第8話

空き巣犯の奥さんが雇った弁護士は、今回の事件で不服申し立てが認められる可能性は低いだろうと思っていた。それでも、奥さんの気持ちを少しでも和らげる為には、俺が悲惨な人生、生きていても地獄だと思うような人生を送るんだと思ってもらうことが必要だと考え、このネットの風潮を利用して更に、俺がいかに非道でクズな人間であるかを植え付けるように煽動した。



「青田さんは、事業に失敗し、投げやりになっていた。また、社会に混乱や破滅をもたらすような破壊主義的な思想を持ち合わせており、過度な暴力が描写されている映画も最近は観るようになっていた事からも自分の人生や社会、他人の命がどうなっても構わないと考えていたと想像することできます。


また、人間の命に大した価値はなく、人間は誰しもが必ず死ぬ。それが早いか遅いかの違いでしかない。犯罪者は特に、生きる価値はないと考えており、死刑制度にも賛成している人間だ。」


という情報を匿名で流し世論に俺が、平気で人を殺すような人間、殺しても何も感じないような人間であるという印象を植えつけていった。




一度、世論が傾き出すと止まらなくなる今のネット・マスコミ社会を反映するように、これまで『正当防衛』だと主張していた人たちが一斉に手のひらを返してきた。



また、この流れに拍車を掛けたのが、俺と空き巣犯の生い立ちや環境の違いだった。



空き巣犯の二人は小さな頃からの幼馴染で、どちらも両親から見捨てられ施設で育ち、親の愛情を知らない子供だった。裕福ではないため、勉強よりも生活費を稼ぐため、若い頃からバイトを掛け持ちするなど生きるために必死な学生生活を送らざるを得なかった。


『勉強したくてもできない』といった環境で、高校を卒業したら施設を出なければならない二人は大学に進みたくても学力、学費の両方が不足していたため、社会に出て働く道を選ぶしかなかった。


しかし、空き巣犯の二人とも高校を卒業してから必死に働き、家族を持ち、自分が小さい頃に受けられなかった『親の愛情』を子供に注いだ。


ただ、学歴もなく小さな会社で働いていた二人は不景気の煽りを受けて、働いていた会社が倒産してしまい、生活苦に陥っていた。それでも、家族を養っていくため、仕方なく空き巣などをしてお金を工面しようとした。


『このように子供の頃から苦労をしてきた人間が、人に暴力を振るう、ましてはナイフで人を刺すなんて、とても信じられない。彼らの一人が息子を刺したのも、想定外の攻撃を受けたことに動揺し、自分の身を守るためにとった仕方ない行動だったんじゃないか。』とインタビューで答える人も出てきた。



一方の俺は、普通より裕福な家庭に生まれ育ち、何不自由ない生活を送ってきた。子供の頃からやりたいと言ったことはやらせてもらい、それでいて長続きしたものは一つもない飽き性。兄弟は兄と弟の二人いるが、どちらも既に結婚し、実家を出て各々が家庭を持っている。それに比べて俺は事業には失敗、恋人も何十年もいない。会社が倒産した後も、就職活動もせず、実家に居座り、親のすねを齧り続けている。


SNSには裏垢を使い、社会への不満や過激な思想を発信し、人の命なんて何とも思っていない冷酷非道な男。


インタビューなども、学生時代から何を考えているか分からない人間だったと俺がヤバい人間だったという受け答えをされていた。


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