第26話 怒れる白き獣
「うおおおォォォッ!」
獣のような咆吼をあげて、純白のザンナイト――比呂弥はザンナイト・リオンへの追撃のため両手にロングソードを抜いて崩れはじめた廃ビルへ突っ込む。
そこかしこで巨大なコンクリ塊が崩れ落ちてくるのも気に留めず、一直線に「敵」目がけて加速する。
ザンナイト・リオンが叩き付けられて突き破った壁をさらに二本のロングソードで抉り壊しながら真っ直ぐに突進する。
そして視界に、瓦礫に埋もれたリオンを発見しさらに加速する。
「レグバンダーは野放しにしちゃいけない。ザンナイトは、全て俺が倒す!」
身動きを封じている瓦礫もろとも吹き飛ばす勢いで、ソードをクロスで構えて超スピードのままザンナイト・リオンに突っ込む比呂弥。
リオンはその斬撃を防ぐこともできないまま食らい、廃ビルの反対側へとさらに吹き飛ぶ。
「う、ぐ、ぐおおおおォォォッ!」
大きなダメージを胴体に受けながらも何とか体勢を立て直して反撃に移るザンナイト・リオンだが。
「! ど、どこに消えた!?」
一瞬の間に視界から比呂弥がかき消えてしまう。
その直後、真横から突然比呂弥が現れ斬撃を繰り出す。
「がァァッ!」
まったく意識していない方向からの攻撃に防御も出来ずまともに食らったリオンはそのまま真横に吹っ飛び、別の建物の瓦礫山へと激突する。
「がふっ!」
フルフェイスメットや装甲の至る所が破損し、下からおびただしい量の血が流れ出てくる。
激痛で身動きが取れなくなったザンナイト・リオンを見下ろしながら、比呂弥がゆっくりと距離を詰める。
と、そこに左右から挟み撃ちにするようにビームと実弾の砲撃が浴びせられる。
「!」
比呂弥は瞬時に両手の剣でガードの体勢を取ると、ビームを回避し実弾のミサイルを叩き落す。
「そこか」
比呂弥は砲撃が放たれた方向へと飛翔する。
「嘘、あれを全部避けられた!?」
ロングスナイパーモードに両肩の武装を変形展開させたザンナイト・マリウスがスコープ越しに驚愕する。
その次の瞬間には比呂弥がマリウスの懐まで接近していた。
「ひっ!」
展開した武装が邪魔で動けないマリウスに比呂弥が斬りかかる。
その瞬間、ザンナイト・セーレが拡散粒子ビームを放ち、比呂弥はマリウスから距離を取らされる。
「助かりましたわ、木暮さん」
武装を通常形態へと変形させ終えたマリウスが礼を告げる。
セーレはそんなことは一切気に留めず、ただ目の前の「強敵」を仕留めることに全意識を集中させていた。
(ふふ……)
思わず心の中で笑みがこぼれるのが分かる。
ゲームの中でしか味わえなかった「強敵」との遭遇。現実の軍隊相手では味わえなかった「命のやり取りを行う緊張感」――。
ザンナイト・セーレ――木暮壌は、超高難度のゲームに挑戦するような高揚感を比呂弥に感じていた。
「やっと出会えた。俺と対等にゲームができる強者に」
「ゲームだと……?」
セーレが言い放った言葉に比呂弥は激昂した。
「こんなものがゲームであってたまるか。ゲームがやりたいなら誰も巻き込まない場所で一人でやっていろ!」
「うはははっ!」
高揚したセーレが両腰に装備された三日月型のビームソードを抜き突進してくる。
比呂弥もこれに応戦し、斬り結ぶ。
剣戟を切り払われたセーレは後方にホバー移動しながら比呂弥の追撃を拡散粒子ビーム砲で迎撃し、さらに視界と距離を取ったところで背中に格納されていた鉄鋼弾を全弾発射した。
「こんなもの!」
しかし比呂弥はこれすらも難なく剣で叩き落すと再びセーレとの距離を詰めるため飛ぶ。
「私のこともお忘れにならないでよ!」
後方からザンナイト・マリウスが両肩に装備した収束型レールキャノンを撃ち込む。
初撃背中向きのまま回避した比呂弥は振り返り、後の砲撃を空中で剣で弾く。
「これならどうですか!」
マリウスはそのままホバー移動でジグザグに移動しながら手首に装備された小型キャノンを連射して距離を詰めるとジャベリンを展開して突進する。
だがこれも比呂弥は受け止めると、セーレがいる方向に調整してマリウスを弾き落とし、そこに二本のロングソードの先端を向けると、剣先が変形し砲門が出現する。
「くたばれ、レグバンダー!」
そのままセーレとマリウス目がけ、光粒子弾を連射し攻撃する。
「ぐうぅっ!」
「きゃあァァッ!」
直撃を受けたザンナイト・セーレとマリウスはともに大きなダメージを受けて動かなくなった。
△
それは時間にすれば僅かな間の攻防だっただろう。
アムルダートのブリッジではクルー全員がその一瞬の攻防に唖然としていた。
「今のうちです、全隊に帰投命令を!」
艦長の春日レインがオペレーターに指示を出す。
通信担当のエミリー・ハッキネンがハッとして全隊へと命令を伝達する。
「全隊、撤退だ。急げ!」
もはや自分たちの出る幕は無いと判断したルークたちも急ぎ撤退行動に移る。
「あれがザンナイト同士の戦いってかよ……マジで、夢でも見てる気分だつうの」
アシュレイが一人愚痴る。
なんと無くだが、ジゼルとシエルも同じ気持ちのように見えた。
「クソ……」
グレイも、自らの力の無さに落胆するように言葉を吐き捨てる。
「行こう、真理香」
フランシス・エミルがまだ戦いの続いている場所を見つめたまま動こうとしない真理香にそっと促す。
真理香はコクンと一回だけ頷く。
(ヒロ君……どうか、無事で戻ってきて)
真理香は心の中で何度もつぶやき、祈った。
△
「はァ……はァ……はァ……!」
「ヒロ……瀬尾君、大丈夫?」
周辺にクローンナイト、タビュライトの反応が全て無くなったことを確認したアリルが比呂弥のもとへ降り立った。
比呂弥は息が激しく上がっており、かなりの体力を消耗しているように見える。
あまり時間はかけていられない。
これ以上の増援が来る前に自分たちも安全な場所に戻るべきだ。
そう判断したアリルは、敵ザンナイトにトドメを刺すため肩の刀を抜く。
見ると、すでにザンナイト・リオンは瀕死の状態であり、ザンナイト・セーレとマリウスも大きなダメージを受けていて動きがかなり鈍くなっている様子であった。
「私がトドメを刺すよ」
そう言ってアリルがザンナイト・リオンに近づこうとした。
その時、比呂弥がアリルを制止する。
「瀬尾君?」
「待ってくれ……その前に、やらなきゃいけないことがあるんだ」
そういうと比呂弥はふらふらとした足取りで瀕死のザンナイト・リオンのもとまで歩き出す。
「何なんだ、何なんだよお前は……!」
ザンナイトの超回復能力があっても、同じザンナイトにつけられた傷はそう簡単には直らないものなのだろう。
必死に立ち上がろうとするザンナイト・リオンの前で比呂弥は立ち止まる。
「トドメを刺す前に訊きたいことがある」
リオンが比呂弥の顔を見上げる。
「あ?」
死の間際にも関わらず、なおも挑発的な態度を取るザンナイト・リオンに、比呂弥は怒りを抑えこみながら話しを続ける。
「兄貴たちはどこにいる?」
「兄貴……?」
リオンは、この男が自分に何を尋ねているのか本気でわからなかった。
「瀬尾昇はどこにいるのかって訊いてるんだ!」
比呂弥が怒りの形相になって叫ぶ。
今にも敵を斬り殺したい衝動を必死に抑えつけているように、呼吸を荒くしながらリオンに訊ねる。
「何故お前が昇様のお名前を……」
その名前が出てきたことが驚きだったのか、ザンナイト・リオンは初めて狼狽した様子を見せた。
「やはりお前たち、元レグバンダーなのか?」
リオンからの問いに、比呂弥は今にも爆発してしまいそうになる怒りを抑えながら答えた。
「俺の名は瀬尾比呂弥。瀬尾昇の弟だった人間だ」
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