第15話 バイトで正義の味方ー2
「もう私驚かないよ。清ちゃんがどんな格好で来ようが何も言わないからね」
「清人はジャンケンで勝ってレッドになったんだぜ? 素直にレッドで来るだろ」
「お前らは清人を甘く見すぎだ。あいつは常識人を気取ってるが、実は一番ぶっ壊れてるからな」
突然風を切る音と共に塔から無数の何かが飛んでくる。たいしたスピードでは無い為に避けるのは容易だった。
「うわっ! いてっ! なんだこれ」
アポカリプスの隊員達が慌て始めた。
私は飛んでくる物体を確認したと同時に耳を塞ぐ。そして飛んできた無数の物体から破裂音がなった。
最初敵の攻撃かと思ったが違ったようだ。飛んできたのは……ただのロケット花火だ。
「流星と共に登場! 天の川より現れし流星の魔法戦士、ドリームリバー!」
目元だけ隠れる仮面と青いマントを羽織った謎のヒーローが地上に降り立った。
「清ちゃん番組間違えてるよ! せめてレジェンドヒーローは統一しようよ! ドリームリバーって名前の直訳じゃん! 速攻正体バレちゃうからああ!」
「ぷふっ、あいつバカだ。流星と共にって、ただのロケット花火だし」
「なんだそんなもんか」
「ああ、もう終わった」
最後の台詞を言い残し、グリーンは地面に手をついた。
ふざけた格好をした奴らだけど、特攻部隊を壊滅させたのがこいつらだったのなら、隊員共に気を抜かせてはいけない。いや、こいつらで間違いないだろう。考えてみれば、あの高さから飛び降りて平気で立ち上がるような奴らだ。本来それだけで異常だと言える。
それにしても、まともな思考回路をした人間はグリーンとピンクの二人しかいないのか。
「うぅ、みんなずるいよ! そうやっていつも私を仲間はずれにする! 最初から言ってくれれば私もやったのに!」
訂正、残念なことにまともなのはグリーンだけだったらしい。
「興ざめだよ。私もう帰る……もしくはこのスーツは実は豚の毛皮だったっていう設定にして、ピンクじゃなくてレジェンドピッグとしてやり直す」
「お前何言ってんの?」
今度はさっきまでふざけていた三人がピンクに対して冷たく返す。何を言っているのかわからないことについては同感だ。
私の経験則からすると、あんな風にふざけた奴らに限って理不尽なな実力を持ってることが多い。最悪の場合、破滅の魔女としての力“コロナ”を使わざるを得なくなるだろう。
まずはアポカリプスの隊員を使ってお手並み拝見といこう。
「気づいたら敵に囲まれてる……だと?」
「勇輝先輩、それ最初からだよ。知っててこの場所に飛び降りたでしょ」
「おふざけは終わりにしよう。俺様達には金が必要なんだ。仕事をするぞ」
「お金が必要なのはみっちゃんだけでしょ。元々このバイトを引き受けたのも、みっちゃんなんだからね」
五人を分散させることには容易に成功した。一カ所に固まられて、背中合わせに四方の死角を無くす陣型をとれなくする為だ。
数の上ではアポカリプスの方が圧倒的に勝っている。そのアドバンテージをいかして四人それぞれを数で押していく。
この戦いにおいてはアポカリプスとジェースリーのどちらが勝っても、私にとっては好都合。私は今回アポカリプスを目的の為に利用しているにすぎない。
どちらの戦力もできるだけ減らしておきたい。ただ、この支部だけは確実に潰さなければならない。
「四方から全力で潰しに行きなさい!」
私の号令でアポカリプスの隊員が、一斉にジェースリーのヒーロー達へ襲いかかった。
隊員の一人一人が思い思いに大声を張り上げている為、空気が揺れるだけでなく地響きまでする。
流石にこの人数ではアポカリプスの圧勝だろうか。私でも魔女の力を使わなければ、この場から逃げ回ることしかできないかもしれない。
「ああ! 貯金おろしに行くの忘れてましたああ!」
レジェンドグリーンはアポカリプスの隊員達の数と勢いに圧倒され、颯爽と逃走した。
状況から考えると逃げるっていう選択肢は間違ってはいない行動だけど、数の違いくらい最初からわかっているんだから、逃走するなら最初から来るなよ。
仮にもヒーローなんだからバイトより先に逃げるのは許されないでしょ。それに……なんて酷い言い訳なんだ。
標的をグリーンにしていたアポカリプスの隊員達は、グリーンのマヌケな逃走に数秒目を点にしていたが、最初からグリーンなんていなかったかのように他のヒーローに向かっていった。
「うわー、僕だけ相手にする敵の量が倍なんですけど。レジェンドヒーローでない僕に対してのイジメなんだね」
「そんなこと言ったって、グリーンが逃げちゃったから我慢しないと。戦力的にもちょうどいい配分なんじゃない?」
「それって、僕だけが我慢する必要あるの? 配分にしても僕なんかよりも先輩たちの方が強いでしょ」
「ほら出たよ。清ちゃんの一般人アピール。一番壊れた性能してるくせに」
グリーンの代わりとなって、魔法戦士ドリームリバーは倍の量を相手にすることになった。文句を言ってはいるが、全く焦っているようには見えない。
未だに武器すら構えず素手で戦っていることから、超接近タイプの格闘を得意としているヒーローなのだと推測できる。動きに隙が無く、一人につき一度の攻撃で急所を狙い、確実に相手を気絶させていた。
レジェンドピンクは華奢な体と色に似合わず漆黒の大鎌型のAP装置で、隊員達を次々になぎ払う。
目測で全長三メートル以上の大鎌の先が、隊員の腹部に食い込み、建物の壁に向かって吹き飛ばす。
隊員は気絶してしまったが、腹部から血が出ることは無かった。殺傷能力の低いAP装置を使っているようだ。悪の組織を相手にしているにもかかわらず余裕があるらしい。
アポカリプス側にも鎌型のAP装置を扱う者はいるが、レジェンドピンクと比べると半分くらいの大きさだ。
本来それが普通なのであり、レジェンドピンクの方が異常だった。
AP装置の出力を上げれば上げるほどAPの消費量は増え、コントロールが困難になる。通常の二倍の出力を維持し続けているということは、APの量とコントロールに並ならぬ自信があるのだろう。
レジェンドピンクは武器の扱いも洗練されていて、間合いに入れば確実に刈られてしまう。なによりも大鎌の間合いが広すぎる。
「レジェンドXキーック!」
私がレジェンドピンクの戦いを見ていると、レインボーXが割り込むようにレジェンドピンクの間合いにいた隊員の顔面に飛び蹴りを食らわせた。
「
そしてこの場にいる者全員に主張するかのように大声で、決め台詞? を言い放った。
「勇ちゃん……今のは私の獲物なんだから勝手に倒さないでよ。それに決め台詞を言うには早すぎるくらい敵が残ってるんですけど……」
「ごめん悪かった。急に目立ちたい衝動が襲いかかってきて、三秒くらい我慢したけど押さえ切れなかった」
「そっか、それならしょうがないね」
いったいどこの何がしょうがないんだろうか。今の心理状態のどこに納得できる点があったと言うんだ。
やっぱりこいつらとち狂っている。いろんな意味で相手にするのが怖くなってきた。
私が今の面倒な状況に頭を抱えていると、突然APの強力な波動を感じる。すぐに波動を感じた方向に体を向かせて、発動される能力に構えた。
次の瞬間、魔法戦士ドリームリバーを中心にして周囲を囲んでいた隊員達が、爆発音と共に四方に吹き飛んだ。
私は意識を集中させて今の能力を分析する。
物体を動かすタイプの能力だろうか、それとも爆発を起こすタイプか……今のだけじゃよくわからなかったが、接近するのは危険だ。
他の二人も能力者である可能性がある。注意しておこう。
「君らが渡るのは天の川でも三途の川でもない……夢の川だ!」
なんなのよ夢の川って、三途の川を渡るよりは遥かにマシな気がするんだけど。
「ほらー、勇ちゃんが調子に乗るから清ちゃんも真似しちゃったじゃん。でも清ちゃんのそういうところ可愛いよね」
「なん……だと……っ! 清人の奴、この期に及んでまだ目立ちたいと言うのか! てか今日の清人、いつもより弾けてるな」
「お前らふざけんなよ。この流れは俺様まで何か決め台詞言わなきゃいけない流れじゃねえか。これ以上何も用意してねえよ」
奴らはふざけてはいるが、ジェースリーの支部を守るのには成功している。アポカリプスの戦力を減らす為に利用していたが、殺す気が無いのなら意味が無い。
これから私達魔女の邪魔になる可能性があるこいつらは確実に消さなければならない。
面倒になった。いっそのこと、アポカリプスの隊員を含めてこの場にいる全ての生命に破滅を与えてしまえばいい。最初からそうすればよかった。
魔女の持つ理外の力を見せてあげよう。
「……コロナ」
私の手から、金色に光る破滅の炎がアポカリプスの隊員を巻き込んで扇状にジェースリーのヒーロー共へ伸びていく。
レジェンドゼブラ以外の三人からAPの波動を感じた。能力で私のコロナを防ぐつもりらしい。
馬鹿ね……魔女の力がAP能力なんかでどうにかできる訳無い。あなた達は自分の慢心で死ぬことになるんだ。
「……っ!」
私はヒーローが破滅するのを確信していたが、レジェンドゼブラが動き出した。
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