第8話

生徒と司書の昼休みはそれから無くなった。


二人の声が聞こえない図書室はどこか寂しく、夏休みの無い夏のような虚しさだった。




〜1年後〜


「司書さん。話があります。」


「なんですか?」


外は桜が舞っており彼らの旅立ちを祝福しているようだ。


「おめでとうございます。」


「ありがとうございます。でも、あと2週間ありますけどね。」


「今日はどうされたんですか?」


生徒は話辛そうに口を開いた。


「俺はある人に恋をしています。」


「そうですか。」


「その人のことを想うと胸が痛いんです。好きなのに、会えないときの方がドキドキしないんです。それはどうしてでしょうか?」


「そうですね。ちなみに、その方はどんな方なんですか?」


生徒は頬を少し赤く染めながら答え始める。


「その人は、なんでも知っていて、」


「はい」


「いつも俺と話してくれて。」


「はい」


「俺なんかよりも、とても優しくて。」


「はい」


「……だから、好きなんです。」


二人の間に沈黙が流れる。司書は再び本を開き始めた。


「死んでもいいわ。」


「え?」


「あれ、知りませんでしたか?かなり有名だと思うのですが。」


「いや、知らないと言うかなんと言うか。」


司書は本をパタンと閉じ、再び話し始めた。


「吾輩は猫であるで有名な夏目漱石はI love you.を『月が綺麗ですね』と訳しました。また、二葉亭四迷は『死んでもいいわ』と訳したと言う言い伝えがありますね。私はこの訳し方はあまり好きではありません。」


「どうしてですか?とてもロマンチックに見えますが。」


「確かに、ロマンチックを求める方は絶賛すると思います。しかし、それよりももっといい

伝え方があるのを知っていますか?」


「それはなんなんですか?」


「それは……また明日お伝えしましょう。」


司書はそう言って生徒の微笑んだ。


「そうですか……では、また明日。」


「ええ、また。」


生徒は1年前と同じように図書室を後にした。図書室は再び二人が出会えたことを祝福しているようだった。

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