23.ラーメンを食べる金曜日
金曜日
3日間に渡るテストがようやく終わった
「くぅー」
腕をあげて肩を伸ばす
すると、大地が教室に入ってきた
「おう、大地」
「よっ、テストお疲れ。今日まで部活休みなんだけど、体育館は開いてるからバスケしようぜ!」
「んー‥まあ、いいか」
そうして大地と2人で体育館へ
テストが終わってすぐに体育館へ行くような酔狂なやつは大地と俺くらいだったらしく、体育館には他には誰もいなかった
大地がバスケットボールを指で回しながら言う
「1on1の30点先取でどーよ」
「ああ、いいぜ。負けた方は?」
「勝った方にこの後ラーメンおごり」
「りょーかい!」
‥
「あっ、海てめぇ、即スリーポイントは卑怯だぞ!」
「レッグスルーからのクロスオーバーまでがフェイントでバックチェンジとか流石現役。やるなー」
「うおっ、読書部がダブルクラッチとかするんじゃねーよ、まったく」
「フェイドアウェイ‥球技大会根に持ってたな」
「くっくっくっ」
「ふ‥はははっ」
‥
「はぁ‥はぁ‥はぁ‥」
「はぁ‥はぁ‥はぁ‥」
体育館で2人並んで大の字で寝そべる
「この前、少し彩花と話してきたよ」
「‥それで?」
「色々と謝られた」
「許したのか?」
「浮気に関してだけは、まだ答えを出せてない。今度、俺の事含めて色々と話すつもり」
「‥そっか」
「俺さ‥‥多分、彩花に憧れてたんだ」
去年の花火大会
先に彩花に告白されちゃったけど
俺が告白しようと決意したきっかけ
花火大会の会場を2人で歩いていると
『おかぁさんどこぉぉお?』
と泣き叫ぶ子がいた
もうすぐ花火が始まるから人の流れが早い
周りは気にする素振りはあるものの見て見ぬふり
俺は子供を探しているような女性がいないか辺りを見回した
だけど彩花は、少しも悩む事なくその子の元まで行って
『迷子かな?お姉さん達と一緒に探しましょう』
と優しい顔で頭を撫でて
『ほんとう‥?』
と不安な顔をしてまだ泣き続けるその子に、彩花は浴衣が汚れるとかそんな事気にもせずに地面に膝をついて
『うん、だからもう大丈夫だよ』
と、安心するように抱きしめた
そうしたら、その子も嘘みたいに泣き止んで
顔からも不安の色が消えて
本当に女神かと思った
人を不安にさせない、それを自然体で出来る
俺はそんな彩花をそばで見ていたいと思った
俺はそんな‥
「彩花みたいになりたかった」
少し間をあけて大地が喋り出す
「だから‥いまだに好きとか?」
「いや‥彩花の事は嫌いじゃない‥‥ただ、彩花のした事を許せるかは‥‥はぁ‥今の自分の気持ちが、自分でもよく分からん」
「‥あくまで自論だが、憧れが恋とか愛とかに変わったんなら分かるけど、もし海の気持ちが憧れのままなら恋愛とは別物なんじゃねーかな」
そのまま大地が喋り続ける
「海はさ、中学の時の事もあって達観し過ぎてんだよ。どうせ今回の事も自分にも悪いところがあったんじゃないかとか考えてんだろ」
「もし、どっちかがどっちかに合わせていればですれ違ったんだとしたら、それはもう最初から合わなかったんだよ」
「合っている子なら、合わせなくても自然と噛み合ってくる」
大地の言う事を考えながら、ほんの少し言い返してみる
「それは、遠回しな惚気か?」
「へへっ、俺と美空は噛み合ってるからな。親友贔屓なところなんてそっくりだろ?」
「‥心配しなくてもこの前の事で空橋の事を怒ったりしてないぞ」
「‥‥そっか‥美空の事分かってくれてありがとな」
くっく、自然と笑いが漏れた
「何笑ってんだよ」
「いや、いい彼氏してるなと思ってね」
大地は照れを隠すように少しだけ早口で喋り出す
「もし次に新しく彼女にするなら、海には視野が狭かろうと海しか目に入らないって子の方が俺は合ってると思うぞ。花島は‥そうだな、いい意味でも悪い意味でも危なっかしいから束縛が多少強めのやつの方が合う気がする。あくまで全部自論だからな」
「‥ああ、参考にするよ」
「まっ、海がどういう結論を出すにしろ、俺は海の答えを尊重するつもりだけどな」
ほんとにこいつは‥
「なあ、大地」
「何だ?」
「ラーメン、全部乗せで頼んでいいか?」
「夏休みも部活漬けで、バイトも出来ない俺の財布を少しは労ってくれ」
「しょーがねーなー、チャーシュー増しで勘弁してやろう」
「じゃー行くか」
2人して立ち上がると
「並盛りな!」
と言って大地が肩を組んできた
「分かった、中盛りで勘弁してやる。っつーか何だよ」
「青春っぽくていいだろ」
「語りあったのは拳じゃなくてバスケだけどな」
2人で笑いながら肩を組んで体育館を出た
久しぶりに親友と並んで食べるラーメンはここ最近食べたものの中では一番美味いと感じた
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