第13話 学校生活ー7

 部活のメンバーは僕を含めて五人しかいないにもかかわらず、一人一人が強い個性を持っている。


 部室は旧校舎の元図書室を先輩たちで改造して作ったらしい。


 ちなみに旧校舎には僕らの部室しか無いから、旧校舎自体が部室みたいなものになっている。


 部室は旧校舎の入り口から見て一番遠い場所にあり、毎回長い廊下を歩く必要があった。床がきしむ音を奏でながら部室へ歩いて行く。


 部室の前に着くと最初にOTAKと大きく書かれた看板が目に入る。


 学校の生徒達に通称でオタク部と呼ばれているこの部活が、僕の所属する部活なんだ。


 OTAKのことをオタクと呼んでいるだけであって、オタクという言葉に他意は無い。



 O、俺様達の武勇伝でも語りながら

 T、適度に自由と暇を持て余しつつ

 A、AP又はそれに関する謎に注目し

 K、究明していく部活的な何か



 ……だそうだ。


 僕を除いた四人の部員が勝手に決めた部名である。僕の力ではあの変人どもを止めることが出来なかった。


 今のところ主な活動内容は、誰も受けたがらないような依頼をギルドから貰ってきてそれをこなし、その高難易度の依頼をを達成したのは僕たちでしたーってギルドにいる連中に自慢しに行くことだ。


 ただの迷惑なうざったい集団だった。


 もちろんみんな覆面をかぶり正体はばれないようにしている。


 僕がこの部活に入った理由は部長に勧誘されたからだ。


「どうしたの清ちゃん? ドアの前でぼーとしちゃって……はっ、まさか! 今から部室を壊そうとしてるな! そんなの私は絶対に許さないぞ!」


「……香奈さんは今日も絶好調だね」


 部室のドアを前にして、後ろから部員その一が現れた。彼女は源流剣高校の生徒会の会長にあたる人物だ。名前は千堂香奈せんどうかな


 肩にかかるくらいの長さの赤髪に、いつも寝癖をつけている。少しだけ垂れ目で、常に眠たそうに見える。


 僕と模擬戦闘大会のグループになった三人には劣るが、美人であることは間違いない。


 好奇心旺盛で天真爛漫で、この学校において自由を象徴するかのような人物だ。


「つまり清ちゃんはOTAK部を潰そうとしてるんだね?」


 いや、そんな輝きを放った顔で言われても……何がつまりなのか全然わかんないんだけど。


「そんなの常日頃から思ってる」


 僕の返事に香奈さんは自分でガーンと言い、ショックを受けた表情で涙目になりながら部室に飛び込んでいった。面倒だなぁ、と思いつつ僕も香奈さんに続いて部室に入ろうとした。


 だが……、


「何やってんの?」


「OTAK部を潰そうとしている奴を部室に簡単に入れる訳にはいかない」


 部員その二が現れた。また変なのが出てきたよ。


「ここを通りたければ俺を倒していけ」


「それでもかまわないけど、この部室で戦っては駄目みたいだよ……死んだ姉が言ってた」


「嘘つくなよ最初から姉なんかお前にいないだろ」


 僕はこの風紀委員長が少し苦手だ。僕を見つけるとすぐに勝負を挑んでくるからだ。以前僕の大事にしていた本『怪盗ラットの冒険』を冗談で燃やされたことがあった。いや冗談ではなかったのだが。


 その折に半殺しにしてあそんであげたら、それ以降リベンジだと言って突っかかってくるようになった。表向きだとこの人が源流剣高校において最強の生徒ということになっていて、風紀委員長であると同時にOTAKの副部長をしている。


 名前は、橘勇輝たちばなゆうき


 自然の色では珍しい灰色の髪は、手入れがされていない為に、あっちこっちに跳ねている。


 産まれた時の髪の色は基本的に黒髪だが、成長していくにつれてAPの影響を受け変化していくのが普通だ。それでも灰色の髪は珍しい。


「別にいいんだけどさ……俺は一応君の先輩だぜ? 敬語使えよ」


「別にいいのなら、使わないでおくよ」


「じゃあ敬語使え」


「嫌でーす」


 僕はOTAKの部員には先輩であろうが敬語なんてものを使わない。


 この部の部員は全員が学校生活において何かしらの理由で本当の実力を隠してる。そのことを部員全員がお互いに知っているから、自分を偽る必要は無い。


 だから僕はここの部員に敬語を使わないんだ……というわけでは無く、ただここの変人共に敬語を使いたく無いだけなんだけどさ。


「お前とは決着をつけないといけないみたいだな……って、俺の話を聞け!」


 勇輝先輩がまだ何か言っているようだったけど、気にせず僕は部室に入り、ソファーに腰を降ろしてくつろいだ。


「今から潰そうとしている部室のソファーでくつろぐだなんて……これが王者の余裕ってやつなの! 勇ちゃん、これが清ちゃんの本当の姿なんだね!」


「悪いけど香奈、俺にもお前が何を言っているのか全然わからない……怖いんだけど」


「勇ちゃんの裏切り者!」


 何この茶番。いつものことだけど楽しそうだ。


 そもそも僕は本気でこの部活を潰そうだなんて思って無い。OTAKが無くなれば、僕だって困るんだ。


「ろくな活動もしていないのに、この部活はどうして存続出来てるんだろう」


 僕が単純な疑問を口に出してみると、香奈さんと勇輝先輩は一瞬きょとんとして、不思議なものを見るような目で僕を見た。


「いや、だって私は生徒会長だよ? ある程度のことはもみ消せるんだよ?」


「知らないのか? 風紀委員長とは率先して風紀を乱す者のことを示すんだぜ? つまり……そういうことだ」


「君らは一度死んだ方が世の中の為になると思うんだ、僕は」


 駄目だこいつら……早くなんとかしないと。それに勇輝先輩に聞きたい。つまり……どういうこと?


 まあ、でもこの部活が謎に存続出来ている理由だけは十分に理解出来た。


「ところで、清ちゃんが怪盗始めたって本当?」


「何言ってんの?」


 秘密ばれるの早すぎだろ。昨日と今日の間に何があったんだよ。この調子だとこの先隠し通せる気がしないんだけど。


「昨日みっちゃんが言ってたよ。清人は怪盗で忙しいから今日はこないだろうって」


 香奈さんの言うみっちゃんとはOTAK部の部長である仙蓮寺帝せんれんじみかどのことである。


 部長の能力の詳細はわからないが、どこで誰が何をしているかその場にいなくても把握することができる。これだけだったらエーテルが持つ魔眼アカシックレコードの下位互換って感じだな。


 エーテルは嘘か本当か知らんが魔女らしいので、能力は規格外でも納得はできる。

 

 部長の能力もそれだけじゃないみたいだけど。


 とりあえず僕の秘密を簡単にばらさないでくれと言いたい。


 部長に隠し通せるとは全く思っていなかったけど、僕が怪盗になったことをわざわざ部員に教える必要ないじゃないか。


「部長はまだ来てないみたいだね」


「帝はいつも社長出勤だからな」


 部長はその日に集まる部員全員がそろったのを確認してから部室に来る。きっと僕らが部室に来るタイミングをあらかじめ把握しているのだろう。


「ねえねえ、どうして清ちゃんは怪盗やってるの? 欲しいものでもあるのかな? 言ってみなー、香奈お姉ちゃんが全部買ってあげるよ!」


「欲しい物なんて無いよ。なんとかくやってるだけ」


「清ちゃんはなんとかくで怪盗始めちゃうのですか!」


 そんな訳無いでしょ、嘘だよ。なんとなくで怪盗をやる奴なんて一生現れるもんか。


 だって怪盗は常に命懸けでやらなければならないのだから、それなりの覚悟が必要なんだよ。まあ僕の場合はただの趣味なのだが。


 この後怪盗について追求してくる人は誰もいなかった。


 ここの部員は基本的に細かいことを気にしない性格の人達ばかりで、色々と心配になることもあるが、僕は意外と助かっている……。


「ジェースリーが最優先で始末する対象となっている七人のことって知ってるか? なんて言ったっけな……」


 ……この人を除いては。


 部長がドアに寄りかかり腕を組んで、偉そうな態度で僕を見下すように立っていた。


 まったくこの人には困ったもんだ。余計なことは言わなくていいと常日頃いっているのだが。


 勇輝先輩も香奈さんも部長の言葉にに耳を傾けてしまっている。完全に部長のペースを作られてしまった。


 七人の魔女の一人であるエーテルの所在を知っていながら黙っている行為は重罪だ。他所の家の宝を盗んできた身としては今さらだが、魔女とのことを話されるのはまずい。


 こうなってしまったら余計なことを言われる前に力づくで口を封じる必要がある。


「俺様が何を言いたいかって? そんなこと決まっているだろう」


 僕は気づかれないように、制服の内側に隠している剣型のAP装置にAPを流す準備をする。僕にとって不都合なことを言い出した瞬間に突きを放つつもりだ。気絶させるくらいなら問題ない。


 何を言うつもりだろうか……。


「今からバイト手伝ってくれないか?」


「……はあ?」


 先に部室に来ていた僕達三人の声がハモった。

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