うがい薬が売ってねー!! って叫んでいたら、美人なひねくれ系幼馴染と付き合うことになったんだけど~ひねくれ系彼女に女の子に告白されたって言ったら理詰めで告白させようとしてくる件について~

高野 ケイ

第1話

「うがい薬が売ってねー!!」 








 まずい、まずい、まずい。俺はネットを検索しながら焦っていた。どこにもうがい薬が売っていないのだ。そりゃあさ、うがい薬に病気への効果があるかなんて、実際の所はただの高校生である俺からしたらわからない。


 でも、俺は誰よりも慎重な男である。例をあげるならばゲームのラスボスと戦う前には、レベルをマックスまであげて、回復アイテムもマックスまで持つタイプである。部活でもひたすら安全策でをとるタイプである。周りからお前が告白すれば絶対付き合えるといわれても行動をしないタイプである。そりゃあね、あっちから告白されたらオッケーだけど、自分で言うのは、もっと関係性を構築して、確実に成功すると確信できてからにすべきだと思うんだよね。


 故についたあだ名は「綺羅星高校のチキンハート」。やかましいわ。慎重であることの何が悪い!! 慎重勇者とかもいるじゃん。かっこよかったじゃん。大体さ、臆病と慎重は違うんだよ!! まあ、今はそんなことはどうでもいい。ようは口内を殺菌できればいいのだろう。というわけで俺は消毒液があるであろう化学室の扉をノックした。








「誰かな? 入って大丈夫だよ」


「おじゃましまーす」


「ああ、大和やまとか」








 室内から返事が来たのを確認して俺は扉を開けた。俺を出迎えてくれたのは腰まである長い黒髪の綺麗な顔立ちの女生徒だ。整った顔立ちと、制服の上に白衣という奇抜な恰好のためか、どこか、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。やっぱり、美人ってずるいよね、こんな格好しても様になるもん。


 彼女の名前は毒島里香ぶすじまりか学校で変人として有名な女生徒であり、俺の幼馴染である。ちなみに、小学生の時に「お前状態異常とか使ってきそうな苗字してるよな」って言ったら三日ほど口をきいてくれなくなった過去がある。


 彼女は訪問者が俺だとわかると、にやりと笑って薬品棚から、ビーカーを取り出した。そしてアルコールランプを取り出して火をつけようとしはじめた。








「いつものようにブラックコーヒーでいいかな。君と会うのは久しぶりだね。今日は一体どうしたのかな? まるで、うがい薬がなくて、とりあえず化学室になら消毒液あるかなって顔をしているよ」


「久しぶりって、昨日会ったじゃん。てか、晩飯も一緒に食べたじゃん。後、ビーカーじゃなくて、普通のコップで作ってよ。てか、人の行動読むのやめてくれない? 心臓に悪いんだけど……」


「今日はお昼を一緒に食べてくれなかったくせに……こっちの方が雰囲気出るんだけどなぁ……君は私の演出を無駄にするねぇ。まあ、いいさ。光栄なことに君は私の実験対象だからね。研究者たるもの観察対象はなんでもお見通しなのさ」


「いやいや、だって、ビーカーでコーヒーとか絵面最悪だよ。漫画のキャラかよ。それに、なんかお腹壊しそうじゃん」


「失礼な。ちゃんと殺菌消毒はしているし、君がいつも部活で飲んでいる、マネージャーが使い古しの容器で作ったポカリよりは清潔なはずだよ」








 そう言うと彼女は不満そうにつぶやきながら、ビーカーを片付けて、二つのコーヒーカップを取り出した。そして、アルコールランプの火を消して、電気給湯器のスイッチを押す。彼女はどうもミステリアスな自分を演出する癖があるのだ。ちゃんとつっ込めば、なおしてくれるからいいんだけど……それと同時に、彼女のお手製のクッキーまで出てきた。ちょうど最近食べてないから食べたいなって思ってたんだけど、俺の思考読みすぎじゃない? いくら幼馴染だからってさ。








「どうしたんだい、手品師にでも化かされたような顔をして?」


「いやぁ、理香は俺の事をなんでもわかるなって思って。今のクッキーもそうだけど、俺がこの部屋に来た理由もすぐ当てたじゃん」








 俺の言葉に彼女は飄々とした表情に意地の悪い笑みを浮かべて言った。ちょっと嬉しそうなのは俺をからかえるからだろう。








「そりゃあ、大和は私の初めての観察対象だからね。君の事は大抵わかるさ。君のような臆病者はマスメディアにすぐ踊らされるからね、どうせネットの情報を鵜呑みにしたんだろう?」


「うう……」


「まったくもって嘆かわしい。人間は考える葦なんだよ、自分で考えて行動をした方をしたまえ。だいたい、一時的に口内を殺菌するくらいで画期的な効果はないくらい高校生でもわかるだろう」








 まさしくその通りなので、俺は何も反論できずに押し黙った。正論すぎるぜ……しゃべらなくなった俺をからかうように笑ってから、彼女は俺にスマホの充電器を渡していった。








「今日は確か部活ないはずだよね、どうせ暇なんだろ? ここでソシャゲしてていいから私の実験が終わるまで待ってくれないかな?」


「まあ、いいけど……あー、そういや、今日は俺の料理当番だよな。ついでに一緒に買い物に行こう。理香は何が食べたい?」


「うーん、大和がつくるものならば何でもいいよ」


「それが一番困るんだよなぁ……」








 彼女の言う通り今日は暇である。だから、学校が終わると同時に、うがい薬を買いに行こうとしたくらいである。俺はソシャゲを起動しながら、何やらよくわからない実験をしている理香を眺めていた。


 彼女と俺は幼馴染だ。それ以上でもそれ以下でもない。まあ、思春期まっさかりの高校二年生で、男女でありながら、良好な関係を築けているといのは中々稀有かもしれない。お互いの両親が共働きな事もあって、それぞれの家を気軽に行き来するという習慣があったのも関係性を維持できている理由の一つかもしれない。そうでもなければ良くも悪くも有名な彼女と俺が一緒いる事はなかっただろう。





 俺は自分で言うのもあれだが、平凡な高校生だ。バスケ部に所属はしておりレギュラーではあるが、別に高校自体は強豪でもないし、成績も普通だ。対して、彼女は成績優秀な上に美人である。多少人間嫌いなところがあるため、友達は少ないが、まったくいないわけではない。むしろ、それがミステリアスな雰囲気を強調しているのか、一部の男子生徒には非常に人気である。現に彼女が「また、告白された。めんどくさい」とぼやいているのを、一か月に一度は聞いている。


 恋愛自体に興味がないのか、難攻不落と言われている彼女と、俺なら付き合えるなどと言ってくる友人もいるが、見当違いだろう。彼女はおそらく俺を家族のように思っているだけだ。


 俺の気持ち? まあ、俺は彼女の事が好きなんだけどさ……例えば、何かに一生懸命になっている彼女は素敵だ。今も、何やら作業をしている彼女の瞳は探求心にあふれていて、とても美しい。例えば、ミステリアスなどと言われている彼女が、意外と抜けているところもあるのも魅力的だ。ギャップ萌えというやつだろう。こいつはイレギュラーがおきるとすぐパニくるからな。そこが可愛らしい。俺しか知らないかもしれないけれど、意外と努力家な所も素敵だ。俺は彼女が才能だけで成績上位をキープしているわけではないのを知っている。まあ、他にも色々あるけれど、彼女の魅力にはキリがない。


 だけど……だからこそ俺は彼女に告白をしない。慎重な俺からすればまだまだ俺のレベルも彼女の俺への好感度も足りないのだ。そんなこと考え事をしていたらソシャゲの敵に負けてしまった。








「あ、やっべ。全滅した」


「何をやっているんだ君は。ちょっと貸したまえ。真銀斬は全てを解決するんだ」


「いや、そうはならないだろ。真銀斬はお前のなんなの? 信用しすぎじゃない?」


「ほらみたまえ、なってるじゃないか」








 そう言って彼女が得意げにスマホの画面をみせると本当に解決していた。すげえな、真銀斬。ボスキャラが紙クズのように引き裂かれていくんだけど……ゲームバランスおかしくない? すると、スマホがピコンとなりラインの通知を教えてくれた。彼女はあわてて俺にスマホを返す。その時に、彼女が一瞬スマホをみて、複雑な顔を浮かべていたのを俺は見逃さなかった。どうしたんだろうね?








「ああ、ごめん。別にラインを見る気はなかったんだ。でも、女の子か……マネージャーさんかな?」


「まあな、てか、女性のラインなんて数人しか入ってないからね」


「ふーん……数人は入ってるんだね。私は男性のラインなんて大和と父くらいしか入っていないけど……」








 そう言うと、理香は興味を失ったのかつまらなそうな顔をして、また実験に戻ってしまった。まあ、俺の女性関係なんて興味はないんだろう。それに俺も女性の連絡先が入っているといえ、理香に、部活のマネージャー、付き合いでライン交換したクラスの女子に母親くらいである。大差はない。








「それで……マネージャーさんにラインを返さなくていいのかい? 部活の連絡事項なんだろう?」


「いや、大丈夫。プライベートな内容だから」





 彼女はなにやら機材をいじりながら話しかけてきた。こちらに背を向けているので顔は見えない。








「へぇー、プライベートな内容を話す関係なんだね?」


「ああ、今日の昼休みに告られた。これは返事はいつまでも待つっていうラインだな。でも、なるべく早く返事しないと失礼だよなぁ」


「はぁ!?」


「おい、大丈夫か?」








 理香の叫び声と同時に、彼女の持っていたビーカーが手から離れ、そのまま地面に落下して割れた。あっぶないな。何をしているんだよ。俺は慌ててロッカーから箒とちりとりを取り出してガラス片を片付ける。その間、理香は壊れたロボットの様にぶつぶつと何かをつぶやいていた。本当に大丈夫か?








「ああ、ごめん、観察対象の大和の予想外の言葉にフリーズしていたようだ。掃除をしてくれてありがとう。それで告白って言うのは……君は彼女にどんな罪を冒されたんだい? まさか、普段のポカリに雑巾のしぼり汁をいれていた告白されたとか?」


「告白ってそっちの告白じゃねーよ、愛の告白だよ!! どんな状況で高校生が罪の告白をされるんだよ!! 俺はどんだけ恨まれてんの?」


「だって、君はあれじゃないか!! 高校デビューだかなんだか知らないけど、髪の毛を緑色に染めて、「〇〇なのだよ」とか言いながらひたすら部活でスリーポイントシュートを撃っていたじゃないか!! そんなやつを好きになるやつ何て人生で一人くらいしか現れないだろう!!」


「俺の黒歴史を暴露するのやめてくれない? まあ、その子は一年生だから、俺のその話を冗談だと思っている可能性はあるけれど……」








 そう、俺は中学の時にバスケ部ということもあり、黒子のバスケという漫画にはまっていて高校デビューでついやらかしてしまったのだ。だって、どこからでも3ポイント撃つのかっこよくない? 憧れるよな。


 幸い高校の部活でも、あほなやつって感じで笑われるだけで済み、部内でも浮くことはなかったし、無駄にスリーポイントの練習をしていたから、成功率は上がったのでレギュラーにはなれた。てか、俺のことを好きな人一人いるのかよ。誰だよ。教えてよ。理香だったりしないかな?


 それにしても、彼女は昔から想定外の事に弱いなと思う。今もなにやらすごい動揺しているようだ。まあ、俺も告白されたのはじめてだから動揺しているんだけどな。








「それで……どうするんだい?」


「どうするって……?」


「決まっているだろう、告白を受けるのか、受けないのかって話だよ。その子はどんな子なのかな?」


「あー……そうだよな……いい子なんだよな。まあ、嫌いなタイプじゃないし」


「ふーん、君の事だ。どうせ相手は黒髪ロングで、ミステリアスな感じの女の子なんだろう? そんな子がタイプっていってたもんな」


「いや、それ言ったの小学生の時の話じゃねーか……その子は茶髪でボーイッシュな子だよ」


「え……今は好きなタイプが違うのか……どうしよう……予定外だ……」








 俺の言葉になぜか、理香は動揺してぼそぼそとつぶやいている。さっきからどうしたんだ? 俺が告白されたのがそんなに予想外だったのだろうか? ちなみに今の俺はリゼロのエキドナみたいな子がタイプです。まあ、銀髪の女の子が学校にいたら普通に逃げるけど。


 それはさておきだ。正直告白されたことはすごい嬉しい。俺の様な慎重さだけが取り柄な男をすきになってくれたのも嬉しいし、「え? これってどっきりじゃない? まじなの?」って10秒に1回くらい言ってたのも「先輩らしくていいですね」って笑ってくれたのだ。あの子は本当にいい子だ。








「でもさ、付き合ったら、理香とこんな風には過ごせないし、お互いの家にもいけないよな……」


「当たり前だろう!! 彼女がいるというのに、うちに来てみろ!! 消毒液をぶっかけるぞ」


「ばい菌扱いじゃねーかよ!! でも、そうだよな……そうなんだよな……当たり前だけど……」








 理香がすごい目で俺を睨みつける。こんな彼女の顔をみるのは初めてである。普段みるのは余裕そうな飄々とした顔か、イレギュラーがおきて、てんぱっている顔である。だから、こんな状況だというのに、彼女の新しい一面をみれて少し嬉しくなってしまった。それと同時に俺は自分の気持ちを再確認してしまう。


 結局俺が引っかかっているのはそこである。幼馴染という関係もこれがきっかけで疎遠になる可能性があるのだ。正直さ、告白してくれた子は悪い子ではない。むしろいい子だ。付き合ったら絶対楽しいはずなのだ。でも、なぜか付き合おうとは思わない。その理由を俺はもう知っている。








「理香はさ、なんで告白されても断ってるんだ?」


「質問を質問で返すなって言われなかったかい? まあ、答えてあげよう。私の場合は、相手に興味がわかなかったからだね。興味がない相手と一緒にいても退屈だし、観察のしがいもないだろう?」


「でもさ、かかわっていくうちに興味がわくかもしれなくない?」


「ありえないね、私の観察対象は大和ってきまっているからね」








 俺の言葉に彼女はいつもの飄々とした顔で即答した。でもさ、目の錯覚じゃなければ、少し顔が赤くなっていない? というか、興味のないやつは観察しないってことは……俺を観察対象として観察しているっていう事は、俺には興味があるって事ではないだろうか?


  え、こいつ俺の事好きなの? 両想いじゃん。告白しよう!! とはならない。俺は誰よりも慎重な男だ。こいつがからかっている可能性もあるし、そもそも家族として興味があるっていう事かもしれない。そもそも、こいつが俺を観察対象とか言い出したのは小学生の頃だしな。








「それで……大和はどうするんだい?」








 二度目の質問である。しかも今度は目で逃がさないからなと、ちょっと不機嫌そうな、でも何かにすがるように訴えてきている。もちろん答えは決まっているわけで……うがい薬を探すと決めた時も、わざわざドラックストアをはしごしないで、真っ先にこいつがいるであろう化学室に行った時点で、俺の答え何て決まっているのだ。ようは俺は彼女に相談して自分の気持ちに整理をつけたかったのだ。うがい薬を探すというのはその言い訳にすぎない。








「あー、まあ、断ろうと思うよ」


「へぇー、それはなんでだい? さっきの君の口ぶりだと、その子の事が嫌いってわけじゃないんだろう?」


「まあ、それはさ……」








 理香の事が好きだから……などとは言えない。一歩進む? 慎重な俺にはそんなことはできない。常に安全策をとってきた俺は、ここでも一歩踏み出すことができないのだ。俺が言いよどんでいると、理香は先ほどまでの狼狽した顔が嘘のように、飄々とした顔で言った。








「大和が悩むとなると、その子と別れたらどうしようとか、私との関係が変わるのが嫌とかかな……ああ、それとも、その子の他に好きな人がいるって感じかな?」








 理香はやたら最後だけを強調して言った。目線をそらそうにも、彼女の視線がそれを許さない。なんだろう、この将棋やチェスで詰められている感じは……俺は言いようのないプレッシャーに押され、返せた言葉はなんとも情けないものだった。








「そういう理香は好きな人がいるのかよ!?」


「質問を質問で返すなって言ったろう? 私に好きな人ね……まあ、興味深いなって思っている人はいるよ。そいつは昔から、私がへこんだ時も、元気な時もいつも一緒にいてくれるんだ。ちょっと……いや、かなりへたれで臆病だけど、変わっている私に飽きずに、ずっといてくれているいいやつなんだよ。そいつがいない人生なんて私には考えられないのさ。それで、君に好きな人はいるのかな?」


「ふーん、そいつはずいぶんと変わったやつだな。俺の好きな人ね……」








 彼女はまるで思い出を噛み締めるかのように、はにかみながら言った。そして視線で、俺が何かを言うのを待っているかのように訴えてきた。彼女の昔からいる異性となると俺くらいではないだろうか? え、これって俺の事? いやいや、まてまて。俺は慎重な男。ここで勇み足になるのは愚か者の事だろう。だから俺は……








「話は変わるけど、次のイベントのガチャは回した方がいいかな?」


「話を変えるな!! 今のはこうもっと違う話をする場だっただろう!! だからチキンハートってバカにされるんだよ」








 逃げようとしたらすごい勢いで回り込まれた。知ってるか、幼馴染からは逃げられない!! 彼女は不機嫌そうに、そして、少し涙目で俺をにらみつけている。いや、そうかなって思ったけどさ、これが勘違いだったら恥ずかしいし、仮に告白して、成功してもさ、付き合ってもうまくいくかわからないんだよ。だったらこのままでもいいじゃないかって一瞬思ってしまったのだ。


 ああ、わかっている。俺は本当は慎重なわけではない、臆病な男なのだ。この関係が変わってしまうのが恐ろしいのだ。


 でも、彼女の言う通りだ。俺はよくみると震えている彼女を見て思う。不安な気持ちを必死におし隠している彼女を見て思う。俺も、いつまでも逃げてばかりじゃいけないよな。彼女がこんなにも勇気を出して、おぜん立てをしてくれたのだ。彼女が欲しい言葉くらい、いくら俺でもわかるさ。だって俺は彼女の事が好きで……怖いけれど関係が変わるのを望んでいるのだから……だから俺はついに、一歩進むことにする。








「ああ、俺は理香が好きだ。付き合ってくれないだろうか?」


「ふふ、仕方ないなぁ、そこまで言うなら付き合ってあげよう」








 俺の言葉に彼女は満足そうにうなづいて答えた。その表情はいつものように飄々としていたけれど、いつもと違って顔はりんごのように真っ赤だった。そうして俺達はつきあうことになった。

















 幼馴染としての関係が長かったせいか、未だに実感がわいていないだけなのか、俺達の関係はあまり変わっていない。あのあと、夕食の買い物に一緒に行ったのだが、特に色っぽい話をするわけでもなかった。ただ変わったのは、俺と彼女の手がつながれているくらいだろうか。彼女の暖かさが、かろうじで俺達が付き合っているんだなぁと実感させてくれている。まあ、いきなりは変わらないよな。てか、俺は好きって言ったけど、彼女に好きとは言われてないんだよな、などと思いながら、理香の家に着くとたまたま、理香のお母さんに出会った。








「母さん……何でいるんだ……」


「ああ、忘れものをしちゃったのよ。それにしてもずいぶん仲良くなったのね」








 理香のお母さんの視線が俺と理香をのつながれた手に注がれている。幸いにも、にやにやと笑っているだけで、悪い感情は抱かれていないようだ。とりあえず、報告はすべきだろう。








「あの……理香さんとお付き合いをさせてもらうことになりました。改めてよろしくお願いします」


「あらあら、やっと付き合えたのね。よかったわね、理香。あなたは大和君が好きなタイプだからって、ミステリアスな女の子になるって、変な事をはじめたり、中学だけじゃなくて、高校でも、制服姿に白衣を着始めた時は頭がおかしくなったのかって心配したのよ。髪の毛だって必死に伸ばしてるし」


「母さんそのことはいいから!! 仕事なんだろ。早く行って!!」


「あらあらいいじゃない。大和君観察ノートも見せてあげたら? この子ったら家ではいつも大和君のことばかり話していて、ノートにも色々書いているのよ」


「だぁぁぁ!! いいから早く仕事に行いきたまえよ!! 大和も何をにやにやしているんだ。早く家に入って料理の準備をしてくれ、せっかく買った食材がだめになるだろう?」








 顔を真っ赤にしている理香をみて俺が微笑ましいきもちでみていると、大声で家に追いやられてしまった。どうやら俺の心配は杞憂だったらしい。見慣れた洗面台で手洗いをして、ついでにうがいをする。もちろんうがい薬も忘れない。


 俺が洗面台から出ると理香と目が合った。まだ恥ずかしいのか顔は真っ赤である。いつもの飄々とした顔はどこにいったやら……








「なんだい、人の顔をみてにやにやして、何か言いたいならいえばいいだろう?」


「いや、お前が本当に俺の事好きだったんだなって思ってびっくりしているんだよ……」


「本気で気づいてなかったのか……これでも、昔から精一杯アピールしていたつもりだったんだが……まさか、まだ、私が本気でじゃないとか思ってないだろうな?」


「いや、それはないけど……でも好きって言って欲しいなぁとは思ったり……」


「めんどくさい女の子か!! ちょっと顔を貸したまえ」








 俺の言葉に、彼女は顔を真っ赤にしながらため息をついた。そしてこっちにこいとばかりにネクタイを引っ張りやがる。すると、彼女の顔が近づいたと思うと、唇に何かを押し付けられた。








「うげぇ、うがい薬の味がする……これで、言葉にしなくてもこれでわかるだろう?」








 そう言って彼女は顔を真っ赤にしながら洗面台へと逃げて行った。俺はきょとんとしながらも、唇に残る彼女の感触を思い出すかのように唇を撫でる、俺達のファーストキスの味はうがい薬の味だった。





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うがい薬が売ってねー!! って叫んでいたら、美人なひねくれ系幼馴染と付き合うことになったんだけど~ひねくれ系彼女に女の子に告白されたって言ったら理詰めで告白させようとしてくる件について~ 高野 ケイ @zerosaki1011

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