第11話

〜10年後〜




「先生。話があります」


「はい。なんですか?」


先生と呼ばれた男は作業中だったプリントを素早くしまい、声をかけた女性に向き直った。


「先生は、どうして教師になったんですか?」


声をかけた者は背丈は低く、その学校の制服らしきものを着ている。。


「そうですね。僕が先生になったのは、ある人になりたかったからですね。」


「それはどんな人だったんですか?」


「その人は嘘つきで、自分に自信がなくて、すぐに泣いてしまう。」


「そんな人のどこを尊敬したんですか?」


「僕はそんな人の、言葉の力に憧れた……いや、そんなところが好きだったんです。」


彼は空を見た。


「もしかして、その人――」


「いえ、死んでませんよ。」


「って、なんで空見たんですか!紛らわしい!」


生徒は頬を膨らませ、それを見ている彼は笑っている。


「思い出に浸っていたのですよ。俺の青春を。」


「そう……ですか……」


「ええ。もうすぐ授業が始まりますよ。」


「はーい。で、今日の授業の内容はなんですか?」


「今日は、愛についてです。」


彼はその一言を囁くように言った。その言葉の重みを知っているのはこの教室では彼一人であろう。


そのとき、学校中にチャイムが響き渡った。



始まりを告げるチャイムが。

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司書さん。話があります 京介 @Rocky626

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