2.激動の土曜日


土曜日


昼過ぎに目が覚めた

母さんは仕事、妹は部活だろうか?


冷蔵庫を開けて簡単なものを作り、遅めの昼食をとる

今日は何も予定はないので読書と勉強を繰り返す事にする


1時間置きに読書、勉強、読書、勉強と続けて陽も沈み始めた頃


大地と空橋は今頃イチャついているのだろうか

何て考えているとスマホに大地からメッセージが届いた


大地:今大丈夫か?ちなみに家?


海:大丈夫だよ。家にいるけど、どしたの?


大地:ちょっと出てこれない?駅前のいつもの喫茶店


何かあったのだろうか‥?

区切りもいいし行ってみるか


海:分かった。15分後くらいに着くと思う


出かける支度をして原付を走らせる

いつもの喫茶店こと喫茶ディーテは空橋の歳の離れた兄がやっている喫茶店であり、店の裏に原付を置かせてもらえるので、俺としてはかなり通いやすい



というわけで、店の裏に原付を止めて店に入る

客は大地と空橋しかいなかった


「こんにちは」


ちょうどマスターの空橋圭介さんがいたので挨拶する事にする


「こんにちは、海君。もう店は閉めるからゆっくりしてって」


なるほど、貸切気分

とりあえず大地達の方へ向かう


「おっす!急に呼び出してどうした?」


「海、とりあえず座ってくれ‥」


大地も空橋も暗い顔をしている

一体どうしたんだろう

疑問に思いつつ席についた


「空橋もこんにちは。この空気は何?」


「海北君‥あのね‥」


「いや、俺から話すよ」


大地が話すらしい、話を待つ事にする


「順を追って説明する。俺と美空は今日、横浜でデートしてたんだ。そうしたら知らない男と歩いている花島を見かけた。美空も知らない奴らしい」


「‥は?」


「親戚とかかもしれないが、気になって後をつけたら手を繋いでて、どうにも親戚って雰囲気ではなかった」


「‥」


「その後、公園のベンチでキスをしているところまで見て後をつけるのをやめた。つまり、花島が浮気してるところを見ちまった‥」


「‥はは」


人間ビックリし過ぎると笑いしか出ないというのは、どうやら本当らしい

無意識に渇いた笑いが漏れた


「伝えるべきか迷ったが、美空とも相談してやっぱり伝える事にして今呼び出したところだ」


「‥‥何か、ごめんな‥‥俺と彩花の事で‥せっかくの1周年のデートの空気、悪くしちまって‥」


「それよりお前の事だろっ!美空は微妙かもしれないが、お前がどうするにしろ、俺は全面的に海の味方につく」


「脅されてそうとか、そんな感じではなかったのか?」


「‥あぁ、楽しそうに見えたな‥」


「そっか‥」




何分くらいだろうか

俺が大地から聞いた事を繰り返し考えている間、大地と空橋は何も喋らず黙って待っていてくれた


「‥別れると思う」


「ッ!」


空橋はビクッっとしたが


「そうか‥そうだよな」


大地はどこか納得したようであった

大地には中学の時に俺の苗字が変わって、その経緯も話してあるからだろう


「今は心の整理が追いつかないから‥今日は帰るよ‥」


「証拠の写真も撮ったけど‥送るか?」


「あぁ、別れる時に使うかもしれないし‥‥あと、決心が揺らがないように、送ってくれ」


「気をつけて帰れよ‥変な気は起こすなよ?」


「‥大丈夫、浮気が原因でみたいなのは‥ある意味慣れてるから‥」


そう言って店を出た




そこからは、どうやって帰ったか覚えていないが気付いたら家の玄関にいた

よく事故らなかったな


「ただいま‥」


「おかえり、兄‥‥なんかあった?彩花さんと喧嘩でもしたの?」


どうやら余程酷い顔をしているらしい

開口一番妹に心配された


海北真凛

俺の二個下の妹で、黒髪のショートヘア

170近い身長につり目がちの凛々しい目元で、かなりモテるらしい。女子から


「顔真っ青じゃん、こっち来て」


手をひかれてソファーに座らされた

母さんはまだ帰ってきてないらしい


「で、何があったの?」


「彩花に浮気されてたよ‥」


「はぁっ!!?」


妹の顔が嫌悪に歪む

そう、俺と妹の真凛は浮気を人一倍嫌悪している

何故ならうちの両親の離婚の原因が父親の浮気だからである

あの頃の母さんの傷ついて憔悴した姿は今でも忘れない


「どうするの?」


「気持ちの整理がついたら‥別れる‥かな」


「そう。別れるまで‥別れた後もだけど、あの女二度と家に入れないで」


「‥分かった」


「何か飲む?」


妹がいつもの3割増しくらいで優しい


「コーヒー、ブラックで」


そういえば大地から写真が届いてたな


1枚目、手を繋いでる写真

確かに楽しそうだな



だが‥2枚目はダメだった



スマホを放り投げて、すぐにトイレへ駆け込む


「おぇぇぇええええ」


キスをしている写真


「っく‥ひっく‥‥おぇぇ‥ひっく‥」


涙と胃の中身を吐き出す


「げぇぇ‥おぇぇぇ‥ぐっ、ひっく」


胃の中身は全て出したはずなのに嗚咽が止まらない


水分が足りないのか頭がガンガンしてきた



‥花火の帰り初めて手を繋いだこと


‥彩花の誕生日に初めてキスをしたこと


‥クリスマスにはイルミネーションを2人で見ながら綺麗ですねと笑う彩花を見て、月並みにも彩花の方が綺麗だよなんて思ってしまったこと


‥バレンタインには初めて本命チョコを作りましたなんて言う彩花が可愛いすぎて思わず長い時間チョコレートごと抱きしめてしまって、チョコが少し溶けちゃって怒られたなんてこともあったな




彩花との思い出が頭の中で流れては色褪せてゆく





花島彩花という大好きな女の子が

こいつは浮気をした

というフィルターに包まれて見えなくなっていく






トイレから出ると真凛に頭をつかまれ、胸に押し付けるようにして抱きしめられた


今はただ何も言わずに温もりをくれる真凛がありがたかった


出し尽くしたはずの涙が出てきて

また少し泣いた




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