第5話

2、  



「あたしは追われるより追うほうが断然好き。追われるのは苦手だ。だって面白くないでしょ? 追いかける方が、どきどきするし、興奮する。獲物を追いかけて追い詰めて殺すまでが楽しくてたまらない。あたしは獣変化能力人種(トランス・ビースト)で、はじめて人を殺したときから、どうも殺人本能にスイッチが入っちゃったみたいなんだ。血の酩酊とかどこぞのだれかは称してるらしいけど、あたしはそんなもの知らない。あれは一瞬のことだった。あの一瞬で、あたしの身体はすっかり覚醒してしまった。生きて眠って恋して死ぬだけのつまらないあたしの人生の楽しい暇つぶしの新しい遊びを知ってしまったんだ。あたしは幸運だった。あたしに殺されて目の前で崩れ落ちる血だらけのあたしの獲物。ナイフを持った汗だくのあたしの手は震えていたよ。むわっとするくさい生き血のにおい。溢れる鮮やかな真っ赤な奇麗な血液。あたしは赤く汚れた自分の手と息絶えたばかりの獲物を交互に見比べて、歓喜に酔ったのさ。あたしが殺した。あたしが殺してやったんだ、この手で! 殺しがあんなに楽しいものだとはあたしは知らなかった。あたしの小さな心臓は、気持ちがいいほど動悸していたんだ。あたしはまだ十三歳だった。あたしは快楽を知ったんだ。それ以来、あたしは人を殺すのが楽しくて仕方がない。獲物は死んだけど、あたしは確かに生きてる。殺された人間は死ぬけど、あたしはこれからも生きる。息を切らしながら、あたしは自分が生きてることを噛みしめるのさ。悪い楽しみを知っている、あたしは大罪を犯した罪人なんだろう。悪いことをするのは、それだけでとても気持ちがよいことだ。あたしがしたいのだから、あたしはそれをする。それがどうしたっていうの、だれがあたしを咎められる? 他の人やまわりの人なんかあたしにはなんの関係もない。あたしはあたしで、あたしのしたいことをする。自分のしたいことをして楽しく生きていく権利なら、だれにでもあるんだとあたしは思ってるんだけど? 否定するやつは否定すればいい。憎むやつは罵るがいい。だれに止められても否定されても、あたしはあたしを偽らない。だからあたしは荒野を駆ける。たった一人でも走って、殺しができるところへ飛びこんで行く。あたしはあたしのしたいことをして好きなように生きる。



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