11.姉になれなかった金曜日


金曜日


真凛と玄関を出ると昨日と同じように彩花がいて

何かを呟いて頭を下げる

‥ごめんなさい‥か


真凛が足早に彩花へ向かって行く


「いい加減にしてッ!クソ女!あんたなんかいなくなればいいッ!」



頭を上げた彩花はとぼとぼと駅の方へ歩きだす

そんな彩花の後ろ姿を見ながら、いまだに険しい目をしている真凛の頭に手をポンポンと乗せる


「‥真凛、言いすぎ」


「‥だって」


「俺の為だろ?ありがとな」


「‥うん」



中学校と駅の分岐路で真凛を見送った後に、さっきの事を考える


真凛に責められた彩花の暗い顔を見るとよく分からない感情が渦を巻く


ざまぁみろ?違う


もっと苦しめ?違う


溜飲が下がる?違う


違う違う違う違う違う


俺は‥


彩花に‥




笑っていてほしい‥‥‥‥‥?




浮気は許せない

だから浮気をした彩花は許せない

恋人としては許せない


‥では今の彩花は?


彩花自身の事は嫌いではない

嫌いでないなら仲良くなりたいか?

付き合う前のように話したりしたいのか?


体の奥に燻っていた、あの抱きしめた時に感じた嫌悪感が騒ぎ出す


俺は今の彩花をどうしたい?どうなりたい?


‥‥分からない


俺は頭を振って思考を切り替えて高校へ向かった






「おはー」


「おはよう」


クラスに入って席につくと、四葉がジーとどこかを見ている

俺の‥頭?あー‥頭振ってボサボサになったかも‥


「髪‥伸ばしてるの?」


「いや、中学の途中まで運動部だったから短かったんだけど、辞めてからあまり切らなくなっただけで別にポリシーとかはないぞ?」


「じゃあ切ろう」


「マジか」


「失恋といえば散髪らしいよ?」


「そうか、じゃあ切るわ」


放課後の予定が決まった

気分も少しは軽くなるかもしれないしな


「あ、あの‥さ」


「ん?」


まだ話があったらしいが歯切れが悪い

四葉が言い淀むのは珍しいな


「なずなに会いに、家来ない?」


‥なるほど、確かこれは一回断ったな。二回目は言い淀むのも分かる

まぁ、断る理由もないか


「ああ、いいよ。いつ?」


「ほんと?‥ありがとう。そうだね、日曜日のなずなのお昼寝の後、夕方とか平気?」


「おう、日曜は空いてるから大丈夫」


まさか土日両方予定が埋まるとは

まぁ今は‥1人でいるよりはいいけど

1人でいると沈む一方な気がする


って、あれ?俺万治に殴られるんじゃねーかこれ?

すまん、万治!俺はなずなちゃんに会いに行くんだ!四葉に会いに行くわけでない!

か、勘違いしないでよね!




特に何事もなく放課後となり美容室へ向かう


‥そうだな、どうせなら中学のあの頃くらいバッサリいっちゃうか


美容室へ入り案内されると要望を伝える

美容師はいつものお姉さん


「こんにちはー、今日はどうする?いつもみたいに整えるだけ?」


「いや、今日は今の長さの8割くらい切っちゃって下さい。ベリーショートで仕上げにワックスで無造作に散らせる感じで」


「え!?どうしたの?失恋でもした?」


ぐっ‥‥このお姉さん、ぐっさりと抉ってくるな

しかし、やっぱり失恋といえば散髪なのか


「ノ、ノーコメントでお願いします」


「そっかー、別れちゃったかー」


このお姉さんには、うちの彼女可愛いんですよデヘヘとか色々言っちゃったからな‥裏目ったわ


「よし、お姉さんが新しい恋ができるように格好良く仕上げてしんぜよう」


「いや、普通で大丈夫です」



‥‥‥新しい恋‥ね





「ただいまー」


家に帰ってリビングに入ると真凛がいた

真凛が目をパチクリしている


「おかえり、髪切ったんだ」


「ほら、失恋といえば散髪だろ」


「そうだね、女子はね」


「いつから俺をお兄ちゃんだと錯覚していた?」


「‥‥ねえお姉ちゃん」


「‥何だ?」


「一緒にお風呂入ろっか姉妹だし」


「いや、え?」


「ほら、早く」


「ちょ、おま‥」


真凛に腕を引っ張られて脱衣所へ連れていかれる


「おい、脱がすな、俺が悪かった!やめっ、イヤー!!」




日曜の夕方まで、妹の買い物の荷物持ちとして同行をする事を条件に、何とか一緒にお風呂は勘弁してもらえた

死ぬところだった‥社会的に


雨宮と明日の待ち合わせ場所と時間の話を詰めて寝る




‥そういえば、彩花以外の女の子と休日に2人って初めてかもしれない




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