6.決別の火曜日
火曜日
いつも起きる時間の一時間前に起きた
最近の寝不足もあり、あのまま眠り続けたらしい
頭がくらくらする
風邪を引いたかもしれない
リビングへ行くと母さんと真凛が朝食を食べていた
「おはよう‥‥あれ?」
真凛が違和感を感じ
「はい、計って」
母さんがすかさず体温計を差し出す
母さんには敵わないなと思った
37度1分
ギリギリ平熱の範囲な気もする
ただ、学校に行く気にはなれず休む事にした
軽く胃に食べ物を入れて薬を飲んで冷えピタを貼って部屋に戻ると彩花にメッセージを送る
海:体調悪いから今日は休むわ
彩花:えっ?迷惑でなければ今からお見舞いに行ってもいいですか?
海:いや、少し寝れば治ると思うから学校行って
彩花:でも‥心配です
海:それよりも、今日の放課後予定ある?
彩花:無いですよ。放課後にお見舞いに行きましょうか?
海:いや、ちょっと会って話したい事があって。起きて体調大丈夫そうなら連絡する。
彩花:話ですか?分かりました、連絡待ってますね
薬が効いてきたみたいで眠くなってきた
風邪が治ってほしいような悪化してほしいような複雑な気分のまま眠りについた
目が覚めた
時計を見ると昼を過ぎたくらい
軽い風邪だったようで体調自体はすっかり良くなっている
彩花にメッセージを送る
今は多分授業中だから返事はこないだろう
海:体調良くなったよ。彩花の家の近くの自然公園の池のとこのベンチで待ってるから
海:急がなくていいからね
さて‥
別れ話に行きますか‥
自然公園のベンチで空を眺める
曇り空
視界一面の灰色が今の気持ちを表しているようで、お誂え向きな空模様と言えるだろうか
暫くそのまま空を眺めていると
「海君!お待たせしました!体調の方は本当に大丈夫ですか?」
息を切らした彩花が駆け寄ってきた
急がなくていいって言ったんだけどね
「おう、もう大丈夫。心配ありがとう」
彩花が隣に座る
「いえ、お見舞いに行けなかったので、心配くらいしか出来ませんでしたから。あの、それでお話って何でしょうか?」
「その前に少し世間話でもしよっか」
「え?はい」
俺は灰色の空を見上げる
「そうだな、先週の土曜って何してたの?」
「え‥従姉妹の家に行ってました‥」
「‥そっか、楽しかった?」
「‥はい、同い年なので、お互いの彼氏の話とかもしたりするんですよ?」
「そっか‥‥そっかー‥‥‥‥俺さ」
「?」
「彩花が土曜に本当は何してたのか知ってるんだよね」
「‥‥‥‥‥‥ぇ」
「だからさ‥‥‥別れよう」
何の返事もないので灰色の空から彩花の方に視線を戻すと、焦点のあっていない目で茫然としていた
もう、まともに話はできないだろうか?
伝えたい事もあったが声が届かなければ意味がない
「話はそれだけだから。じゃあな」
立ち上がろうとすると腕を掴まれた
「待っ‥待ってください!」
浮かした腰を降す
「うん、話があるなら聞くよ‥最後くらい」
彩花は顔を俯かせてゆっくりと口を開く
小さな雫が何粒も落ちて地面を濡らす
「ごめ‥‥さい、ごめんなさい‥ごめんなさい‥‥浮気して‥ました‥‥でも!でも‥最後なんて‥言わないで‥‥‥別れたく‥ないです」
「‥浮気させちまうような彼氏でごめんな」
「そんなっ!海君は悪くない!何も悪くない!悪いのは‥全部‥私なんです‥‥ごめんなさい‥」
「相手の方とは上手く付き合っていけそうなのか?」
「もう、関係は切りました‥」
「そうなんだ‥‥次はさ、浮気するなんて事考えられないくらい素敵な彼氏を見つけてくれ」
「いやっ‥‥海君より‥素敵な男の人なんて‥‥見つかりっこありません‥‥だから‥だから‥私を捨てないでぇぇぇぇ‥‥」
彩花が泣きながら俺の胸に頭をつけて縋り付いてくる
「捨てるも何も‥」
最初に俺を捨てたのは彩花だろ‥
その言葉をグッと飲み込む
本当は頭では分かってる、けど
手を繋いだのは、ただ掴まれただけ
それで、無理矢理キスをされた
浮気なんてしてない
多分‥俺は、そういう事を言って欲しかった
笑いながら手を繋いでいる写真
キスを受け入れている写真
それを見たから分かってる
けど、だけど
きっと俺はまだ、彩花を信じたかった
でも‥
彩花自身が浮気したと認めてしまっていたら‥もう‥どうしようもないじゃないか‥
抱きしめられている腕の力が少し緩んだところで
「彩花‥」
肩に手を置いて力が入らないようにゆっくりと引き離す
手を繋ぐのも抱きしめるのもダメだったけど
初めて見る彩花の悲しげな泣き顔は不謹慎にも
綺麗だと思った
大好きな女の子
大好きだった女の子
俺の事を好きでいてくれた女の子
そんな女の子と恋人になれた
それはとても幸せなことで
だから、俺から恋人として最後に伝える事は
恨み言なんて事あるはずなくて
「今まで俺と付き合ってくれてありがとう。すっげえ幸せだったよ」
今は作った笑顔ではなく、優しく笑えたと思う
彩花はそのまま泣き崩れてしまった
俺はもう彩花のその姿に手を差し伸べられるような関係ではない
伸ばしかけた手を引っ込めて、ゆっくりと彩花から離れ歩き出す
涙が溢れないように上を向くと
やっぱり空は灰色だった
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