第10話 学校生活ー4
模擬戦闘大会が始まったら、僕が何もせずとも女性陣三人が他のグループを蹴散らしていくのだろう。僕の出る幕はあるのだろうか。
正晴のチームと戦うことになったら僕らのグループでも勝てないかもしれない。
「清人は今日部活には寄るのか?」
「もちろん。昨日は休んでしまったからね。今日出なかったら部長に怒られるよ」
「そっか、じゃあ今日は一緒に帰れないな」
「正晴は今日部活無いのかい?」
「まあな。お前も今日一日大変だろうががんばれよ」
僕と正晴は部活が終わる時間が近い為に、一緒に帰ることが多い。帰り道も途中まで同じなんだ。
訓練所近くになったので正晴とは別れた。正晴も別の訓練所に向かったようだ。
「先輩! 最初は何をしましょうか?」
指定された訓練所に入ると、準備運動をしながら柚美ちゃんは僕に指示を求めた。
「それは時音先輩に聞くべきだろう。一番役に立たない僕が決めるわけにもいかないよ」
「それもそうですね。時音さん、どうしますか?」
「全く否定してくれないんだね。確かに事実なんだけどさ」
何をするにしてもまずはお互いの実力をある程度把握しておく必要がある。お互いに実力を把握する為には実際に戦ってみるのが一番だろう。
「そうだな……実際にこのメンバーで模擬戦闘を行うのがいいか。では二人ずつで分かれて二チームを作ろうか」
今回はどのAP装置を使ってやろうかな。一番得意なのは剣型なんだけど、槍型や銃型など広く知られている武器なら一通り扱える。
最高の戦闘スタイルってやつは状況に合わせてどんな武器でもどんな間合いでも自由に戦えることをいう。
特に一匹狼な怪盗なんかは一人で何でも出来なければならない。助けなんて求められないのだから。
「もう究極的に壊滅的に悲劇的に仕方が無いので私が先輩と組んであげますよ」
「柚美ちゃんは僕に喧嘩を売る気しか無いようだね。わかった、いいだろう。今から君は僕の敵だ」
「ちょうど良かったわ。私も柚美ちゃんとは戦ってみたかったの。清人、一緒に組むわよ」
「おお、同志がここにいてくれたか。今日の僕は一味違うよ」
僕は握手をしようと静香に手を差し出す。だが、静香は僕の手を一瞥するとすぐに目を逸らした。
最近静香さん僕に冷たくないか? 今のはいささかショックだったよ? いつだって僕は平然としているけどさ、実はけっこう傷つきやすいんだからね。
「何勝手なこと言ってるんですか。先輩は私と組むんですよ!」
黙れ、君は僕の敵だと言っただろう。
「勝手なことを言っているのはあなたでしょ。それに清人の敵なんだから同じチームになるのはおかしいわ」
「なっ! やっぱりそうですか……静香先輩、あなたは私の敵だったようですね」
どうしてこんなに険悪な雰囲気になっているんだ? 今まで冗談を言い合っていただけだったような……少なくとも僕はそのつもりだったのだけど。
「いいでしょう。格の違いを見せてあげます」
柚美ちゃんは寒気がする程の冷たい目で静香を見やる。そしてステージの反対側へ離れて行った。
僕は棄権してもいいのかな? 嫌だよ、この状況で模擬戦闘とか。二人とも怖いし。
どこで間違ってしまったんだ。さっきまで楽しかったじゃないか。
「これが……空気というやつなのか」
時音先輩が何かぽつりと呟いていたが、今はどうでも良かった。
静香も柚美ちゃんも準備が出来たみたいで、位置についている。
「清人君、私達も行こうか」
「すみません。部活の用事を思い出したので僕は先に失礼します」
僕がこの戦場から逃げることを決意し、出口に向かって走ろうとした時に後ろから襟を掴まれ首がしまった。
「逃がさないよ。それに今は授業中だ。部活の用事なんてあるものか」
逃げられなかった。
柚美ちゃんと静香が向かい合い、僕は時音先輩と向かい合う形となった。
「審判がいないので、このコインが落ちた瞬間スタートとする」
時音先輩は手に持っていたコインを指で弾いた。コインは放物線を描き床に落ちる。
コインが床に着いた時、静香からAPの波動を感じた。これは能力が発動される前兆だ。
能力者が能力を発動しようとするとAPの波動が体から放出される。ある程度訓練すればこの波動を感じることが出来るようになり、能力が発動される前に対策することが出来るようになる。
僕は怪盗ごっこの為の謎の修行中にこれを習得していた。
「エフェクト!」
静香がそう呟いた瞬間、柚美ちゃんがいた場所に氷のタワーが現れた。
そしてそのタワーの中には柚美ちゃんが閉じ込められていて、全く身動きがとれない状態だ。さすが静香さん、容赦ないですね。
「あら、口ほどにも無いわね」
これが静香の能力“氷雪創造”。視界に入る空間なら、どこにでも好きな形で氷を創造することが出来る。
能力の中でも上位のランクに入る強力な力なのだが……もちろん欠点もある。
正確な距離は知らないが静香から遠い場所には氷は出せなく、出していられる氷の量にも限界がある。その為に、氷を出しすぎてしまうと新しい氷を出す為に自分の意志で氷を消さなければならなくなってしまう。
自分が出した氷を消す為にもAPを消費してしまうという難点もある。
「弱者ってのは敵を仕留めた瞬間に隙を作るんですよ」
僕達の後方から声が聞こえ、短刀型のAP装置を構えた柚美ちゃんが常人とは思えないスピードで静香に迫っていた。APによる身体強化を行っているのだろう。
僕はAPの波動によって最初から気づくことができていたが、静香は僕達の後方に移動した柚美ちゃんに直前で気づいたらしい。
静香は慌てて氷の壁を柚美ちゃんとの間に創造した。
「清人君、そっちばかり見てないで私達も始めないか?」
「みんなの実力も見れたことですし、もう終わりでいいじゃないですか」
僕は一汗かいた時のような満足した顔をする。
「私はまだ君の実力を見てないが?」
「見るまでも無いですよ」
どうやら僕の言葉は時音先輩に聞き入れてもらえなかったみたいで、無言で斬りかかってきた。
「APアクセル!」
ちなみに、APアクセルって掛け声は試合でない時は基本的に言わない。
僕は左足を前に出し、相手に対して縦に構える。そして、時音先輩と同じ剣型のAP装置を左手に持ち斬撃を受け止めた。
受け切れなかったら受け流すつもりでいたのだが、思っていたよりもずっと遅くて軽い斬撃だった。時音先輩はなんだかんだいって格下の僕に手を抜いてくれてるのだろうか。
時音先輩は何か腑に落ちない顔で追撃をくりだす。
ぬるすぎる初動だったが、これから強烈な一撃がくるかもしれない。
次に時音先輩は素早く剣を引くことによって僕の体勢を崩そうとしてきた。時音先輩の期待通りに僕は体勢を崩し、右手を地面につける。
僕の視線は地面に向かっているが、AP装置から流れ出るAPの波動で、時音先輩が僕の首の後ろに剣を振り下げているのがわかった。
これは当たったら気絶してしまうのではないだろうか。手を抜いてるのか本気で倒すつもりなのかよくわからないな。
僕は体の柔らかさをいかして無理やり体勢を整える。普段から柔軟体操をしていることが吉と出た。
そのまま僕は低い姿勢のまま足払いをすることによって、時音先輩の体勢を崩すと共に剣の軌道をずらした。
時音先輩は綺麗に受け身をとり、バックステップで僕から距離をとる。
僕は時音先輩と同速度で距離を詰め、突きで手元の剣を弾き飛ばした。
一瞬時音先輩は何が起こったか理解できていないような驚いた表情で手元を確認し、素早く地面に転がった剣型のAP装置を拾い、再び剣を顕現させた。
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