12.紫陽花香る土曜日


土曜日


現地集合で駅前での待ち合わせ

待ち合わせは10時なので30分前に到着したが、5分も経たないうちに雨宮が来た


‥雨宮だよな?


いつものサイドポニーではなく髪を下ろしている

服装は白の袖付きAラインワンピースで、朝日を反射して輝いて見えた


恐らく間抜け面で雨宮を眺めていた俺だったが、向こうも鳩が豆鉄砲的な顔をしている


「おはようございます、髪切ったんですねー」


「おはよう、ああ何となくな」


もう失恋云々ネタは封印しよう


「似合ってますよ」


「ありがとう」


「で、何か言う事はありませんかー?」


と言って雨宮が目の前でくるっと回る


「俺が不死属性だったら浄化されて消えそうだわ」


「もっと素直に褒めて下さいよー」


「ごめんね素直じゃなくって」


「夢の中なら言えるんですか?」


古いネタでもよく着いてこれんな雨宮

雑談もそこそこに目的地へ行く事にする


「着きました!まずは紫陽花の眺望散策路ですー」


「おー、これはすごいなー」


坂道の斜面一面に紫陽花が咲き誇っている

白、青、ピンクの紫陽花が入り乱れたコントラストが美しいと思えた


「喜んでもらえたみたいで良かったです」


満面の笑みでそう言う雨宮はバッグからカメラを取り出すと写真を撮り出すが‥一変して真剣な表情で写真を撮り始めた雨宮は‥


「へぇ」


「ん?意外そうな顔してどうしたんですか?」


「いや、写真を撮ってる姿を見せたらモテそうだな」


「へ?え!?うっ、海先輩こそ‥そう!この間の昼休み、バスケしてましたよね。海先輩のバスケしてる姿久しぶりに見ました。格好良かったですよ?手は抜いてるみたいでしたが」


「‥ひょっとして俺の事‥知ってたのか?」


「はい、全国中学校バスケットボール大会、2年生にしてチームを優勝に導いて個人でも2年では異例の優秀選手に選ばれた黒瀬海。実は、私が写真を始めたきっかけなんです」


懐かしむような、照れるような顔で雨宮が言った


「俺が‥きっかけ?」


「はい、なんて楽しそうにバスケをするんだろうって、それでその姿を写真に残したいなって、私の憧れだったんですよ」


「そ、そっか」


何だこれ、すげー照れ臭い

リアクションに困る‥


少し変な空気になりながらも眺望散策路を抜けて、時刻は13時過ぎ。少し遅めの昼飯に行く事にした



食後のコーヒーを飲みながら、雨宮がさっきの続きを話し出す


「‥何で3年で大会に出なかったのか‥聞いても大丈夫ですか?」


雨宮の不安そうにしながらも逸らそうとしない真っ直ぐな目を見て、何故かやっぱりこいつには話していいかなって気にさせられる


「ふぅ‥苗字が変わってるからある程度は察してるかもしれんが、父親が浮気してて、離婚騒動のゴタゴタで部活辞めざるをえなかった」


「いきなり対戦車ミサイルが飛んできましたね」


「簡潔に要点だけを詰め込んだからな」


「もう、バスケやらないんですか?」


「中学のバスケ部員と気まずくなってね。うちの高校にも何人かいるんだよ、バスケ部に」


「そうですか‥‥それでも、別に部活じゃなくてもいいんです!海先輩がちゃんとバスケしてる姿見たいです‥‥駄目‥ですか?」


こいつッ!超高威力攻撃魔法『駄目‥かな?』(後輩Ver)を使ってきやがった‥!

何で女の子はこれを低消費MPで放てるんだよ

ほぼ即死魔法だからね?コレ


まぁ‥‥やるかー

確か月曜に球技大会の種目決めがあったよな

雨宮の真っ直ぐな目には人を動かす力がある気がする

肩の力が抜けて思わず笑みが出る


「しょうがねーな、今度の球技大会でバスケ選ぶからそれで我慢しろ。そのかわり本気でやってやるよ」


「やったッ!可愛い後輩との約束ですよ」


「おう、任せろ可愛い後輩。来週地区センターかどっかで体慣らさないとな」


「それ、私もついて行っていいですかー?」


「来てもいいけど、ただ練習見てるだけとか多分つまらねーよ?」


「いいんですよ‥さて、閉まってしまう前にとっておきの紫陽花スポットに行きましょう!」



喫茶店を出ると夕方に差し掛かっており、少し肌寒くなってきていた

‥雨宮薄着だよな


「これ羽織っとけ」


「‥ありがとうございます」


?何だ急にしおらしくなって



「着きました!紫陽花の参道です!どうですか?」


「これは‥」


いきなり元気になったかと思ったら到着したらしい

しかしこれは‥すごい

参道の両端一面に咲く紫陽花がピンク一色に統一されていて夕陽が当たって幻想的な光景を生み出している


「‥綺麗だな」


思わず口から出た




「海先輩っ」


パシャ


「うおっ!?いきなり撮んなよ‥で?今度のタイトルは?」


「そうですねー、紫陽花の花言葉から取って『移り気』でしょうか」


「何かあまり縁起がよくないような‥」


「そんな事ないですよー?どちらかと言えば私に向けたタイトルですねー」


雨宮に?絵とか写真とかにつけるタイトルはよく分からんな

まぁ、俺に芸術センスが無いのだろう





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る