第9話
『貧しく大変だった幼少期を乗り越え、現在は家族のために頑張る空き巣。』
『裕福な両親に甘え、ニートで自分勝手、自堕落な生活を送るクズ。』
この二点だけが大きく取り上げられるようになっていった。
これにより、俺の刺された傷が『正当防衛』を主張するために、自分で傷付けたのではないかという見方まで出てくるようになった。終いには、傷は本来あり得ない付き方だと解説する素人連中まで現れ始め、ネット上では軽いお祭り状態へと進展していった。
そして、とうとう俺に対する誹謗中傷合戦が始まった。
「社会にとって死ぬべき人間は、家族の為に仕方なく犯罪を犯した空き巣ではなく、社会の役に全く立っていない息子の方だった。」
「殺した相手や遺族に対して土下座して詫びろ。」
「能力も何もないクズが起業する時点で頭イかれている。こんなクズは、社会のためにも、こいつ自身の為にも死刑にした方が良い」
「いくらあげたら死んでくれますか?」
このような誹謗中傷のDMや書き込み、コメント、電話の数々が連日、俺のもとに届くようになった。
『どうして、被害者の俺がこんな風に叩かれないといけないんだろう。』
俺は顔も名前も分からない人間たちによる剥き出しの悪意を、テレビやSNS、動画サイトにラジオなど様々な情報媒体を通じて強制的に受け取らされる状態へと陥っていった。
また、俺の顔は至るところで晒され続けていたせいもあり、街を歩いていても顔を指されるようになっていた。時には、後ろから石を投げられ、俺が階段やエスカレーターの前に立てば、俺に聞こえる大きさで、
「気をつけて。こいつ、階段から人を突き落として殺すのが趣味な殺人犯だから。」
と罵声や誹謗中傷を直接、浴びせられる事も多々起こり始めていた。
しかし幸いにも、俺はニートだったので職場に迷惑をかけるという事態は起こらず、その罪悪感を感じずに済んだ。
その代わりに、父親や兄弟の会社に対して、嫌がらせや迷惑行為が及ぶようになってしまった。兄弟や父親は『気にしなくていい』と言ってくれるが、俺からしたら自分のせいで関係ない人たちが巻き込まれ、迷惑を掛けている現実を気にせずにはいられなかった。
「いつまでもやられっ放しでいるわけにもいかない。」
この事態を沈静化させるために、俺は一本の動画をネットに投稿することにした。
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