10.現在/四葉よもぎside
私は叔母が手の離せない時に、たまに叔母の娘ようは私の従妹の幼稚園の迎えに行く事がある
その日も従妹のなずなの迎えに行き、一緒に帰っていたらスマホが鳴った
なずなと繋いだ手を離して画面を見ると奈々と表示されている
別のクラスとなってしまった女の子の友達からの電話だった
「はろー」
「もしもーし、よもぎ今平気?クラス変わって話すの減っちゃったから寂しくて電話してみました、てへっ」
「今はなずなの迎えに行って一緒に帰ってるところ」
「あちゃー、タイミング悪かったかー」
「家に着いたらかけ直すね」
「はいはーい、りょーかい」
「じゃあ一回切るね」
と友人との会話を終わらせて視線を下に向けると
「‥‥‥なずな?」
少し目を離した
繋いでいた手を離した
離してしまったばっかりに、そこにいるはずのなずなの姿が無く、全身の血の気が引いた
「なずな!」
焦った私は辺りを見渡し、なずなの姿がないのを確認すると前へと駆け出す
角を曲がった所で、少し離れた所になずなの姿を見つけて安心でへたり込んでしまった
「おねぇちゃぁぁぁん」
なずなが転んで泣いてしまっている
早く行かないと‥と思ったところで、なずなの側に男の子がいる事に気づいた
あれは‥隣の席の海北?
海北はすぐ横の自販機で水を買うとなずなの膝にかけて、残った水でハンカチを濡らしてなずなの膝に結んでいる
その後になずなの頭を撫でていると、いつの間にかなずなが泣き止んで‥って早く行かないと!
「なずな!」
「あ!おねぇちゃん!」
なずなのもとまで駆け寄ると
「ふぅ‥迷子かと思ったけど、お姉ちゃん来て良かったな」
「うんっ!」
海北はなずなの目の高さに合わせるようにしゃがんだまま見ている人が安心できるような笑顔でこっちに目を向けた
「あれ?四葉?」
「うん、なずなをありがとう海北」
「いや、迷子にならなくて良かったよ。んじゃ俺は帰‥っと」
帰ろうとした海北のズボンをなずなが掴んだ
「おにぃちゃん、だっこして」
「あー‥足擦り剥いちゃったもんな」
なずなを抱っこする海北を見て私は内心驚いていた
なずなは人見知りであり、叔母と叔父と私以外に抱っこをねだる姿なんて見た事ない
抱っこをされてはしゃぐなずなをかかえて
「迷惑でなければ家まで送るよ」
と海北がなずなに向けたままの優しい顔で言ってきた
私はその視線に少しの違和感を感じた
抱っこをねだったなずなを思い出し
違和感の正体に気付いた
海北の視線には一切の下心が無かった
最初から善意というよりも、まるでそうする事が当たり前のようになずなの手当てをし、見る人の誰もが安心する表情で優しく語りかけてくれる
なずなが懐くのも頷ける
「こちらこそ、迷惑でなければお願い」
帰り道、なずなはおにぃちゃん、おにぃちゃんと全力で甘えていた
‥あれ?私より甘えられてないだろうか?
「おにぃちゃん、お名前おしえて」
「海だよ、なずなちゃん。うみって呼んでね」
「うみおにぃちゃん!」
「分かった、海」
「ブルータス、お前もか」
「‥?」
その日、ほとんど初めて話した海に私は興味を持った
登校中に突然雨が降ってきた日
一部の男子が女子のYシャツが透けてなんてはしゃいでいる
聞いてみるなら丁度いいので隣の海に気になっている事を聞いてみた
「海は女の子をいやらしい目で見たりしないよね?」
すると
「彼女いるのに他の子をそんな風に見るわけねーじゃん」
と、海は何当たり前の事を?と言うように笑顔で答えた
彼女がとても大事にされていると伝わってきた
海の彼女の事が少し羨ましいと思った
別の日、前日になずなが海に会いたがっていたので聞いてみる
「家に来ない?」
「あー‥なずなちゃん?」
「うん、会いたがってる」
「んー‥彼女がいるのに女の子の家に行くわけにはいかんぜよー、不安にさせたくないんだわ。ごめんな。もし帰りにばったり会えたら、めいいっぱいなずなちゃんを構わせてもらうよ」
彼女を不安にさせたくない‥か
彼氏とか彼女とか付き合った事が無い私には分からない。でも
彼氏にするならこんな人がいいなと思った
私の意思とは関係なく、私の気持ちは昂っていく
朝、学校へ行きクラスに入ると照史から信じられない事を聞いた
海が彼女と別れた?
男らしくない?
振られた?
あれだけ彼女を大切にしていた海が?
意味が分からない
これはチャンスなんだろうか
‥あれ?チャンス?何の?
分からない‥けど、何だろう気持ちが落ち着かない
海を合コンに連れて行くと聞いて何かモヤッっとしたので、つい海が行くなら私も行くなんて言ってしまった
そうだ
今度こそ、家に来てなずなと遊んであげてって誘ってみようか
そうすればこのよく分からない気持ちも少しは落ち着くかもしれない
そんな気がした
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