20.回想する木曜日


ディーテから帰ってきて真凛と話してからベッドに横になるが中々寝付けない


もう日付も変わっているだろうか



空橋に聞いた話を思い返し

同じ言葉を繰り返す


「弱さ‥か」


恋人には弱さを見せても‥いいのか?


思い返せば、俺は彩花にずっと気を使っていたのではないのだろうか


自分なりに理想の彼氏とは何かを考えて、そうあろうと努力した

大好きだったから


だけど‥


不安にさせないようにしていたつもりが

結果、不安にさせていた


多分‥彩花はそういう俺の強がりを見抜いていたのかもしれない


だから‥何でも言って欲しかった、頼って欲しかった、甘えて欲しかった


でも、それを言い出せなかった


そんな気を使って、気を使われるような関係


そこに信頼関係はあったのか‥?


気を許せるのが本当の恋人同士なのではないのだろうか?


家族でもそうだ


俺は中学2年のあの日から家族のためにあろうとした

バスケは辞める事になったが、家族とバスケ、そんなもの天秤に乗せるまでもなく家族に傾く


俺は家族の為にあろうと強がる事を覚えた


1年が過ぎたある日、真凛が言った

「これからは、朝食は私とお母さんで作るから、兄は朝ゆっくり寝てて」


俺はそれが言葉に出来ないくらい嬉しかった覚えがある


俺は母さんと真凛に恐らく無意識に気を使っていたのだ。俺が朝食を作る、無理なんてしていない、家族の為だから当たり前、そう思い込んでいた。


ただ、真凛にそう言われてやっと俺は気を許して、必死に強がっていた肩の力を抜いて


「分かった、ありがとう」


そう答えた。そこには信頼があった



ではこれから彩花と信頼関係を‥?


それは、なんて今更な話なんだろう


本当に今更な話で‥


第一、彩花は浮気をした

この事実は変わらない

俺は父親がした浮気で、傷ついた母さんを目の前で見続け、何て理不尽で非人道的で問答無用で相手に深い傷痕を残す凶器にも似た最低な行為なんだと

浮気を憎んで憎んで憎んだ



‥また今日も彩花は謝りに来るのだろう

まるで贖罪するかのように

俺は、それをまた見ないふりをするのか?

そんな終わりのない御百度参りのような事を、彩花にさせ続けさせるのか?


なあ、彩花‥


俺は‥






目覚ましの音で目を覚ます


頭が重い、少し寝不足気味か

リビングに行くと朝食が置いてある

今では当たり前のように用意されている朝食


「いただきます」


‥そういえば真凛はバレー部の大会前で夏休みまでずっと朝練だったよな

うん、夏休みになったら大会の応援行ってやるか




玄関を出ると当たり前のように彩花がいて、ごめんなさいと呟く

俺はそんな彩花の前を


「おはよう‥あのさ、明日の朝からはいつものとこで少し話そう」


そう言って通り過ぎた


決して許したわけではない

‥ただ、もう彩花の事を見ないふりは出来なくなっていた





「おはー。ねえ、海」


いつの間にかクラスに入っていた俺によもぎが声をかける


「ん?おはよう。どした?」


「今日の放課後、暇?」


「帰って勉強しようかなってくらいだが」


「勉強会、しない?数学を教えてほしい」


勉強会か‥‥そうだな、いい気分転換になるかもしれない

あっ、そうだ。アシストしてみるか


「他に誰か呼んでも大丈夫?」


「?‥いいよ」


「おーい、万治」


「なになにー?海っち」


「今日よもぎと勉強会するんだけど、一緒にどうだ?」


「おっけー!よもぎも一緒なら奈々ちゃんも呼ばないとなー」


と言って誰かと電話し始めた

奈々ちゃん?

あ!あれか、将を射んと欲すれば先ず馬を射よ作戦の




放課後、ファミレスで勉強会が始まったのだが‥


俺の隣によもぎ、万治の隣に奈々ちゃん?が座る

奈々ちゃん?に腕を抱きつかれている万治は終始だらしない顔をしている

あれ?こいつミイラ取りがミイラってね?

馬を射たら馬とゴールイン

いや、万治がそれで満足なら俺からは何も言わないが

いや、一言、マジ万治!



「はぁ‥よもぎ、数学の分からないとこって」

「ねえ、海」


よもぎが俺の言葉に被せて喋りかけてきた


「ああいうのされたら、海も嬉しい?」


「ん?んー‥人によるかな」


「そう‥」



向かい側の2人がこっちを見てニヤニヤしている

‥こいつら‥まさか‥


「ねねっ、よもぎって結構頭良かったよね?勉強頑張ってるけど行きたい大学でもあるの?」


奈々ちゃん?がよもぎに聞くと


「特にはないよ?いい大学には入っておきたいけど‥‥‥‥その方が叔母も喜んでくれるかなって」


後半は多分俺にしか聞き取れていないくらい小さな声だった

叔母か‥

家庭の事情を聞いたわけではないが、何かよもぎには少なからずシンパシーのようなものを感じる気がする



その後は順調に勉強は進み、よもぎと奈々ちゃん?が一緒に席を外したところで、こいつには言っておかないと


「なあ万治、野暮な事は考えるなよ?俺は失恋したばかりだし、よもぎは彼氏とか作る気はないって宣言してたろ確か。余計なお世話にしかならん」


と釘を刺しておいたが


「まーまー、失恋した時こそ前を向こうよ、前をー。海っちは多分色々難しい事考えすぎなんよー。眉間に皺が寄ってるよー」



のらりくらりと躱された

はぁ‥まったくこいつは‥



前‥ね




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