16.俺が尊敬する男/地崎大地side


球技大会当日


初戦から海のクラスと当たっちまった

ただ俺は、このバスケットボールを持っている海を見て不覚にも嬉しくて泣きそうになった




中学2年の冬

3年が引退して、海が部長になる事を頑なに拒んだので俺が部長としての新チーム体制ができた

次の夏も全中優勝をスローガンに掲げていざ!‥と、始動しはじめた所で急に海が部活を辞めた


ワンマンチームとまでは言わないが

ただ、海は次元が違った

かなり上手い中学生の中に高校ナンバー1プレイヤーが混じっているとでも言おうか

実際に高2になった今でも、あの中2の頃の海を越える選手を俺は知らない


海が抜けた後はボロボロだった

今まで負けるはずが無かった中学に練習試合で負けて、部員のモチベーションが下がったのが一番大きいと思う


そんな部員達の不満は、全てが海に向けられた

裏切り者と罵った



海が部活を抜けた理由

海から俺にだけという口外しない事を約束に事情を説明してくれた

確かに母親の看病と妹の世話をするので退部しますなんて他の部員には言えない


海は母親が立ち直るまでの1年間の自分の全てを家族の為に捧げた

精神的に参ってしまった母親の看病の為の時間拘束

まだ小学生である妹に何一つ不自由にさせない為の自己犠牲

それでもあいつは嫌な顔一つせずに『家族だからね』と笑って

炊事、洗濯、掃除を始めとした家の事、中学に上がる妹の申請関連までも一切合切をその身一つでこなした


そんな中、部活なんてできるわけないだろう

それを裏切り者?

あいつがどれだけ楽しそうにバスケをしてたか見てなかったのか?


苗字が変わった事から部員の何人かはある程度複雑な事情があると察したようであるが、今更の話で結局俺以外のバスケ部員と海が和解する事は無かった


海自身も辛かっただろう、苦しかっただろう

なのに、母さんに苦労をかけたくないからと学校の事、母親の事、妹の事で大変な中、睡眠時間を削って勉強まで頑張って学区内ではトップの公立高校への合格を果たした


敵わないなと思った

俺はあいつを、海を、心の底から尊敬している





「うわ、あの全力で楽しむ気満々の顔、あいつマジじゃねぇか‥きちぃなぁー」


思わず口からそう漏れた俺に、クラスの同じバスケ部員の慎吾が


「あいつバスケ上手いの?」


と聞いてくる

慎吾は3年が抜けたらレギュラー候補だしいい機会か


俺はニヤニヤしながら返事をした


「あいつとマッチアップしてみ?言ってる意味分かるから」


そう言って最初は慎吾にマークさせると



「はぁ‥はぁ‥はぁ‥目の動き‥体の向き‥足の踏み出し‥細かいボールコントロール、全部違う方向にフェイント入れてくるし‥もう訳‥分かんねぇ」


球技大会では10分×2の形式だが最初の10分も保たずに潰された


次は俺がマークしますかね‥






「だぁぁああ、負けたぁぁあ、ざっけんなよ、この読書部員!」


「ははっ!可愛い後輩に先輩としてかっけーとこ見せないといけなかったからな」



結果はうちのクラスの負け



海がカメラを持った1年?とハイタッチしているのが見えた

あれが海が言ってた写真部の後輩か?確か雨宮だったか



へー‥あの後輩の表情‥もしかして‥?




球技大会のバスケは結局、海のクラスが優勝した




まったく、やっぱりあいつには敵わねーな




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