第6話 一方そのころのブルーたち その2

「え? ダメ?」

「はい……ご期待に沿えず申し訳ございません……」


 ルースがいなくても大丈夫だろうと、適当な気持ちでギルドの受付にやってきたブルーたちだったが、早くも出鼻を挫かれた。


 パーティ名の変更は受け付けられた。『昼行燈』から『栄光を掴む手』へと。随分と大きく出たものだが、パーティ並びに受付嬢を含め、誰からも違和感が出なかったのだから、始末に負えない。誰もがふさわしいと思っているのだ。


 だが、それは別にブルーたちに限ったものでもない。ゲンを担ぐというわけでもないが、『竜を狩るものたち』や『精霊に愛されしものたち』など、根拠も何もなく大盤振る舞いな名前が、冒険者パーティの名前には数多く存在する。


 逆に昼行燈のほうが目立つというものだ。


 こうして、その他大勢に埋もれるようなパーティ名となったのはよかったのだが、本命のメンバー変更に、障害が発生したのである。


 ブルーたちが行ったようなことは、過去にもなかったわけではない。本人の知らないところで脱退させられたり、また逆もしかり。メンバーの才能というか性能は生死にかかわるため、メンバーの構成は冒険者にとって非常に重要になる。


 成り立ち的に、マナーやモラルに欠けがちな者が多いため、ギルドができた当初は本人の意向を無視した変更が頻繁に行われていた。


 そのため、ここでもはじかれた者たちは、やがて仕事に対する熱意を失い、犯罪に手を染めるようなものが続出することになる。しかし、生き残りをかけた者たちも、いつまでも足手纏いを置いておくわけにもいかない。


 そこで、ギルドがとった処置は『入る者と抜ける者をその場に立ち会わせる』というものだった。


 だが、これも不完全なものであることは間違いなく、弱い者は結局、力で言うことを聞かされるという状況には変わりない。


 ただ、知らないうちに追い出されるということだけは阻止できるという、なんとも中途半端なルールのまま改正されることなく現在まで至るのだ。冒険者たるもの、障害は己で乗り越えろということらしい。


「—――というわけでして……」

「……ったく、面倒な話だな」


 変更ルールの話を聞いて、第一声を放ったのはダンク。腕組みしながら心底面倒そうにつぶやく。だが、口にしないだけで、他の三人も似たり寄ったりな顔をしていた。


 もう顔を見なくてもいいと思っていた相手に対して、「手続きが残っているから一緒に来てくれ」というのも、威勢が良かっただけに間抜けさがぬぐえない。


 こんなことならちゃんと顔を突き合わせて、納得づくで抜けてもらうのだったと後悔していたブルーの耳に、フレイヤの声が入ってきた。


「何か方法はございませんの?」

「何か……ですか?」

「だって……あんまり言いたくありませんけど、クエスト中に死んでしまうこともあるわけではないですか。その時はどうやって、追加メンバーを補充するんですか? 死人を連れて来いと言われても無理な場合もあるでしょうに」


 冒険者にしては変な話し方ではあるが、教養を感じさせる指摘をするフレイヤ。確かに、その通りである。


 予期せぬ強敵に遭遇したり、冒険者を襲う賊の存在、ダンジョンの罠にはまって死亡するということもあり得る。


 少し気を抜いたばかりに簡単に死に直結するのが、冒険者という仕事なのだから当然そういったことは日常茶飯事となっている。


 先輩格のブルーたちがそのことを知らないのは、ギルドが説明しないからだった。チームを組もうと意気揚々とやってきた者たちに、わざわざそういった時には一緒に来てくださいねなどと、冷や水を浴びせるのもどうかという配慮である。


 なので、こういったことは普通にちょくちょく起こる出来事だった。


 こういった時、ブルーの決断は意外と早い。フレイヤの疑問をそのままに、仕方ないからアイツを連れてこようと、前向き(?)な提案をしようとしたところで、受付嬢からある提案を受けることになった。


「だったら、ルーズさんを死んだことにしませんか?」

「「「「は?」」」」


 と、とんでもないことを言い出したのである。











 先程の話の続きであるが、もしもクエスト中にメンバーが死亡した場合、新しいメンバーを連れてくるだけで、変更が可能になるのである。


 いつまでも残りの人員でやっていくわけにもいかない。バランスを欠いたパーティで、死亡メンバーが発生したランクの仕事を任せるわけにもいかないので、早急にメンバー補充が必要になるのは自明である。


 そういうところはスピーディな手続きが取られるようになっていた。ハイランクになればなるほど、そういう者たちが停滞することは、ギルドの損害となるからである。


 簡単に言えば、死亡するようなメンバーは慎重さや能力が足りない、それだったら新しくやって来る者に賭けたいという、シビアな現実があった。


 だが、今回のルースがらみの話は、そういったこととは全く別物の話だ。ルースも別に冒険者をやりたくないわけではない。楽に冒険者をやっていきたいだけなのだ。


 それが、ランク昇格試験の拒否ということにつながるわけだが、ただ一人の存在により、上位ランクへの道が閉ざされていた者たちにとっては、ルースなど邪魔なだけである。不満やいら立ちが募っていたメンバーたちは、迷うことなく首を縦に振った。


 ―――――――――――――――


 ※補足


 冒険者とは、元々人の生存圏が狭かったころに、人の住む領域を切り開いた開拓者というものたちが前身となっている。


 ギルドとは、それらを管理していた国の仕事を独立させたもので、今では国の垣根を超えた組織となっている。


 構成人員は主に、農村の余った子供たちや、継ぐべき家がない貴族の三男坊以降、騎士崩れや宮廷魔術師崩れなど。その他訳ありの者たちが大半である。力が必要な仕事であるが、男女の垣根はない。が、性差によるトラブルは、自分でなんとかしろというスタンスである。

 一方で、多大な功績を残した者には、それなりの地位が与えられることもあり、下位貴族の当主などが兼ねている場合もある。


 単騎で絶大な力を持つ者もおり、誰もが認める冒険者を『勇者』と呼び、国から直接仕事が下りてくるようになる。


 なお冒険者としての到達点は勇者となるか、当代限りの爵位を得ることが最高と言われている。そこに男女の別はない。強ければいい、優秀であればいい。そういう考えである。

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