第27話 位階級序列(レグナントクラス)

「な、ん、だと……?」


「……いま、昇様の弟、と言いましたの?」


 比呂弥の口から出た想定外の言葉はレグバンダーの三体のザンナイトの動きを止め、動揺を走らせるのに十分だった。


「あり得ない。もしそうなら、俺たちが聞かされていないのはおかしい」


ザンナイト・セーレがボソリと呟くように言う。


「そ、そうですよわね、私たちは選ばれたレグ様の配下として、【レグナント】における序列第七位(クラス・セブン)・総裁(プレジデント)級を賜ったザンナイトなのですから」


 ザンナイト・マリウスが即座にセーレの言葉に頷いた。


「レグナント?」


 その時の、ザンナイト・マリウスが発した聞き慣れない単語に比呂弥が反応する。それをザンナイト・リオンは見逃さなかった。


「まさか序列を知らないのか? ザンナイトであるのに!?」


 レグバンダーの三体のザンナイトは驚愕した様子で比呂弥を見た。


「それがどうした」

「位階級序列(レグナントクラス)。レグバンダーの中でのザンナイトの格を表すものよ。レグの配下のザンナイトはその能力によって第一位から九位まで九段階の序列(クラス)に分かれて格付けがされるの。一位に近いほど強力なザンナイトということになるわ」


 苛立つ比呂弥にアリルがかい摘まんで説明する。


「ほぉ、そっちの君は知っているのか。ならば、僕たちからも君たちに一つ良いことを教えてあげようか」


 そう言って、ザンナイト・リオンはクイ、と顎で両断されたクローンナイトの骸を指す。


「あいつらは序列最下位の第九位・従騎士(スクワイア)級の雑兵共さ。レグ様のお力を受け止めきれずザンナイトへなりきれなかった半端な存在さ」


「お前らとどこが違う?」


 比呂弥が間髪入れずに言う。その言葉にザンナイト・リオンが激昂する。


「俺たちをあんな雑魚と同じにするなよ! 俺たちは位階級序列第七位(クラス・セブン)! 序列はそのままザンナイトの強さを示す! 序列がひとつ上がるだけでその強さは比べものにならないほど変わるのさ! それが二つも上なんだ! この意味、いくら察しの悪いお前の脳みそでも解るよな?」


「……そうだな」


 少しばかりの沈黙の後、比呂弥はそれだけを呟いた。


「理解できたか? 下等級のお前程度じゃ一生かかっても、あの方たちには届かないんだよ!」


「ああ。さっきの一撃でよく解った。お前たちは兄貴たちよりもだいぶ格下ってことがな」


「瀬尾君」


「こいつらはただの雑魚だ。この程度の奴等に手こずるようじゃ兄貴たちには勝てない。さっさと終わらせるぞ」


「ええ!」


 比呂弥はゆっくりと手に持ったロングソードを構え直す。アリルも戦闘態勢を整えて攻撃の姿勢に移った。


「無知はこれだから厄介だ。僕たちがお前程度に負ける? 下等級風情が、一度の不意打ちを成功させた程度で、いつまでも調子に乗るんじゃねえよっ!」


 口調がそれまでと変わり荒ぶるザンナイト・リオン。その勢いはまるでキレた子供のそれだが、纏うオーラが一気に不気味な色に変化して辺り一面を覆い尽くす感覚を、アリルは装甲越しにビリビリと感じ取った。


「マリウス、セーレ! ここは俺がやらせてもらうぞ!」


ザンナイト・セーレが無言で制する。


「落ち着け、挑発に乗るな、リオン」


「ああ!? 誰にモノ言ってやがるセーレッ! あの野郎は俺が直々に殺すって決めたんだよ! 邪魔するならお前も殺すぞ!」


「それは止めない。だが相手の力を侮るな」


「セーレさんは、あちら様の方が私たちより強いと仰りたいのかしら?」


「セーレ、まさか怖じ気づいたのか?」


「イレギュラー……」


 ザンナイト・セーレがポツリと呟いたその一言に、リオンとマリウスがハッと気づく。


「そういえば少し前にレグバンダー内で噂が流れたことがありましたわね。レグ様に選ばれた存在でありながら従わずに反逆し、処分された異端児のお話。私たちがまだ力に目覚める以前の出来事だったのであまり気にしていませんでしたが」


「何を言い出すかと思えば。昇様自らの手で処分されたって話だろう」


「そうですわ、その時処分されたザンナイトは装甲の色がそれまでに存在してなかった特殊な色で、確か……」


「〝白〟だ。白い装甲を纏った奴は、俺は他に知らない」


 ザンナイト・セーレの言葉にリオンとマリウスがハッと気づく。


「まさか……それが、こいつだとでもいうのか? あれはただの噂じゃ」


「可能性の話だ。そう思って対処した方が良い」


「確かに、あちら様のあの速さは厄介ではありますが、もう見切りましたしね。問題ないでしょう。そうですわよね、ザンナイト・リオン?」


 二体のザンナイトに諭されたザンナイト・リオンは「ふう……」と一呼吸つく。


「……そうだな。〝僕〟としたことが頭に血が上っていたようだ。いくら不意打ちとはいえこの僕に傷をつけたことは事実だ。ここからは遊びは止めて、全力で殺してやる」


 まるで腹の底から湧き上がってくるような笑いを堪えるように、しかしそれは同時に自身の怒りでもあることを自覚したザンナイト・リオンは、冷静さを取り戻して比呂弥に鋭い視線を向ける。


「話は済んだか。なら、早く昇兄貴たちの居場所を教えろ!」


「下等級の分際で、この僕に傷を付けた報い……しっかりと受けてもらうよ」


 ザンナイト・リオンは低く冷たい声色で吐き捨てるように言うと、全身にオーラを纏わせて攻撃の構えをとった。


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聖鎧ザンヴァイル 少年たちの戦場 原作:氷川輝 著:進藤雄太  @hikaru_h

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