第9話

「司書さん。話があります」


「なんですか。」


司書はそういうと手に持っていた本をパタンと閉じた。


「今日は何のようですか?」


「わかってるんじゃないですか?司書さんが来いと行ったんですよ。」


「そうですね。」


司書は窓の外を見る。生徒もそれつられて視線をやる。校舎裏ではある男女がベンチに座って身を寄せ合っている。


「ここで質問です。彼らは愛し合っていると思いますか?」


「思います……けど?」


「そうですね。普通の人が見たらそう思うでしょう。私もあなたと同じ歳だったならそう思っていたのかもしれません。」


「と言うことは違うんですね。司書さんの考え方は。」


司書は長い前髪を手でさっと払い、生徒に訴えかけるように話た。


「多くの人は、あのカップルの状態を愛していると言うでしょう。しかし、あれはただ、お互いが生きていくためにそうしているのだと思います。よく言えば、『互いの存在証明』。悪く言えば『依存』です。」


「依存……でも、俺はーー!」


「人によって違います。ただし、あのようにベタベタと愛していることを証明することが本

当に愛なのでしょうか。」


「それは……。」


「私は軽々しく、好きや愛していると言う言葉を使う人をあまり信用していません。いや、

できないのだと思います。」


司書は何かを思い出すかのように歯を食いしばる。


「司書さん……。」


「なので、あなたもその人に言ってあげてください。あなたを、愛していますと。」


司書の目は涙でうっすらと濡れている。生徒はその涙の中にある感情を理解した。憎悪、裏切り、悲しみ、そして、愛に満ちたその感情を。

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