ!


 大きな音に思わず目を瞑る。


 目を開けた先には


 否


 目の前に中世甲冑男が居た。


 死


 それを感じ取った瞬間中世甲冑男は横を通り抜けた。


 見逃された……?


 真横から声がする。


『お前を』


 あああああ


『コロス』


 死んだ。終わった。そう思った瞬間。中世甲冑男は指輪の中に入っていった。


『彷徨える甲冑を隷従しました』


「……はぇ?」


 もうやだ。なんで?わかんない。わけわかんない。むり。頭痛い。しぬ。


 脳味噌がショートしたかの如く目の前が白く包まれた。

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