第7話 学校生活-1
僕の家はアパートで、一人暮らしをしている。全部で八部屋あるのだが、僕の住んでいる一部屋を除いた全ての部屋が空いている状態。ちょっといわくつきの地域ってのもあって未だに人が入ったことがないため、住みやすい綺麗な状態は保たれている。
僕の父はちょっとした資産家で、このアパートは父の所有物なのだ。住んでいるのは僕だけなので管理しているのは僕なのだが。
「最初の一月だけだからな。元々人が入ってくれるような地域じゃないから、最初だけはただで住まわせてやる。それ以降は家賃を払わないと問答無用で追い出すからね」
「なんと……この卑しい魔女に部屋まで恵んでくれるとは、さすができる人間は違いますね」
素直でよろしい。
どこからやってきたのか謎だが、住む場所がないという彼女に一室を貸してあげることにした。事情を知ってしまったから公園で寝泊りさせるのも気が引けたってのがある。
まあ魔眼の力とやらで住まいを提供してもらえることまで見えていたのだろう。
彼女はガチャガチャと取っ手を揺らすが扉は開かない。鍵が閉まってるから当然だけど。
「あれ、鍵が開いてないようなのですが。まだ鍵貰ってなかったですね」
「えー、部屋まで取りに行くの面倒だな」
「隣の部屋じゃないですか。これが面倒だったらあなたは外出に向いてないと思いますよ。あなたの自慢の怪盗スキルとやらで今開けてくれてもいいんですけどね」
「……わかったってば」
エーテルのニヤニヤと挑発するような顔が見なくてもわかる。僕は彼女の部屋の前に立つとドアノブを捻り扉を開けた。
「なんで本当に開けられるんですか、気持ち悪い」
エーテルは僕のやった行為に本気で引いている様子で罵ってきた。僕でも傷つくことはあるんだよ?
「僕レベルに怪盗スキルを極めると、ドアの方から勝手に鍵を開けてくるんだよ」
「そんなわけあるか! こんなに簡単に開けられてしまうとセキュリティの方に問題を感じますよ。私ここに住んで平気なんですよね?」
「嫌ならまた公園のベンチで寝泊りするといいよ。僕はそれで何も困らない」
「私こんなに住み心地のよさそうな空間初めて見ましたよ! まるで所有者の清く安らかな性格が体現されているようですね。本当にすばらしいと思います。何が良いって、屋根が付いてるってところが特に良いと思います」
「良くわかってるじゃないか。屋根つきの部屋に住めるだなんて君にはもったいないくらいだからな。じゃあ僕はもう寝るので後は勝手にしてくれ」
自分の部屋に着いて一息つくと、強烈な眠気が襲ってきて僕は数秒で眠ってしまった。
顔がくすぐったくて目が覚める。顔を横に向けるとフェンが枕の上に座り込んでいた。
「起こしてくれたのか」
フェンの頭を撫でながら大きな欠伸をする。さて、今日も一日平凡に過ごすとしようか。
顔を洗うために洗面所に向かう。家にいる時にフェンは必ず僕の後ろをついてくる。フェネック狐は小さい狐だけど、フェンは僕を守ってくれる自慢の相棒だ。
いつものように鏡を覗けば、緑と黄色に意識を持っていかれそうになった。この奇妙な色は僕の目。
緑色と黄色のオッドアイ、本来人間の遺伝子上ではオッドアイなんてありえないそうだ。APの無駄な作用のせいで無駄な設定が増やされた。
「まったく、気味が悪いよね。こんな目を見られたらみんなに引かれる」
僕の愚痴はフェンが聞いてくれるから助かる。意外と聞き上手なんだ。
学校では父に頼んで作ってもらった眼鏡のおかげで、この気味の悪いオッドアイを晒す心配は無い。昼間はあまり目立たないのだけど、保険でつけている。夜に外出する時もあるし。
朝食の時間にはニュースを見るのが日課だ。今日も例外では無い。
今朝のメインのニュースは鳳凰院と言う名家に怪盗が現れたというものだった。どうやら怪盗はジェースリーの部隊を能力を使わずして一人で全滅させたらしい。
うん、もの凄く身に覚えがあります。内容はちょっと誇張されているみたいだけど。
「世の中も物騒になったね」
僕が他人事のようにフェンに語りかけると、フェンは冷めた目で見つめ返してきた。
そんな目で見るのはいいけど、君も共犯だからね。
僕が言いたいことを悟ったのか、フェンは気まずそうに顔をそらす。こんなに人間らしい態度をとる動物を僕は他に知らない。
「そろそろ学校に行くけど、お留守番たのんだよ」
フェンはクワアアと一鳴きすることで返事をした。
僕の通う学校は少し特殊だ。戦闘の技術をメインに学ぶカリキュラムになっている。今の時代は物騒なので、自分の身を自分で守る必要があるんだ。
現在人類の七人に一人がAP能力者。そして、能力者でなくてもAPは誰もが持っている。APにはまだまだ未知な部分が多くあるが、日々研究が進んでるのは確かだ。
僕が通う学校は“私立源流剣高等学校”という名門校である。卒業生には世界的大規模組織ジェースリーの幹部になった人達も多数いる。
一学年にAからGまでの七クラスがあり、Aクラスは特待生のクラス。
僕はBクラスの平凡で地味な生徒だ。成績は中の下ってところ。
あまりよくない成績は最近まで怪盗オタクをこじらせていたせいであって、真面目にやればもっとよくなるはずなのだ。これからは将来のためにも手を抜かずに成績を上げていこうと思う。
学校に着いたときにフェンに餌をやり忘れたことに気づいた。ああ、大変だ。後で謝れば許してくれるだろうか。
教室に入ると中にいた数人が僕に目を向ける。だけどすぐに何事も無かったかのようにそれぞれの友達と会話を再会した。
自分の席に着くと近寄ってくる影が二つ。
「よお清人、今日は一段と疲れた顔をしているな」
「そうかな、確かに昨日は忙しかったけど、今日まで疲れを持ち込んだつもりは無かったよ」
今話しかけてきた男は仲の良い友達の
燃えるような赤髪が所々つんつんと跳ねていて、細く鋭い目つきをしている。
「いい加減その地味過ぎる眼鏡を外せば良いのに。似合ってないにも程があるわよ」
こっちは
ただ、思ったことをすぐに口に出してしまいがち。
肩くらいまでの長さのふわふわした金髪は彼女が動く度に忙しく揺れている。
クラスの中で、この二人だけが僕とまともに会話してくれる数少ない友達だった。
「この眼鏡は気に入ってるから壊れるまでは使うよ」
この眼鏡は僕の気味の悪いオッドアイを隠す役目がある。外したくはない。見られれば、昨日出会った魔女エーテルのように中二病だとか言われてしまうかもしれない。
「それよりも見たか? 今朝のニュース」
「ニュースなら見たよ。悪の組織アポカリプスによって、またどっかの施設が燃やされたらしいね」
「いや、そっちじゃなくて怪盗の方だが」
「……見たけど、それがどうかしたの?」
あまり怪盗の方のニュースには触れたくない。この僕自身が口を滑らせてしまうかもしれないから。
落ち着いて考えてみたら僕がやったことはニュースになってしまうような犯罪行為。以前みたいに夢見るだけならまだ良かったが、実際にやってしまうとシャレにならない。
「どうかしたって、能力者を含めたジェースリーの部隊五十人が一人の無能力者に負けたのよ!」
話に尾ひれが付きまくってるみたいだ。僕が倒したのは精々二十五人位だろう。しかも一応僕も能力者だし。
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