第10話

「司書さん。あなたは……いや、あなたには、何があったんですか。」


「私は、あなたと同じ歳のころ。」


司書は自分の辛い過去を話し出した。涙を流しながら。生徒に受け止めてと願わんばかりの辛い過去を。


「司書さん……。」


「だから私はそう決めたんです。ひねくれた正解をあなたに、皆に教えることを。」


「それは違います。」


これまでの弱気な声を忘れたかのように生徒は言い放つ。


「司書さんはそんなやつとは違う。あなたは、俺の……俺のヒーローなんだから。」


「…………」


「俺は何度もあなたに救われてきました。その理不尽でひねくれた世の中の正解からも多く

のことを学びました。でも、でも、あなたが今しているのは理不尽なんかじゃない。」


生徒は司書の目を強く、そして優しく睨みつけるように続ける。


「あなたが正解かどうかなんて、そんなの僕には分からない。でも、あなたに救われてきた人があなたの目の前にいるんだ。だったら、だったら自分に自信持てよ‼︎」


司書はその場に崩れ落ちる。その日は幸い生徒が一人もおらず、二人の姿を不思議がる人影などあるはずがない。


「俺は、あんたが好きだったんだ。俺にいろんなことを教えてくれるからなんかじゃない。俺はあんたの言葉が好きなんだ!取って付けたような正解を言っていて、自分では違う正解を持ってる。あんたは、それを隠してたんだ。俺に、いや……あんた自身にもだよ!」


生徒はその後足音をたてながら図書室から出て行った。


「頑張って……強くなってね……。」


司書は彼の背中にそう呟いた。

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