14.妹を撫でる日曜日


日曜日


ノックの音で目が覚めた

目を開くと真凛が部屋に入ってくる


「兄、起き‥たところね、おはよう。朝ごはんできてるよ」


「おはよう、真凛。すぐ行く」


リビングに行くと上機嫌な母さんがいた


「おはよう、海。今日は真凛と買い物に行くんでしょ?」


「おはよう、母さん。まあ、荷物持ちらしいけどね」


「荷物持ちねえ?真凛ったら、朝から今日は兄とお出かけってニコニコしながら」

「ちょ!お母さん!言わないでよ!」


「はいはい、ふふ。気をつけて行ってらっしゃい」


母さんと真凛と朝から笑って朝食を取る

改めてこんな日常が送れるようになって嬉しく思う





真凛と一緒にショッピングモールへ

真凛の今日の服装は黒のカットソーに前を開いている黒い薄手のロングシャツワンピース、下はスキニーのデニムにサンダル

背が高いのでシックな服装になりがちだが‥俺は知っている


ショップで真凛が更衣室へ入った隙に‥


本当は可愛い服が着たいんだろ?ショップに入ってからもチラチラとサイズの合わない可愛い服を見ては目を逸らしてたし


と言う事で店員さんへ


「すいません、身長高い子でも合う可愛らしい服ってどのあたりですか?」


「あ、さっきの彼女さんに着せてあげるのかな?いい彼氏さんですねー。この辺りですよ」


面倒臭いから否定はしないでいいか



夏になったら着れないかもしれないが、今と秋にも着れそうだし‥このあたりが良さそう

女の子の服は、彩花の服を一緒に選んだりするのに色々と覚えたからセンスは問題ない‥はず


手に取って戻るとちょうど真凛が試着室の扉を開けた


「兄、どうかな?」


グレーと黒の暗色でまとめた真凛は、確かに似合ってはいるのだが


「うん、似合ってるけど、これも着てみない?」


白のチュールスリーブラッフルカフスブラウスとインナーにベージュのキャミソールを手渡す


「あ‥可愛い、うん着てみる」



「兄、‥どう‥かな?」


あまり着ないタイプの服に真凛のつり目がちの目元から目力が消えて右に左に目が泳いでいる


「おう、可愛いぞ。ちゃんと似合ってる」



プレゼントしてあげたらめっちゃ喜ばれた

長期休みの度に貯めてるバイト貯金が減ってきたが、まあ、洋服代でその笑顔が見られるんなら安いものですよ

‥俺はシスコンなのかもしれない‥




昼飯を食べて雑貨屋などを覗きながらぶらぶらしてる間も真凛のテンションは高く散々振り回された


帰る前にカフェで休憩していると


「ねえ」


「ん?」


「兄‥大丈夫?」


真凛が心配そうな顔をして言ってきた


言葉の意味が分からない程野暮ではない

大丈夫‥ね

真凛には情けないところ見せちゃったからな

妹にこんなに心配かけちまうなんて、兄として恥ずかしいわ


まだ、1人になると彩花の事を考えてしまうのを大丈夫とは言わないかもしれないけど


「真凛、ずっと俺を元気付けようとしてたろ?」


「うん‥」


「いい妹で嬉しいよ。兄は」


「‥‥私は‥兄に、いっぱい!いっぱい!多分返しきれないくらいお世話になった。だから兄には報われて欲しいの‥幸せになって‥ほしいの」


真凛‥


頭を撫でる


「妹が兄の世話になるなんて当たり前だろ?だから、返すなんてそんな事考えずにこれからも甘えてくれ。‥ただ、そう思ってくれるのは嬉しいよ。ありがとな」


「お兄ちゃん‥」


「おっ、その呼び方懐かしいな。何かくすぐったいわ」


「お兄ちゃぁぁぁああん!!」


っと

泣きながら抱きついてきた真凛を力を抜いて抱きとめる


いや、甘えろとは言ったが場所は考えような

落ち着くように頭を撫で続ける



周りの視線が痛い




帰り道


「この後ある予定って女の子?」


「女の子‥といえば女の子だな。なずなちゃん、多分4歳くらい」


「え?兄、ロリコンになっちゃったの!?シスコンじゃ我慢できない?」


‥ん?シスコンで我慢とは‥?





「うーん‥」


俺は一軒の家の前で悩んでいた


四葉の家に着いたのはいいが表札に『緑野』って書いてあるんだが‥前に送ったのここ‥だよな


金曜に四葉とはSNSの交換をしているので、とりあえず四葉にメッセージを送ってみる


海:家の前に着いたと思うんだが


すると、四葉が家から出てきた

四葉の足元になずなちゃんが引っ付いて顔を覗かせている‥あっ、ひょっとしたら髪切ったし俺って分からないかも


「こんにちは、久しぶりだね、なずなちゃん」


なるべく安心させるように言うと


「うみおにぃちゃんだぁあああ!」


と、すごい勢いで突っ込んできた

って、その勢いのまま来ると危ねーよ!?


俺は咄嗟になずなちゃんの脇の下に手を入れて、勢いを無理に殺さないようにくるくると回した

所為、休日のお父さんが公園でやる飛行機?的なあれである


「きゃははははははは」


無邪気に笑うなずなちゃんを見ているとこっちまで楽しくなってくる

真凛、兄はロリコンになったみたいだ


そっとなずなちゃんを降ろしてやると、四葉もこっちに来た


「いらっしゃい、海」


「ああ、いらっしゃったよ四葉」


そんな俺と四葉をなずなちゃんがジーっと見ている


「ねぇ、うみおにぃちゃん」


「ん、どうしたの?」


「おねぇちゃん、よつばじゃなくて、よもぎだよ?」


「‥‥」


‥んー、何と言っていいのか

そこで四葉が助け舟を‥


「よもぎでいいよ?」


沈没した

同年代の女の子を名前で呼ぶってどうなんだ?


「‥よもぎでいいよ?」


うん、聞こえてはいるんだけど‥

妹除けば彩花しか名前で呼んだ事ないし

ただ、四葉は仲間内では名前で呼ばれてたよな?

そこまで特別な事ではない‥よな?四葉も俺の事名前で呼ぶし


「‥よもぎで‥いい‥よ?」


「分かった、よもぎ」


「!‥ぅん」



家に入ると、他に人はいなかったが、さてどう聞いたものか‥お父さん?お母さん?は不在?


「あー‥」


すると、よもぎが察してくれたようで


「今日は2人はデートだからまだ帰ってこない。‥ちょっと複雑なんだ」


「そっか‥まあ、うちも多少複雑だったりするし、深くは聞かないよ」


「そうなんだ‥‥いつか、話して欲しいな?そしたら‥私も話す」


「ああ、そのうちな」


「約束」




胡座をかいた俺の足の上になずなちゃんが座って、テーブルに広げた絵本を読んであげる


そんな俺となずなちゃんをよもぎは肘をついて手に顎を乗せて眺めている

いつもの無表情ではあるのだが、目が穏やかな気がする


そんな落ち着いた空間

こんな落ち着いて穏やかな気持ちになれているのは何だか久しぶりな気がした




しばらくすると次はよもぎの番なのか、なずなちゃんがよもぎの足の上に座った

そんななずなちゃんの頭を撫でながら、よもぎが喋りだす


「なずなね、妹じゃなくて本当は従妹なんだ」


「そっか‥」


ただ、そのなずなちゃんの頭を撫でているよもぎは学校では見たこともないような優しい表情で

本当の姉妹にしか見えなかった


すると、なずなちゃんが言った


「?おねぇちゃんは、なずなのおねぇちゃんだよ?いとこ?じゃないよ?おねぇちゃんだよ?」


よもぎが目を見開いて硬直すると


「っ!‥なずな‥‥‥‥なずな‥」


なずなちゃんをそっと抱きしめた


「なずな‥ありがとう」


震えた声で静かに涙を流すよもぎ


「おねぇちゃん、どこかいたいの?いいこ、いいこ」


なずなちゃんがよもぎの頭を撫でている




よもぎの家庭の事情は分からないが、何かとても温かいものを見せられているようで


ほっこりする

‥あれ?何か既視感が。何かこんな光景をここに来る前に見たような‥体験したような‥




ちなみにこの後帰る時


「おにぃぢゃぁぁぁぁあん、がえっぢゃやだぁぁあ」


なずなちゃんに抱きつかれてギャン泣きされた

俺はそっと頭を撫でた





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る