第7話

ネット上では、この話題性ある事件を利用して視聴数やフォロワー数を稼ごうとする『炎上系なんちゃらかんちゃら』という評される連中が、面白がり、様々な持論を展開し始めた。



「空き巣二人のうち、一人は母親にも俺にも傷つける行為はしていない。それなのに、正当防衛が適用されるのはおかしい。そもそも、最初に空き巣に出くわした母親は拘束されはしたが傷は付けられていない。逆に、犯人に対して先制攻撃した息子は刺されている。これから言える事は、逆らわずに大人しくしていれば、この空き巣二人は住人を傷つけるつもりは無かったと思う。つまり、この息子の行動は正当防衛ではなく過剰防衛だ。30を超えた大人がナイフを持った人間を階段から蹴り落としたら、こういった事態が起きることは簡単に予見できただろう。」



「息子がニートで実家に引きこもっていなかったら、母親は拘束され、金品が奪われ、空き巣犯は殺されるのではなくて、空き巣犯として刑務所に入って終わり。たったそれだけの小さな事件として片付けられるはずだったに違いない。34歳のいい歳こいたオッサンが家にいなければ、二つの命は失われることは無かった。ナイフを持った人間を階段から蹴り落とすようなクズだから、会社は倒産させるし、どこにも再就職が出来ないんだよ。」



「うまくいかない人生の憂さ晴らしを空き巣にぶつけて、人を殺しただけのただの殺人犯だろ、この息子は。こいつも何もせずに素直に投降してれば、空き巣がナイフを振り回す事もなかった。まさか、平日の昼間に青年男性が家にいるなんて誰が想像できるよ。これは、空き巣犯が運が悪かったとしか言いようがない。」



こういった意見を炎上目的で投稿していく人間がどんどん増えていったことで、事件の詳細を知らない人たちは空き巣が死んだのは、『34歳・無職・実家暮らしで社会的にクズな息子が働きもせずに家にいたせいだ』という論調へと急展開していった。


もし、俺が『既婚・成功した経営者』の肩書きだったとしたら、彼らの主張は国家権力の上層部と裏で繋がっているといった陰謀論に変わっていただろう。でも、それは俺をターゲットにするのではなく、『国のあり方』であり、陰謀論が好きな人しか食いつかなかったに違いない。


しかし、この『未婚・ニート・実家暮らし=社会的クズ』というレッテルは、何を言われても言われたこいつが悪いという心の免罪符を与えているため、非常に大きな効果を発揮していた。


一度、このネタでの炎上動画が話題になると分かるや否や、この流れに乗ろうとした連中が、俺の素性や性格、行動や過去など様々なことを晒されていった。実際に投稿された内容が事実であるかどうかは関係なく、俺自身が悪者に映るように編集され、ネット上に拡散されていった。

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