お早い再開は濃密なんでね
今の球体は多分【ゲイズ】かな。
【ゲイズ】に関しては俺もよく分かっていない。ただ『消えない』としか理解していなかった。今の状況を見るに前に攻略した勇者がゲイズを配置したということぐらいだろうか。あの姿は1度きりなのか、何度もキメラを殺しにくるのか。これに関しては謎が深すぎる。代償が何も書かれていないのも怖い。これ程強力ならば制約があるのは間違いないはずだ。
食い荒らす前にキメラを無効化していたしな。俺を跨いで2つに割いたんだ。能力が不可解すぎる。
【ゲイズ】がキメラを食い荒らしたあと笑っていたが、刺々しい牙をしまい口が目になった。
こちらをギョロリと見つめたあと目を細め、霧散するように消えていった。シンプルにキモイ。
「意味わからん!」
あの女が俺を油断させてからキメラの姿に変わったのは理解している。先程までの茶番は心を開かせようとしていたからだろう。
実は最初からただの人間ではないと気づいていた。
りんごが蒸発する水に足ちゃぷちゃぷしてる時点で人間じゃないだろ。怖すぎんだろ。
ま、実際はじゃれ会い始めてた時にはそのこと忘れてた。完全に気を許してたね。威張れることじゃないけど。
あのキメラは俺が警戒心の一切を解いた瞬間に姿を現した。驚きすぎて声も出なかった。【ゲイズ】がいなかったら多分死んでただろう。
「助けられたな」
少し反省をしなければ。
「まぁ、警戒心は忘れないでいこう!と、宝箱開けようかな〜?」
結局俺を運んだのはキメラだったんだよな?慢心してくれてたみたいで良かった……。
000
宝箱の中身は指輪だった。色は白に金が散りばめられたものだ。雰囲気は刺々しさのあるもの。と言っても実際にトゲがあるのではなく雰囲気だけだ。指輪が通常のものに比べて大きいのもあるだろう。ごつさを感じる。
「捻りのある指輪、螺旋状?わかんね」
これがただの指輪ということはなく何かしらの能力を上げるものだろうと踏んでいる。それがなにを上げるものなのかは定かではない。
あくまで予想だし。
「んー、嵌めてみるか」
右の人差し指に入れてみる。手をグーパーしたり手首を振り回す。うん、結構いいフィット感だ。着けた時点では特に力が沸あがる感じもないな。能力はなんだろう?流石に能力のない指輪なんてこともないだろうし……ないよな?
引き抜こうとする。
「は?」
何故……?思いっきり引き抜こうとするが指輪が引っ付いてるかのように取れない。第2関節に引っかかるとかではなく引っ付いているのだ。
まさか。
「おまっ、お前!その見た目て呪いの道具はねぇだろうが!」
10分、15分と、格闘するが結果は虚しい。
あっ、なんか魂吸われてる気がする。
嘘だけど。
時間経過でも、適当に力使っても特に影響は無さそうだ。ただの装飾品ってことは無いだろうし、街に行ったら鑑定してもらおう。
すっごい不安だなぁ。
「実は魂吸ってましたとかないよな?」
「ないわよ!」
「ギャァ!」
ぼそっと呟いた声に女の声が返ってきた。後ろを振り向くが姿は見えない。どこだどこだと探していると指輪がそれはもう激しく振動した。……人差し指千切れそうなのでやめてください。指輪を何度か叩いて落ち着かせる。
「い、痛い!やめなさいよ!!!」
「喋る武器?お前神器なのか?」
そう、この世界では武器に知性が宿ることがある。それらは神器と呼ばれ神々が使徒を遣わしたなどという逸話があるほどだ。ダンジョンの宝箱からだったり、愛剣などに宿ることがあるそうだ。後者の場合は数々の死線を潜らなければならないらしいが、定かではない。
「私は魔物よ?」
「は?ってその声!お前さっきのキメラだな!?死ね!」
俺は太ももに携えていたただの短剣で指輪に向けて刺突する。
ガキン!
弾かれた。
「なっ!?」
「なっ!?じゃないわよ!!!驚くな!!!急に攻撃する馬鹿がどこにいんのよ!危うく死ぬところだったでしょ!?」
防御結界を張ったとかなんとか言っているがそんなことはどうでもいい。ただ魔物が指に引っ付いてるのが耐えられない。
というわけでもないがなんか気に入らない。
理屈じゃないんだよね。
「なぁ、頼みがあるんだ」
「……なによ?」
「殺させてくれ」
「だからさっきから何を、おぉぉぉ!?!?」
俺は左手の短剣でノコギリのように扱い指輪を攻撃する。話を!話をぉお!と言うが生憎魔物の話を聞く耳は持っていない。
だが結局何もダメージを与えられなかった。
「ばーか!ばーか!所詮勇者も私には敵わないってワケ!」
くそがぁあぁぁぁあ!!!!!
「お前!指切るぞ……?いいのか?ああ?なぁ?」
「好きにしなさいよ」
「ごめんなさい」
さすがに指を切るのは嫌すぎる。回復出来ないこともないが流石に制約があるしこんなことで使いたくはない。
そんなことを考えていると指輪から目の前に光が映りだす。そのまま指輪が消えた。かと思えば目の前にあの銀髪の女が。
「また会ったわね」
「隙ありぃ!!!」
超高速な判断力で短剣をそこら辺に投げて、腰の長剣を抜き、斬り掛かる。
キンッ
甲高い音に阻まれまた傷つけることは出来なかった。
「そんな剣で防御結界を相手に出来るわけないでしょ」
フフンと仁王立ちする銀髪悪魔に俺は睨みつける。
「お前……」
「なによ」
「キャラ変わってね?」
「今する話じゃないでしょがぁぁぁぁあ!!!」
銀髪悪魔が俺の髪の毛にロックオンして飛んでくる。
俺はこの時真の恐怖を感じた。俺はもう植毛している状態だ。これ以上毛穴を傷つけたらどうなる……?俺は生きていられるのか?
髪の毛と言えるものか分からないものを掴まれる。
否
ーーー死ぬ。
そう思った瞬間、再び悍ましい気配が背後からした。神をも冒涜するかの如くドロっとした聖気。それが後ろから俺の身体に巻きついた。
悪いものでは無い。俺に害はない。そう直感的に理解するが力を理解することは出来なかった。理不尽に感じる暴力的な聖気は冷や汗をかかせるには十分だった。
俺に纏わりついたかと思えば、いつの間にか離れていた銀髪悪魔の前へ移動していた。
それは可視化できるもので、濃い青をした煙が対峙していた。
煙は球体になり、先程真っ黒だった【ゲイズ】を彷彿とさせる白と青の【ゲイズ】が現れた。
それを見た銀髪悪魔は顔を真っ青にしてこっちに目を向ける。俺は頷く。銀髪悪魔は左右に首を振る。
俺は親指を下に向け、口だけを動かした。
バーーーーカ!
その瞬間ゲイズは俺の方に目を向けた。
えっ?
ゲイズから煙が俺に向かってくる。その煙は俺が下に向けていた親指に漂ってきて具現化した。ゲイズはそれを手足のように扱い親指を上に立てた。ゲイズも煙を手のようにして親指を上に立てる。最後には銀髪悪魔の手を取ってそれも親指を上に立てた。
『ミンナァァァァァァアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!ナカヨシィィィィィィィィィィ!!!!!!ギャアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!』
その笑い声はだんだんフェードアウトしていって最終的には聞こえなくなった。そしてゲイズも居なくなった。ただ最後に
『キメラ(上位)を隷従しました』
と聞こえた。
銀髪悪魔とお互いに顔を見合わせることしか出来なかった。
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