13

「白石さんから呼び出すなんて、珍しいですね」


 シオンが勤めている秋朝探偵事務所は四谷にあるから、俺は新宿まで出て来ていた。新宿は人が多過ぎて、俺は酔いそうになっていた。


「意見が聞きたくてな」


 俺とシオンは、カラオケボックスの一室にいた。他の人間に話を聞かれたくないからだ。


「まだ何も言える状況じゃないですよ」

「連続殺人については、何か分かったか」

「共通項は、殺害方法と、死体の損壊でした。殺害方法は、右の腎臓を一突きです。そして三つの死体は順に、腕、足、胴が無かった。刺殺された後に死体は損壊されたとのことです」

「それで、荻窪で頭の無い死体か。しかし、荻窪の死体は刺殺じゃなかった。関係はあるのか?」


 シオンは注文したオムライスにスプーンを突き刺しながら、俺の言葉に頷く。


「それを確かめる為に捜査してるんでしょう。でも、そんな死体普段なかなか無いですからね。あ、それと、立川の事件ですけど、犯人は逮捕されました。こっちの事件とは関係無いみたいです」


 俺は足が無いあの霊のことを、久しぶりに思い出した。あの後俺の所に来ないということは、多分消え去ったのだろう。


「これで考えることが一つ減ったか」


 俺はそう言ってコーヒーを啜ってから、見沼刑事から聞いた情報をシオンに横流しした。


「母屋の鍵ねぇ。笹崎信彦が犯人なら、何故母屋の鍵を閉めたんでしょう?」

「死体の発見を遅らせる為だろう」

「だとしたら、何故垣内優太郎を殺したんです?」

「息子を助ける為……、助けてないのか」

「ええ。ここだけの話、息子は笹崎大海って名前ですが、その子が死んだと思っていたのでしょうか。いや、頭は裏庭に埋められていた。そこには小屋がある。あんな物、怪しさで言ったら、最上級です」

「でも、実際助けていない」

「犯人が笹崎信彦なら、荻窪の垣内邸に息子が監禁されていると警察に投書したり、通報したりするでしょう。もちろん、匿名でね」

「じゃあ、どうして母屋の鍵を掛けたんだと思う?」

「垣内邸に入った警察を、裏口側に誘導する為、と言うのが、現段階では一番ありそうかな」


 シオンはメロンソーダを口に含んで、オムライスにスプーンを入れた。


「そう言えば見沼は、笹崎家が大変だ、みたいなことを言っていた。あれは、鍵が出ただけなのか」

「どういうことです?」

「他に何か出たんじゃないか。連続殺人の犯人の証拠とか」


 シオンはくつくつと笑って、オムライスを頬張りながら話を続ける。


「そう言えば、垣内優太郎のことは、何か分かったんですか?」

「高校の同級生に話を聞いたが、何も分からなかった。近所の人間は、あまり優太郎を見なかったらしい」

「表の扉のこと、聞きました?」

「あの家は優太郎の父親が建てたそうだが、高校生のときの扉は記憶に残らない程度のものだったと。裏庭は広かったとも言っていた」

「ふぅん」

「あと、優太郎の父親も医者だったそうだ。母親は、優太郎が高校に上がる前に亡くなっている。その同級生は、写真で見て、妖精のようだったと言っていた」

「妖精?」

「髪も眉毛も睫毛も白かったらしい」

「それって、色素が無かったってことですか?」

「多分な」


 シオンはスプーンを持ったまま、固まってしまった。俺は話を続けることにする。


「あと、陽夏の家に行った。星那の物があれば何か分かるかと思ったんだが、空振りだった」

「うーん、防犯カメラの情報が欲しいですね。あとは、星那の友達にも話を聞きたい」

「笹崎家がどこにあるか、知ってるか」

「知ってますけど、さては、入れ替わり説を捨て切ってませんね?」

「お前はどうなんだ」

「探偵は、全ての可能性を疑う必要があるので」


 シオンは口角を挙げたままそう言って、またスプーンでオムライスを掘削し始めた。

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