9.過去/四葉よもぎside


私、四葉よもぎは昔から容姿が良かった

小さな頃より可愛い、綺麗と言われれば嫌でも気付く

でも昔はそれが何を意味するかを分かっていなかった


私はお母さんの顔を写真でしか知らない

私が2歳の時に交通事故で亡くなったらしい


物心がついた頃より父と2人

それが当たり前であり、母親の愛情に飢えているなんて事もない

小学生の頃に運動会や授業参観で少し羨ましいと感じる事はあったが心を病んだりはしなかった

‥私、病んでないよね?


小学校高学年になったあたりだろうか

私の胸が急に大きくなってきた

その頃からだろうか

父の様子が少しよそよそしく思えた


中学生になった

私の胸は大きくなる一方であるが

女の子とはこうあるべきと教えてくれるお母さんがいなかったせいもあるのだろう

羞恥心というものが欠けていた私はある日の休日、その日もほとんど下着姿と言ってもいい格好で家の中にいた

リビングで特別興味もない情報番組を見ていると



「お父さん‥?」


父に押し倒されていた

同級生が、男性教師が、外を歩けば見知らぬ男が

私をそういう目で見てくる事は分かっていた

しかし父までが私に性的な‥

そう考えるとふいに涙が溢れてしまった


私の顔を見てハッっとした顔をした父は酷く後悔をした顔をしてすまないと謝罪の言葉を口にすると柱に額を何度か打ち付けた後にどこかへ電話をかけた


その次の日

私はお母さんの妹の夫婦のもとで暮らす事となった

母の命日に何度か顔を合わせた程度の私にとても親切にしてくれた

叔父の胸に寄せる視線が少し気になったが、叔母から男は少なからずそういうものであると教わった

むしろ


よもぎの胸を見るたびにお小遣いを1割づつ減らす


と笑顔で叔母に言われ、不可抗力だーと叔母に縋る叔父が少し気の毒ですらあった

叔父と叔母はとても仲がいい

生まれたばかりの娘もいる

これがきっと理想の家庭というやつなのだろう

そう思うと私という異物が混ざるのが申し訳ないと思った

しかし叔母は私のそんな感情を読み取ったのか優しく抱きしめて


よもぎも私の娘だよ


と言ってくれた

温かい

温もりが心地良い

いつも1人であった私は優しくされたい、優しくしてほしいとこんなにも望んでいたのかと自分で自分に少し驚いた

私は初めて人の腕の中で泣いた



私は父を軽蔑などしていない

むしろ、あの場面で思い留まり自制した父を誇らしくすら思う

なので、あの事がトラウマになり男性恐怖症に‥なんてお可愛い事にはなっていない

でも、男性から向けられる視線には敏感となり

自分から喋りかける事はなくなった



高校生になった

何度か男子から告白されたが、告白中の視線の半分以上が胸にいくような告白に私が心動かされると思っているのだろうか


クラスでも明るい感じのグループと仲良くなった

男子もいるけど、ある程度女の子慣れしている事もあってか胸を見る事はあれど、そこまで不躾な感じではない

クラスカーストなるものも知識として一応理解している

目論み通り、カースト上位となった私に対する告白は減ってくれた

そもそも彼氏を作る気がないと公言している事もありグループ内で告白される事もなく

グループ内の女の子達とも仲良くできているし、見た目で浮く事もない


それでも学校では胸が隠れるように大きめなカーディガンを着てしまうのは一種のコンプレックスなのかもしれない


高校2年になった

クラス替えがあったが仲のいい何人かとは同じクラスになれて少しホッとした

一番仲のいい子とは離れてしまったけど



隣の席になった男子を見る

髪が長く、顔の全体は見えないがまるで女の子に見えるような整った顔立ちだと思う‥多分


カーストなんて気にもとめずに誰とでも気軽に話せるやつ


私の第一印象はそんな感じだった




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